【第3場】
――市民広場にラッパが鳴り響く。
皇帝ネロの使者である布告役人が現れて、陛下がパンアテナ祭のために剣闘試合などを開催すると市民に告げる。
市民は口々に皇帝ネロ万歳と叫ぶ。
彼らは、陛下は武芸に秀でているだけでなく、東方からもたらされた忌まわしい迷信をも断ち切ったのだと称える。
第3場は、暗い雰囲気から一転して、市民が皇帝ネロを讃える合唱主体のにぎやかな場面になります。
この場からしばらくは古代ローマの祭礼を中心に、スペクタクル的な要素の強い舞台が展開されて行きます。
まず市民広場に布告ラッパが鳴り響きます。
布告ラッパは、楽譜ではトランペットIの奏者がソロで舞台上で奏するように指定されていますが、布告ラッパのパートとは重複しないものの、本来のオーケストラのパートもこなさなくてはならないので、指定どおり舞台上で吹くなら、別にのソロの奏者を用意しなければ、Iの奏者は舞台とオーケストラピットを行ったり来たりしなければならず、結構大変そうです。
布告ラッパは3度繰り返されますが、その都度ローマ市民のモチーフが弦で応えます。
ここは、ラッパの音に市民が気付いて、ざわめきが広がっている様子を表しているように聞こえますね。
布告ラッパに続き布告役人(テノール)が、ネロ皇帝は陛下の神聖なる意志を市民に伝えるため、私を使わせたと言うと、市民は「ネロ・アウグスト陛下万歳!」と叫びます。
布告役人はさらに、陛下は女神ミネルヴァの栄光を祝う、市民と幸福を分かち合うため、パンアテナ祭の期間中は剣闘試合や見せ物を劇場で開催するようにとお命じになったと語ると、市民は再び「ネロ・アウグスト陛下万歳!」と叫びます。
その後ファンファーレが鳴り響き、先ほどの市民の皇帝を讃えるフレーズを間に挟みながら、様々な職業集団が順にネロを自らの職業における神などになぞらえて讃えていきます。
ここでは市民の合唱と職業集団の斉唱が交互にロンド形式のように進みますが、歌詞もちょっと面白いと思うのでご紹介しておきます。
まずは近衛隊(テノール斉唱)。無敵のローマ軍団の司令官たるネロを軍神にたとえて「ネロ・マルス陛下万歳!」は、わかりますが、次の剣闘士達(バス斉唱)は「陛下はライオンを素手で押さえつけた」として、「ネロ・ヘラクレス陛下万歳!」と続きます。しかしこれはさすがに言い過ぎの感がありますね。
最後の楽士達(ソプラノ斉唱)は、「陛下の天恵の声と竪琴は、いのちのないものにも生命を吹き込み、石をも喜びで震えさせたのだ。ネロ・アポロン陛下万歳!」と流れるように歌います。これもまあおべっか使いですが、史実としてのネロも劇場で詩や竪琴を披露していたそうですから、こうした称賛がひょっとしたら当時本当にされていたかもしれません。もっともネロの舞台はアポロンにはほど遠く、退屈なものだったようですけど。
もうひとつここで私が興味深く思うのは、ファンファーレは1回目は金管、2回目は木管主体で奏されていることです。
同じ旋律を別の楽器で演奏するのは、リムスキーの作品では頻繁に登場しますが、少し詳しく書くと、ファンファーレははじめトランペット2本のフォルテで奏されて、2回目はフォルテのホルン4本で補強された、オーボエとクラリネット2本ずつのフォルテシモに変換されているのです。
ここでのように、2回目を木管に置き換えてなぞろうとした場合、オーボエとクラリネットを使ってトランペットに似た音を作り出せばすむということでなく、音強上も拮抗するためには、ホルン4本の応援も必要ということを実例として示していて興味深いです。
管弦楽法においては、こうした楽器の違いによる音強の調整というのも重要なテーマであるようですね。
さて、市民らのネロ讃歌はなおも続き、布告ラッパの旋律がトランペットに続いて木管で短く奏されたのち、ホルンによるファンファーレに乗せて、全員で「われらが陛下はすべての神々よりも崇高である」などと盛大に持ち上げます。
しかし盛り上がりはスフォルツァンドにより一転。
不安を表すような上下行の音型に乗せて、市民は口々にキリスト教に対する不安を言い出します。
ここの音楽はかなり複雑で、MIDIで音符の打ち込みをしていたときも相当手こずったことが印象に残っていますが、それもやがて解消されて行き、陛下は木のように枝を広げて行くキリスト教の根を斧で断ち切ったという合唱で、第3場は締めくくられます。
モスクワ室内音楽劇場の公演では、舞台にネロの肖像が映し出され、これを市民らが讃えるという演出で、月桂樹の冠をかぶったティゲリヌスが陛下の名代として登場する形となっていました。ティゲリヌスは、前半のネロを讃える合唱では得意満面の笑みを浮かべて舞台の周囲をめぐっていましたが、キリスト教のことが市民から出てくると、戸惑った表情を浮かべ動揺している感じをさり気なくですが良く出していて感心したものでした。
――市民広場にラッパが鳴り響く。
