海軍大将コルシンカの航海日誌

ロシアの作曲家リムスキー=コルサコフについてあれこれ

盗賊の歌《昇れ赤い太陽》(その3)

2021年11月28日 | R=コルサコフ
《昇れ赤い太陽》はリムスキー=コルサコフのお気に入りの題材だったと見えて、彼の作品リストにおいては実に3回も登場しているのです。

1回目:40の民謡集(1875)第13曲
2回目:ロシア民謡に基づく15の合唱曲集、作品19(1879)第2部第5曲
3回目:(今回ご紹介したもの)


3回目はユルゲンソン社から出版された合唱愛好者のための曲集に収録されたようですが、詳細は不明。

さて、ここからは妄想ですが、リムスキー=コルサコフは4回目の《昇れ赤い太陽》の活用も考えていたのではないか、私にはそんな気がします。
というのは、彼の未完のオペラに《ステンカ・ラージン》(1906)があるのです。
この作品に、ステンカ・ラージンに関連した《昇れ赤い太陽》を使おうとしていたとしても少しも不思議ではありませんね。

井上和男氏によれば「新しいオペラの構想としては以前から考えていたバイロンの『天と地』とか、《ドゥビヌーシュカ》を用いた《ステンカ・ラージン》をとりあげてみたが、これらには手をつけていないらしい」とあり、《昇れ赤い太陽》には言及されていません(《ドゥビヌーシュカ》を用いた??)。

彼が《ステンカ・ラージン》に手を付けた1906年は、まさにロシア革命が起きた翌年のこと。
音楽院での騒動に巻き込まれて、反体制派の首領のような立場に祭り上げられたリムスキー=コルサコフですが、彼自身は自分の立場を馬鹿らしいと考えていたようです。
彼らしい、幾分冷めた視点で革命当時を振り返っていますが、一時的にせよ「反乱軍の首領」となった彼にはステンカ・ラージンと共感することもあったのではないでしょうか。

盗賊の歌《昇れ赤い太陽》(その2)

2021年11月28日 | R=コルサコフ
盗賊の歌《昇れ赤い太陽》は民謡の編曲ということで、いつものごとく元ネタ探しをしてみました。
題名で検索してみると結構たくさん出てくるのですが、例によって、民謡にありがちな「同じ題名だけど曲が違う問題」がこの曲でも発生。

《昇れ赤い太陽》は有名な民謡で、かのシャリャーピンの愛唱歌にもなっていたようですが、リムスキー=コルサコフの編曲したものとは明らかに違う。
なかなかたどり着けませんでしたが、ロシア語で検索してみてようやく発見しました。

Государственный Академический Сибирский русский народный хор Ты взойди, солнце красное(YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=tgqCwNIJmgk
(曲が始まるのは1:05あたりから)

歌詞は手元の楽譜とは異なる部分もありますが、メロディーはリムスキー=コルサコフの編曲したものと同じ。
改めて人の声で聴いてみると、私たちのイメージするロシア民謡とは違って、温かみのある、南の国の歌という感じです。

《昇れ赤い太陽》はステンカ・ラージンを唄った民謡のようなので、彼の活躍した(暴れた?)カスピ海沿岸の雰囲気を漂わせているのでしょうか。

盗賊の歌《昇れ赤い太陽》(その1)

2021年11月28日 | R=コルサコフ
私がリムスキー=コルサコフに関心を持ちはじめて間もない頃、三省堂『クラシック音楽作品辞典』に掲載された彼の作品リストを眺めて、未聴の音楽がどのようなものかを思い巡らすのが密かな楽しみでしたが、その中の一つに「盗賊の歌《昇れ赤い太陽》」という男声含唱の作品がありました。

この合唱曲は現在でも録音がありませんが、その当時は、手がかりとしてはこの辞典に記載されたわずかな文字情報しかなく、しかし「盗賊の歌」などという魅力的な題名から、私は子供の頃によく聞いたNHK「みんなのうた」の《山賊の歌》か、あるいは「宇宙海賊キャプテンハーロック」のシブい男声合唱《さすらいの舟歌》のような曲ではないかと勝手に想像していたものです。

先日、この「盗賊の歌《昇れ赤い太陽》」の楽譜をようやく入手することができました。
はやる気持ちを抑えて、早速さわりの部分をMIDIに入力してみると(音色はひとまずピアノに設定)、間こえてきたのは自分のイメージとは全然違う、まるで「あさのバロック音楽」のような雰囲気の曲でした...。

それはそうと、とりあえず入力作業を完了。自分のMIDI音源ではコーラスの音色がしょぼいので、フルート、クラリネット、ファゴットの三重奏風に設定してみました。
曲はほぼ全く同じ内容で3回繰り返されます。

Song of the Highwaymen "RISE, RISE, YOU BEAUTIFUL SUN..."
盗賊の歌《昇れ赤い太陽》

  Arrangement for Flute, Clarinet and Fagot (MP3)
  ♪フルート、クラリネット、ファゴットでの演奏 MP3ファイル

この曲をはじめにピアノの音で聞いたせいもあるでしょうが、ふと気がついたのは、この作品(1884年)には、リムスキー=コルサコフが1870年代後半にバッハなどの作品研究を通じて対位法のマスターに躍起になっていた頃の作曲技法の後遺症が、もろに残ってしまっているのでは無いか、ということです。
正直なところ、この《昇れ赤い太陽》でも内声部や低音部が凝りすぎというか器楽向きというか、少なくとも含唱作品としてはあまり調和がとれていないように感じました。

リムスキー=コルサコフは当初「五人組」の若き作曲家として活躍していましたが、自分の知識の不足を恥じた彼は、ペテルブルク音楽院の教授に就任してから(!)音楽理論の習得に努める一方で、ほぼ同時期にロシア民謡の収集・編曲を行い、さらに民謡などを元にした合唱曲集を相次いで世に出しました。
しかし、彼自身はこの時期の合唱曲について、例によって厳しい自己批判をしており、「私が完全に夢中になっていた対位法を優先しすぎたがために、合唱曲の多くは重々しく、演奏するのがするのが困難で、無味乾燥なものもある」と記していて、欠陥があることを認識していたようです。

ともあれ、アカデミックな書法が、民謡の世界にも明瞭に痕跡を残していたことがわかったのは面白い発見でした。