地方創生スタートアップセミナーに行ってきました。
正直、「まち・ひと・しごと創生本部」には、違和感と嫌悪感を感じており、ここのお役人がパネラーとなっているので、政策が成功していますというのをPRするセミナーかと思っていました。
でも、「創生本部」HP等を見たりするだけで、ナマの話を聞かずにただ毛嫌いしているのも良くないと思い、渋々出かけたというのが正直なところでした。
しかし、内容は、私の思っていたのとは違っていました。
第1部のパネラーのお話にも、とても示唆に富む内容が含まれていましたし、第2部の実際に地方で新しいことを始められたベンチャーの方々の事例も大変興味深いものでした。
地域に密着、地元で活動というのをやってきいましたが、井の中の蛙になっていたようです。いろいろな意味で目からウロコで、備忘録のつもりでブログを書いておきたいと思います。
でも、まずは、なぜ、私が「まち・ひと・しごと創生本部」に嫌悪感を感じているのかを少し書かせて下さい。
●地方分権はどこに行ってしまったのか
1993年から、「地方分権改革」が行われ、一定の成果を上げたものの、財源移譲などのコア部分に踏み込まれないまま、自然消滅してしまったように思われる。
内閣府の地方分権改革のページを見ると、2014年6月に『個性を活かし自立した地方をつくる-地方分権改革の総括と展望』という報告書がまとめられている。
2014年9月に第2次安倍内閣が改造された折、急遽、内閣官房に、地方創生担当大臣という役職がつくられ(注1)、石破茂さんが就任、「まち・ひと・しごと創生本部」が設置された。
同本部は、人口急減・超高齢化という我が国が直面する大きな課題に対し政府一体となって取り組み、各地域がそれぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会を創生できるようにするために設けられたとされている。
どうやら、「地方分権改革」は、「まち・ひと・しごと創生本部」にバトンタッチした形のようだ。
(注1)第3次安倍内閣からは、「内閣府特命担当大臣(地方創生担当)」となった。
●再び中央からの交付金へ逆戻り
確かに、同本部が手がけているのは重要な仕事ではある。
だが私には、内閣改造前に幹事長であった石破さんと安倍首相との確執?かなにかで、急遽つくられたポストのように見受けられる。
しかし、大臣が就任し、本部が出来れば、日本の優秀な官僚は、仕事をせざるをえない。
早速「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が打ち出され、基本目標として、
①地方での仕事づくり
②東京圏から地方に人口を移す
③若い世代の結婚・出産・子育ての希望を叶える
④時代にあった地域をつくり、地域間連携をする
の4つが挙げられた。そして、全ての都道府県と市区町村に、この方向に沿った地方版総合戦略を策定させ、それに応じて、交付金を与えるというやり方が採られている。
確かに、国が一律に決めた戦略を実施するのではなく、地方自治体からそれぞれの地域に合った独自の計画を出させているという意味では、個性があり、自立性があるといえる。
しかし、私には、「お金をちらつかせ、期限を決め、国が良しと認めなければ交付金が下りない仕組み」は、基本的にかつてのやり方と何も変わっていないように思える。
ともかく計画は出さなければいけないこと、財政に厳しい自治体にとってお金をもらえることから、無理やり作っている計画も多いように見受けられる。
力の無い自治体では、シンクタンクやコンサルタント、大学などが計画策定を請け負っている。実業をやったことの無い人たちが見栄えの良い計画を策定しても、それが本当に回っていくのだろうか。
計画の策定の途中で市民の声を聴くことや計画遂行にあたってPDCAサイクルを取り入れるとなっているが、誰でも知っているように、パブリックコメントも、意見聴取方式も、PDCAサイクルも形だけのことが多い。
●地方創生スタートアップセミナーとは
私が参加したセミナーは、NPO法人ETIC.と日経ビジネススクール、およびローカルベンチャー推進協議会の主催による。
ローカルベンチャーが地域へもたらすインパクトについて啓蒙し、ローカルベンチャーの誕生を支援し、延いては、日本のこれからを変えていこうというもの。これから、地方で何か仕事をしたい人向けのスクールを実施するためのお披露目的なセミナーだった。
300人の席が約1週間で満席となり、お断りしたとのこと。参加者には、私のように、新しい動向をウオッチしていたいという野次馬的な人もいるだろうが、自らも地方で何かやってみたいと思っている人も居た可能性がある。
なお、ローカルベンチャー推進協議会とは、ローカルベンチャーの育成創出を地方創生戦略の柱の一つに据える自治体の広域連携を目的とした協議会で、現在8自治体からなっており、これらの自治体は、実績もあり、本気度の高いところらしい。
約1億円だった林業分野の売上を8年間で8社の林業関連ベンチャーの創出により8億円規模にまで育ててきた岡山県西粟倉村が代表自治体となって呼びかけ、現在、北海道下川町、北海道厚真町、岩手県釜石市、宮城県気仙沼市、宮城県石巻市、徳島県上勝町、宮崎県日南市の計8自治体が参画している(事務局:NPO法人ETIC.)。
●ローカルベンチャーが生み出す地域へのインパクト(第1部)