皇帝ネロの使者である布告役人が現れて、陛下がパンアテナ祭のために剣闘試合などを開催すると市民に告げる。
市民は口々に皇帝ネロ万歳と叫ぶ。
彼らは、陛下は武芸に秀でているだけでなく、東方からもたらされた忌まわしい迷信をも断ち切ったのだと称える。
第3場は、暗い雰囲気から一転して、市民が皇帝ネロを讃える合唱主体のにぎやかな場面になります。
この場からしばらくは古代ローマの祭礼を中心に、スペクタクル的な要素の強い舞台が展開されて行きます。
まず市民広場に布告ラッパが鳴り響きます。
布告ラッパは、楽譜ではトランペットIの奏者がソロで舞台上で奏するように指定されていますが、布告ラッパのパートとは重複しないものの、本来のオーケストラのパートもこなさなくてはならないので、指定どおり舞台上で吹くなら、別にのソロの奏者を用意しなければ、Iの奏者は舞台とオーケストラピットを行ったり来たりしなければならず、結構大変そうです。
布告ラッパは3度繰り返されますが、その都度ローマ市民のモチーフが弦で応えます。
ここは、ラッパの音に市民が気付いて、ざわめきが広がっている様子を表しているように聞こえますね。
布告ラッパに続き布告役人(テノール)が、ネロ皇帝は陛下の神聖なる意志を市民に伝えるため、私を使わせたと言うと、市民は「ネロ・アウグスト陛下万歳!」と叫びます。
布告役人はさらに、陛下は女神ミネルヴァの栄光を祝う、市民と幸福を分かち合うため、パンアテナ祭の期間中は剣闘試合や見せ物を劇場で開催するようにとお命じになったと語ると、市民は再び「ネロ・アウグスト陛下万歳!」と叫びます。
その後ファンファーレが鳴り響き、先ほどの市民の皇帝を讃えるフレーズを間に挟みながら、様々な職業集団が順にネロを自らの職業における神などになぞらえて讃えていきます。
ここでは市民の合唱と職業集団の斉唱が交互にロンド形式のように進みますが、歌詞もちょっと面白いと思うのでご紹介しておきます。
まずは近衛隊(テノール斉唱)。無敵のローマ軍団の司令官たるネロを軍神にたとえて「ネロ・マルス陛下万歳!」は、わかりますが、次の剣闘士達(バス斉唱)は「陛下はライオンを素手で押さえつけた」として、「ネロ・ヘラクレス陛下万歳!」と続きます。しかしこれはさすがに言い過ぎの感がありますね。
最後の楽士達(ソプラノ斉唱)は、「陛下の天恵の声と竪琴は、いのちのないものにも生命を吹き込み、石をも喜びで震えさせたのだ。ネロ・アポロン陛下万歳!」と流れるように歌います。これもまあおべっか使いですが、史実としてのネロも劇場で詩や竪琴を披露していたそうですから、こうした称賛がひょっとしたら当時本当にされていたかもしれません。もっともネロの舞台はアポロンにはほど遠く、退屈なものだったようですけど。
もうひとつここで私が興味深く思うのは、ファンファーレは1回目は金管、2回目は木管主体で奏されていることです。
同じ旋律を別の楽器で演奏するのは、リムスキーの作品では頻繁に登場しますが、少し詳しく書くと、ファンファーレははじめトランペット2本のフォルテで奏されて、2回目はフォルテのホルン4本で補強された、オーボエとクラリネット2本ずつのフォルテシモに変換されているのです。
ここでのように、2回目を木管に置き換えてなぞろうとした場合、オーボエとクラリネットを使ってトランペットに似た音を作り出せばすむということでなく、音強上も拮抗するためには、ホルン4本の応援も必要ということを実例として示していて興味深いです。
管弦楽法においては、こうした楽器の違いによる音強の調整というのも重要なテーマであるようですね。
さて、市民らのネロ讃歌はなおも続き、布告ラッパの旋律がトランペットに続いて木管で短く奏されたのち、ホルンによるファンファーレに乗せて、全員で「われらが陛下はすべての神々よりも崇高である」などと盛大に持ち上げます。
しかし盛り上がりはスフォルツァンドにより一転。
不安を表すような上下行の音型に乗せて、市民は口々にキリスト教に対する不安を言い出します。
ここの音楽はかなり複雑で、MIDIで音符の打ち込みをしていたときも相当手こずったことが印象に残っていますが、それもやがて解消されて行き、陛下は木のように枝を広げて行くキリスト教の根を斧で断ち切ったという合唱で、第3場は締めくくられます。
モスクワ室内音楽劇場の公演では、舞台にネロの肖像が映し出され、これを市民らが讃えるという演出で、月桂樹の冠をかぶったティゲリヌスが陛下の名代として登場する形となっていました。ティゲリヌスは、前半のネロを讃える合唱では得意満面の笑みを浮かべて舞台の周囲をめぐっていましたが、キリスト教のことが市民から出てくると、戸惑った表情を浮かべ動揺している感じをさり気なくですが良く出していて感心したものでした。
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