海軍大将コルシンカの航海日誌

ロシアの作曲家リムスキー=コルサコフについてあれこれ

サキソフォーン四重奏による《弦楽四重奏曲ヘ長調》作品12

2020年10月12日 | 室内楽曲
ネット徘徊をしていたら珍しい作品を見つけました。
ご紹介するのは、リムスキー=コルサコフの2作ある「弦楽四重奏曲」のひとつ目、ヘ長調の作品のサキソフォーン四重奏によるアレンジ版です。

Nikolai Rimsky-Korsakov - String Quartet in F Major, Op. 12(YouTube)
Arya Saxophone Quartet

I. Moderato alla breve
https://www.youtube.com/watch?v=xgq7aurahQI

II. Andante moderato
https://www.youtube.com/watch?v=9RZYNlsmRKE

III. Scherzo. Allegretto vivace
https://www.youtube.com/watch?v=Mz5X2BGgzrM

IV. Finale. Allegro con spirito
https://www.youtube.com/watch?v=Gw_JjSTV5RY

リムスキー=コルサコフの弦楽四重奏曲ヘ長調は、なぜか昔から第三楽章のみサキソフォーン四重奏にアレンジされたものが演奏されることがあり、私もリリック弦楽四重奏団によってオリジナルの弦楽四重奏の形でCDがリリースされるまでは、サキソフォーン四重奏の第三楽章のみを知っているような状況でした。

今回のArya Saxophone Quartetのアレンジは、第三楽章以外も含めたフルセットです。
リリック弦楽四重奏団では(実は)一部カットされている第四楽章もオリジナルの形で演奏されています。
(スコアを見ながら細かく確認したわけではありませんが、多分そう)

作品をオリジナル以外の楽器にアレンジされたものを聴くのは結構楽しくて、表情が違ってくるのはもちろんですが、オリジナルでは埋もれてしまっている旋律がはっきりと聴き取れたりすることもあり、あらたな発見があったりもするのですね。

今回の演奏はどちらかといえば「やわらかい」感じで、第三楽章を除けばこの作品の雰囲気にマッチしていると思いました。
特に第二楽章は、はじめはこの曲の特徴であるピチカートが無くて少し締まらないかなあと思いましたが、曲が進むにつれ、まったりとした感じがなんともいえず心地よいものでした。


『管絃楽法原理』(その2)

2020年10月02日 | 著作
『管絃楽法原理』(邦訳)は二分冊になっており、「Ⅰ」が本文、「Ⅱ」が実例となっています。
本文にはもちろん管弦楽法に関する技術的な内容が記されていますが、私のような者には、むしろリムスキー=コルサコフの記した序文のほうがおもしろく読めるのです。

ここには彼の管弦楽法に関する哲学がよく表れているからなのですが、内容によっては管弦楽法だけでなくわれわれの日常の生活や仕事にも当てはまることがあるように感じます。

以下いくつか抜き出してみました。
【出典】『管弦楽法原理』(小松清訳/創元社刊)より 。

楽器編成は創造である。そして人は創造することを教えることは出来ない。

人々は極めて単純な事実に対して、あまり厳密に哲学的な、または過度に詩的な意味を与える。古今の偉大な作曲家の名前に尊敬の念を惹き起こされて、時によると凡庸な例を良い例として示し勝ちである。用いられている技巧の不完全さや或はその他のことでたやすく説明できるような疎漏や無知に対して、その人たちは幾頁にもわたる苦しい説明を試みて、欠点のある楽句を弁護したり、時には礼賛さえもするのである。

作曲家の当然為すべき筈の努力は、演奏者に課せられる無益な努力よりも価値がある。

作曲家は自分の意向を意識していなければならない;そして他人の作品を編曲する人は作曲家の意向を洞察しなければならない。

欲するだけでは充分でない:欲するに適しない事物もある。



特に最後の「欲するだけでは...」は、もちろん管弦楽法に関する知識や技術に関する言葉なのでしょうけど、いろいろと拡大できそうです。
つまらない物欲や、どうでもよい対人関係なども、「欲するだけでは...」と今一度振り返っていると案外必要ないことが分かったりしないでしょうか。