第1部のパネラーは、村上敬亮氏(まち・ひと・しごと創生本部事務局参事官)、波戸内啓介氏(㈱リクルートキャリア執行役員)、牧 大介氏(エーゼロ㈱代表取締役)、進行は、ETIC.の宮城治男氏。
村上氏は、「創生本部」の人だが、これまでの地方自治体による補助金を得るための事業策定・実施には、疑問を抱いている方のようで、自治体が作成するのではなく、地方で何かやりたい人に企画をつくらせなければダメだというので驚いた。自治体は、そういう人達に自由にやらせる「空気感」を作ること、実施への応援をするべき。やりたい人たちは、好きなことをやるので最後までやり、そうすれば、応援してくれた地域に何かお返ししたいと思うはず。ある程度成功すれば、結果として地域に還元される。最初から「地域のため」でなくて良いのではないかと言っていた。
宮城さんが、村上さんの言われていることは、「創生本部」の資料を良く読むと書いてあるのだが・・と言っていたので、HPの資料とかを探ってみると、「地域しごと創生会議の中間とりまとめ~地域の「創り手」を育むために~」(平成28年7月)というのがあり、ここでは、「民」の力や「人材の育成」などが謳われている。今日のセミナーは、こうした方向に合っているのかもしれない。
行政のことは、良くわからないのだが、こうした方針を挙げるなら、なんで、これまで各自治体に一斉に計画書などを出させたのだろうと思ってしまう。よけいなことに労力と資金を割いてしまったではないのか。行政も試行錯誤してようやく分かったということなのだろうか。
波戸内氏のような仕事(エクゼクティブの仕事紹介サービス)があるだろうとは思っていたが、目の当たりにしたのは初めてだ。都会の大企業間での人材流通だけではなく、地銀とのやりとりのなかで、地方の老舗に後継者がいない、世界市場に売って出たいが人材がいないなどの問題があると知って、都会から地方への流通も始めたという。
その中で、大企業に勤めていて、だんだん地位が上がるにつれ、背負うものも増えてきて縛られている人もおり、「自分は、本当は何をしたかったのか」と自問自答している人もいる。そういう人に、選択肢の一つとして地方で働くことも紹介しているという。地方といっても、山間地もあれば、地方都市もある。アメリカでは、本社がNYで、人事がテキサス、販売がロスというような企業も多い。日本でも、ロケーションフリーな働き方があっても良いと思っているとのことだった。
地方で働くということは、生活の豊かさという面もあるが、やれることがたくさんあるという面もある。大企業では当たり前のことが当たり前ではないことは多く、これまでのキャリアを生かして、変えることができる。地方は、生産性が低いので報酬は低いが、定年退職した人などは、報酬よりも、社会と接点を持っていたいとか、自分が培ってきたものを社会に還元したいという気持ちの方が強い。このように、キャリアを回していきたい。
牧氏は、西粟倉村で「百年の森構想」を手掛け、森林作業の効率化や6次産業化を手掛けてきた。私も、森の再生等に係るプロジェクトとして注目してきたが、前村長の強いリーダーシップで進めてきたことがちゃんと根付くのだろうか、木工製品などがちゃんと売れていくのだろうかなどを懸念していたが、1億円だった売上が8億円になったこと、次々にいろいろな人が起業しにやってきていること、村長が変わっても方向が変わっていないことなどが今回確かめられた。田舎には、掘り起こせる資源がいっぱいある、耕しがいがあるとのことだった。牧さんが西粟倉に長くかかわってきたのは、役場の人達が前向きな人を応援しようという姿勢があることだという。
牧さんは、当初、赤字の観光施設の再生を依頼されてきたコンサルだった。しかし、古いものを再生するよりも、百年の森構想など、新しい価値を生み出すことを提案し、それに村が乗ってくれた、そういう寛容性があったという。山や木が大好きな人、好きだから真剣にやる人を呼んできて、それを支援する。好きだから継続し、次第に本物になっていく。現在は、ローカルベンチャースクールを西粟倉と北海道の厚真町で実施している。
西粟倉村には、全国の日本酒銘柄を揃えた移動居酒屋をやっている女性ほか、100人の移住者が生まれているという。
●自由な空気感、合意形成しない
第1部の話の結論としては、地方を元気にするには、地方にベンチャースピリットを持った人を呼び込むことが一番大事。
そういう人を呼び込むには、「好きなことをやれるんだ!」と思わせる「自由な空気感」が必要。
新しいことを始める人がいると既存の組織や人々との間に軋轢が生じる。それに対しては、配慮はするが、合意形成はしない。合意形成をしようとするとダメになる。そうではなく、結果で見せて、納得させるのが一番良い。
地方自治体は、補助金を得てくるよりも、こうした空気感を作れるかどうかだという。
リチャード・フロリダが『クリエイティブ・クラスの世紀』で、クリエイティブな地域に必要なものとして、3つのTを挙げている。技術(テクノロジー)、才能(タレント)と寛容性(トレランス)である。経済成長に技術と才能が必要ということは昔から言われていたが、ある地域が経済成長するのに他地域ではそれが不可能なのは、地域の寛容性の違いであるという。
本を読んだ頃には、ふうんと思って読み流していたが、今回、改めて「寛容性」が強調されたことに驚いた。
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