http://mainichi.jp/opinion/news/20141215k0000e070323000c.htmlより転載
社説:衆院選 「冷めた信任」を自覚せよ
毎日新聞 2014年12月15日 06時13分(最終更新 12月15日 13時11分)
高揚感なき信任である。衆院選で自民党は絶対安定多数を確保し、与党で3分の2以上の議席を維持した。国会での1強構図は続き、安倍晋三首相は国政を担う新たな基盤を得た。
追い風も逆風も感じられなかったが、結果はほぼ一方的だった。消費増税先送りを理由とした解散の大義には疑問がつきまとい、争点がつかみにくい選挙は異常な低投票率に沈んだ。それが厚い地盤を持つ組織型の政党に有利に働き、与党の議席を積み上げた。
2年前の衆院選で政権から転落した民主党をはじめ、野党は受け皿となる構想を示せなかった。この間の自公政権の運営がかつての民主党政権よりも比較的安定していたとの評価が勝因だろう。
だが、この審判で「安倍政治」全般が信任されたわけではない。
衆院選は本来、外交、内政全体にわたり政権公約を競う選挙だ。ところが急な解散のうえ、首相は「この道しかない」とアベノミクスの是非に争点を絞り込んだ。
原発再稼働の是非、超高齢化・人口減少社会での社会保障のあり方、特定秘密保護法による情報管理などさまざまな課題はほとんど語られずやり過ごされた。集団的自衛権の行使を認めた憲法解釈の変更の是非すら与党は正面から提起しなかった。
肝心の経済政策にしても格差の拡大を含め、本当に議論が尽くされたと言えるだろうか。国民の多くは景気好転を実感していない。野党から具体的な対案が示されない以上、「成果を待とう」と期待をつないだのが実態だろう。
だからこそ、首相は何もかも授権されたかのように民意をはきちがえてはならない。有権者の約半数しか投票に参加しない選挙であり、国会での優位が続くとはいえ自民党は公示前の勢力よりわずかに数を減らした。
小選挙区は実際の得票率以上に多数派への議席集中を起こす制度だ。勝者にはいたずらに「数」を用いぬ節度が求められる。首相の悲願である憲法改正も公約の約300項目のひとつに含めたからといって、国民の賛意の表れとみなすことはできない。決め手を欠く成長戦略や財政の健全化に、今度こそ結果を出すことが、第3次内閣に課せられた使命であろう。
それにしても民主党など野党の不振は深刻だ。共産党が気を吐いたとはいえ、低投票率は政権に批判的な人の多くが棄権した結果でもある。国会で監視機能を果たせるか、このままでは心もとない。建設的論戦を挑めぬようでは議会政治の根幹が揺らいでしまう。
わが国はかつて政党政治が機能不全を来し、やがて戦争への道を歩んだ苦い歴史がある。野党が頼りにならなければ、自民党政権が行き詰まった時に政治が誤った方向に走りかねない。
戦後最低の投票率はそれほどに危うい。投票率を回復するために何が必要か、今後政党が総力を挙げて取り組むべき課題である。