チャイコフスキーの《小ロシア》との標題でも知られる交響曲第2番と同じく、小ロシアの民謡を主題に用いたものです。
「小ロシア」とは現在のウクライナに相当する地域を指しており、当時と異なり侮蔑的な意味合いもあるとのことですが、ここでは原題のまま「小ロシア」としておきます。
この作品は1887年に着手されましたが、この年はかの《シェヘラザード》作曲(1888年)の前年にあたり、リムスキー=コルサコフの語るところの「この時期の終りで私の管弦楽法はいちじるしい熟達の段階に達し」つつあった時期にあたります。
同時期に作曲された作品には《ロシアの主題による幻想曲》(1886年)と《スペイン奇想曲》(1887年)とがありますが、リムスキー=コルサコフ自身は、《小ロシア幻想曲》も含めてこれらを一連の作品として考えていたようです。
いずれも民族的な主題を用いた点で共通要素があり、この時期はそうしたスタイルに関心を抱いていたことがうかがえますね。
ところで、《ロシアの主題による幻想曲》《スペイン奇想曲》は両方ともソロ楽器としてヴァイオリンが活躍しますが、《小ロシア幻想曲》ではオーボエを中心として、フルートやクラリネットのソロが活躍します。
フィナーレのピアノスケッチにも、弦のメロディーをオーボエが繰り返すような書き込みがありますので、ひょつとしたら全由にわたって、オーボエをはじめとする木管のソロが入れ代わり立ち代わり登場して、弦との対照を際立たせるような構想だったかも(あくまで推測)。
リムスキー=コルサコフはすでにオーボエやクラリネットと吹奏楽のための協奏曲を書いていましたから、複数の木管ソロの協奏曲的な作品に仕立てようとしていた可能性もあります。
もし完成していれば、《スペイン奇想曲》や《ロシアの復活祭》などには及ばないまでも、親しみやすい旋律に華麗な管弦楽法で仕立てられたリムスキー=コルサコフらしい作品となったと思われるのですが、こればかりは残念としか言いようがありません。
ちなみに楽器編成は、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦五部です。
通常の二管編成からホルンを半減し、 トロンボーン・チューバを省略した形で、金管が薄くなった比較的簡易な編成になっていますね。
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《小ロシア幻想曲》は、同じく未完の作品である交響曲口短調と同様に、ソ連時代に編集されたリムスキー=コルサコフの楽譜全集において、総譜の形で途中までの状態(129小節まで)で譜面化されています。
全集の序文中には、この作品のビアノスケッチが残されているとの記述があり、《ロンド・スケルツァンド》のように曲全体の構成などが判明しているのかもしれませんが、残念ながら当全集では序文中に短い断片が2カ所のみ引用されるにとどまっています。
(同序文には、この作品を分析した詳しい論文について言及がされていますが、ビアノスケッチはそちらに掲載されているかもしれません。)
さて、今回もDTM(デスクトップロミュージック)でこの作品を再現してみましたが、おまけで序文中の断片も加えておきます。
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リムスキー=コルサコフ : 小ロシア幻想曲(未完)
Fragment of the Score
♪未完の断章 MP3ファイル (04:25)
Andante Theme
♪アンダンテの主題 MP3ファイル (00:31)
Finale Theme (The Cossack Danse)
♪フィナーレの主題 MP3ファイル (00:14)