【交響曲ロ短調の草稿】(Rimsky-Korsakov. My Musical Life. Knopf. New York, p.88 )
リムスキー=コルサコフの交響曲ロ短調(1866~1869)は、交響曲第1番の完成後に「第2番」として着手されたものです。
この作品については、作曲者が五人組の仲間たちと手紙でいろいろとやりとりをした形跡が残されていますが、結局バラキレフをはじめ友人たちを満足させることはできず、未完成のまま放置されてしまいました。
その結果、彼の作品目録にはよく知られている《アンタール》が交響曲第2番として残ることになったのです。
リムスキー=コルサコフといえば、オペラや《シェヘラザード》のような華麗な管弦楽曲の作曲家というイメージがありますが、少なくともその作曲家人生の当初は交響曲に、しかもこの未完成のロ短調交響曲に伺えるような、かなり本格的な作品を書こうとしていたようです。
第1楽章の冒頭は作曲者自身が語っているとおり「ベートーヴェンの第9交響曲の出だしを彷彿」とさせるものです。
ところが、第1主題の部分は立派でカッコいい作品を書こうという意気込みが空回りをして、いろいろな細工を施しているものの効果が上がらず、まとまりが悪いというような印象を受けます。
口さがない方なら「背伸びしすぎ」とおっしゃるでしょうけど、リムスキーびいきの私でもこの意見には同意してしまいそうです。(汗)
第2主題になると多少リムスキー=コルサコフらしさが表れてきます。
これはキュイのオペラ《コーカサスの虜》の合唱の旋律に類似してしまったが、カンタービレの部分はより独自性が表れたと本人が語っています。
リムスキー=コルサコフの歌劇《雪娘》をご存知の方なら、ミスギールの歌に転用された旋律だということがお分かりになるでしょう。
交響曲ロ短調は、第1楽章が途中まで総譜の形で出来上がっている外は、断片的なスケッチが残されているにすぎません。
当然、他の作曲家によって補筆され、演奏や録音がされるといったこともなく、知られざる作品となっているのですが、リムスキー=コルサコフの初期の作曲活動の有り様を考える上で重要な痕跡であると言えるでしょう。
ちなみに楽器編成は、フルート3、オーボエ2、クラリネット(A)2、ファゴット2、ホルン(D,C)4、トランペット(D)2、トロンボーン3、ティンパニ、弦五部となっています。
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第1楽章は第1稿(202小節)と第2稿(97小節)があります。
両者にそれほど差違はないようなので、今回作成したのは長い第1稿の方です。
楽譜の202小節目で終わるとちょっと中途半端なので、その後数小節を私が勝手に付け足しました(最後の第1主題の繰り返し部分)。
楽譜にはこの交響曲の他の素材として、アンダンテとフィナーレの主題がピアノ譜の形で掲載されていましたので、これらもおまけでアップしておきました。
アンダンテは楽器の指示はされていませんでしたが、ホルンの演奏にしてあります。
《スペイン奇想曲》第2楽章や、ホルン四重奏の《夜想曲》とはまた違う、夕暮れ時ののどかな田園風景を連想させるような素晴らしいメロディーです。
フィナーレは弦で演奏させていますが、途中の分散和音はピチカートにして躍動感を強調しました。
なにしろ聞いたことのない作品ですから、怪しいところはかなりありますが、まあこんな作品なのかということがおわかりいただければ幸いです。
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Nikolai Rimsky-Korsakov : Symphony in B minor (unfinished)
リムスキー=コルサコフ : 交響曲ロ短調(未完)