巨象に挑む沖縄 名護市長選で札束選挙を続ける安倍政権
2018年2月 2日 10:00
巨大な象に蟻が戦いを挑む構図――それが沖縄県名護市で行われている市長選挙の実態である。
先月28日に告示された名護市長選挙は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の辺野古移設に反対し、3選を目指す現職の稲嶺進市長(72)=民進、共産、自由、社民、沖縄社大推薦、立憲民主支持=と、移設容認派の新人渡具知武豊元市議(56)=自民、公明、維新推薦=の一騎打ち。
推薦団体の多さでは、翁長雄志沖縄県知事率いる「オール沖縄」が支援する現職に軍配が上がるが、新人を支えているのは政権与党とその別動隊。自民党は菅義偉官房長官、二階俊博幹事長といった大物を現地入りさせてテコ入れを図る一方、31日には人気者の小泉進次郎筆頭副幹事長が名護市内3か所で応援演説に立つという、国政選挙並みの対応だ。
新人候補を勝たせるために国の予算を握る政府・与党が、米軍再編交付金や「振興予算」をエサを総力戦を展開しているのだから、普通なら現職に勝ち目はない。だが、名護市内を取材してみると、どう見ても互角の戦い。なぜ、巨象は圧勝できないのか――。
■安倍政権が狙う辺野古移設の既成事実化
稲嶺氏は現在2期目。4年前の市長選では、その前年の暮れに仲井真弘多知事(当時)が、政府が提示した毎年度3,000億円という沖縄振興策と引き換えに辺野古沿岸部の埋め立て申請を「承認」したことに、カネで顔をはたかれた形の県民の怒りが爆発。
対立候補の応援に入った石破茂幹事長(当時)が名護市発展のための財源を確保すると称して500億円の地元振興基金構想をぶち上げ、露骨な利益誘導を行ったことで、さらに地元有権者の反発を買い、約4,000票の差をつけて稲嶺氏が勝利した。名護市の民意は「移設反対」。この時の選挙結果が、同年秋に行われた沖縄県知事選挙における翁長知事圧勝への導火線となった。
安倍政権の辺野古移設強行に徹底抗戦する稲嶺名護市長と翁長知事。辺野古移設反対運動は、このラインが生命線で、どちらかがつまずけば一気にしぼむ可能性がある。裏を返せば、稲嶺氏が3選を果たしさえすれば、政府は「辺野古移設反対」の民意を無視することが一層難しくなるということだ。
なんとしても移設工事を進めたい政府・与党としては、直近の名護市長選挙を制し、翁長県政に打撃を与えることで「オール沖縄」の弱体化を狙いたいところ。県と法廷で争いながら、強引に工事を開始するなど既成事実を積み上げてきた。だが、移設に反対する名護市長や沖縄県知事は健在だ。
■破綻している政府系候補陣営の論拠
「反対しても国には勝てない」→「すでに工事は進んでいる」→「まずは交付金をもらった方が得」→「稲嶺市長が交付金の受け取りを拒否したから暮らしが良くならない」。これが移設容認派=新人の元市議陣営による主張の論理構成である。しかし、政府の地域振興策が軍用機が飛び交う状況や墜落事故のリスクを受け入れるのと引き換えである以上、沖縄の負担が減ることはない。現在、普天間基地所属のオスプレイは20機ほどだが、辺野古に滑走路ができれば100機を超えるのが確実。危険性は飛躍的に増大するが、万が一大きな事故が起きた場合、政府や米軍が責任をとる保証はない。
米軍普天間基地所属機が起こした事故は、一昨年12月から今月までの約1年間に13件。そのうち10件は沖縄県内で発生している。今年に入っても事故は多発しており、那覇市内の保育園や小学校には軍用ヘリの部品が落下するという「事件」も起きた。しかし、保育園への部品落下については米軍が否定したまま“うやむや”にされており、被害にあった保育園が逆に嫌がらせを受けるという信じられない状況だ。この事態に政府がやったことは、口頭で米軍に抗議しただけ。政府独自の事故検証さえ行なっていない。沖縄を捨て石とみなしてきた安倍政権が、本気で名護市民を守るはずがない。
もう一点、見落とせないのは、交付金の受け取りを拒否してきた稲嶺市政で市財政は悪化しておらず、「黒字」になっているという事実。交付金がなくても、人口約6万人の市政は、うまく運営されている。政府系候補は「給食費の無償化」を打ち出しているが、振興交付金は使途が限定されており、土建屋が喜ぶ事業には使えても給食の材料費に化けることはない。政府系候補陣営の主張の論拠は、ことごとく破綻している。
■筋違いの現職批判
新人陣営の運動員や選対事務局に取材してみると、「移設工事が進む現状では振興予算をもらった方が得。交付金の受け取りを拒否している稲嶺市政は、暮らしに目を向けていない」と口をそろえて批判する。だが、この主張は選挙という民主主義を理解しない言いがかりだ。前回も今回も、稲嶺氏が市長選で掲げた最大の公約は「辺野古移設反対」。名護市民は、その公約を是とし稲嶺市政の継続を認めてきた。当然、移設容認を前提とする振興予算の受け取りは拒否しなければならない。名護市民は、交付金を拒否することを承知の上で、名護の自然と自分たちの安全を守るという選択をしたのである。つまり稲嶺氏は公約を厳守したまでで、これを批判するのは筋違い。政府与自民党と新人陣営は、民主主義の基本が分かっていない。それは、公明党も同じだ。
前回自主投票だった公明党・創価学会は新人候補支援でフル回転。取材中、「名護市に一大リゾートを造り、発展させる」とがなり立てて走る公明党の街宣カーに出会った。この政党のばら撒き体質にはうんざりだが、米軍基地の建設にまい進する同党に、平和の党を標榜してきた頃の面影はない。「恥を知れと」言っておきたい。
■「夢よもう一度」は幻想に終わる
普天間の移設先である辺野古を歩くと、1970年代まで栄えた「基地の街」の現在の姿を目の当たりにする。下の写真は、かつて「アップルタウン」と呼ばれ、一晩中ネオンに照らされた辺野古の今だ。
辺野古移設を容認する政府系候補陣営は、地元住民の心の底にある「夢よもう一度」という思いを巨額の交付金と振興策で揺さぶっている。しかし、米軍が将来にわたって沖縄の基地を維持していくというは幻想。名護市民は、ベトナム戦争終結とともに、さびれていった辺野古の歴史を知っているはずだ。悪名高き「原発交付金」にも言えることだが、迷惑施設の受け入れと引き換えに得るカネが、地元の発展に結びつくことはない。地域の力は、確実に落ちると断言しておきたい。
辺野古にあるキャンプ・シュワブのゲート前では、選挙期間中も反対派が警察から暴力的に弾圧される状況が続いている(下の写真参照)。選挙の手法も、政権ぐるみで嵩にかかる新人陣営に対し、現職陣営は、民主主義を守ろうと全国から集まった支援者と名護市民の体を張った活動だけが頼りだ。辺野古移設を強行する政府・与党の権力は強大で、まさに巨象。政府側から見た移設反対派は、「蟻」に等しいものだろう。それでも名護市長選は互角の戦いで、横一線の状況だという。
戦後、本土は米軍基地を押し付けられた沖縄のおかげで平和を謳歌してきた。国に挑む沖縄に、本土の私たちは応援のメッセージを送るべきではないか。
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