 



『管絃楽法原理』(その1)

2020年10月01日 | 著作
リムスキー=コルサコフの名著とされる『管絃楽法原理』(邦訳)を入手しました。
海外では「Principles of Orchestration」のタイトルで現在も版を重ねているようですが、邦訳は私の知る限り、太平洋戦争を挟んで数回刊行されたのちは久しく絶版となったままです。



彼の主な著作としては、この『管絃楽法原理』のほかに、自伝と『和声法要義』があり、いずれも邦訳があります。
自伝も『和声法要義』も『管絃楽法原理』同様、戦後しばらくまでは刊行されていましたが、現在では古書でしか入手することができません。

私も『管絃楽法原理』は手に入れたい書籍ではありましたが、これは自伝や『和声法要義』と違って結構な価格で取引されており(数万円ほどの場合もざら)、なかなか手出しができませんでした。
そこで、もう30年以上も前になりますが、私は公立図書館にあった『管絃楽法原理』を借り出し、大学のコピー機でひたすらコピーしまくったものです(本が傷むので本当はよくないのでしょうけど)。
そのコピーは、今でもファイルに綴じて大切に保管しています。

芥川也寸志のエッセイだったか、当時の日本の作曲家はリムスキー=コルサコフの『管絃楽法原理』でオーケストレーションを学んだとか。
現在では音楽関係の書店で見かけることはなく(絶版なので当たり前ですね)、残念ながらわが国ではこの分野での教科書としての立場は完全に廃れてしまったようです。

廃れた理由として何かの本で読みましたが、譜例として引用しているリムスキー=コルサコフ自身の作品は、《シェヘラザード》や《スペイン奇想曲》などのよく知られた管弦楽曲以外に、ほとんど知られていない歌劇からのものが多く、ロシア以外の学習者にはあまり役に立たないことが一因としてあったようです。



これもうろ覚えですが、海外のある作曲のコンクールで、審査員の一人が講評で「リムスキー=コルサコフをもっと学ぶべきだ」というようなことを言っていたことがありました。
このような発言が出てくるくらいですから、『管絃楽法原理』の地位の低下は日本に限ったことではないようです。

とはいえ、ネット社会が進行するのと合わせて彼の『管絃楽法原理』も再び脚光を浴びているような感じもします。
まずオンラインで「Principles of Orchestration」を紹介する英語のサイトをご紹介します。
このサイトは、本文の記述に合わせて譜例とその音楽が同時に学べるという優れもの。
(原著にはないモーツァルトやチャイコフスキーの譜例もあります。)

Forum: Principles of Orchestration
Principles of Orchestration by Nikolay Rimsky Korsakov online orchestration course - Garritan Interactive

管弦楽法云々は実は私にはよくわからないのですが、譜例に示されたリムスキー=コルサコフの知られざる作品(の断片)を聴けるというのは、マニア的には結構うれしいものでした。
全曲盤のない歌劇《セルヴィリア》の譜例は数例しかありませんが、何回も繰り返し聴いたものです。

さて『管絃楽法原理』は絶版となったままと書きましたが、最近(といっても数年前)になって、オンデマンドによる新訳が発売されているようです(私は未入手)。

管弦楽法の基本 (日本語) オンデマンド (ペーパーバック)
Nikolai Rimsky-Korsakov(amazon.co.jp)

「試し読み」を覗いてみましたが、翻訳が現代語に改められており読みやすくなっているのではないでしょうか。
もっとも、私などは旧仮名遣いの、ところどころ読めない字が登場する文章を通じてリムスキー=コルサコフ像が形成されてしまっていることもあり、新訳の「やさしい」文書で読むとかえって違和感を感じてしまったりします。
ぜいたくな悩みですね。