内閣法制局「天皇の生前退位は憲法改正が必要」に南野森教授・木村草太教授がダメ出し
天皇陛下の生前退位の問題に関連して、8月22日にテレビ局のニュースが、「内閣法制局が天皇の生前退位は憲法改正が必要と主張している」と報道しました。
それは、「憲法第1条で天皇の地位は日本国民の総意に基づくと定めていて、天皇の意思で退位することはこれに抵触するという理由」だそうです。これは呆れてしまいました。
・天皇生前退位 制度化は「憲法改正が必要」|日テレ
この点、内閣法制局のあげている憲法1条は、
日本国憲法
第1条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
第1条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
という条文です。明治憲法1条が「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」と戦前の日本が天皇主権であることを明記しているのに対して、現行憲法1条の最大の目的は、「主権の存する日本国民」の文言にある通り、戦後の日本が国民主権であることを表すことにあります。
(芹沢斉など『基本法コンメンタール[第5版]』15頁、芦部信喜『憲法 第6版』44頁)
そのうえで、1条は日本国および日本国民統合の象徴としての天皇の「地位」は、その主権者たる日本国民の総意(=意思)に基づくとしています。
つまり、内閣法制局があげている「国民の総意」とは、主権者たる国民の意思が象徴天皇という地位、つまり象徴天皇制を認めているという意味です。
そこで、具体的に天皇には誰がどのようになるのかといった皇位の具体的・手続的な内容は、憲法2条が「国会の議決した皇室典範に定めるところによ(る)」としています。
つまり、憲法が規定しているのはここまでなのであり、皇位に関するより具体的・手続き的な事柄は皇室典範という名称の法律に委ねられています。(憲法2条があえて「国会の議決した皇室典範」という文言を用いているのは、皇室典範を憲法でなく法律のひとつであることを明確化するためです。)
ですから、生前退位を認める・認めない、認めるとしてどのような方式で行う等を決めるためには憲法を改正する必要はありません。国会が淡々と皇室典範の改正を行えばよいだけです。
なお、このテーマに関してはヤフー・ニュースに九州大学の憲法の南野森先生が寄稿されていました。憲法の通説だけでなく、これまでの政府の見解についてもわかりやすく解説されており、政府見解からみても、今回の内閣法制局の主張が無理筋であることがよくわかります。
・生前退位に憲法改正は必要ない|南野森九州大学教授
ところで、本日夜にツイッターにおいて、南野先生がこの寄稿の告知のツイートをされているところ、何と首都大学の憲法の木村草太先生が、引用リツイートで加勢をしていることを目撃し、驚いてしまいました。
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「学説の中には、退位は憲法上できないんだという説もないこともないのですけれども、通説としては、憲法上その退位ができるかできないかは、法律である皇室典範の規定に譲っている」(真田法制局長官答弁・昭和53年3月16日参院予算委員会)
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あっという間に結成された気鋭のオーソドックスな憲法学者2名の連合軍から速攻で「ダメ出し」をされてしまったわけですが、内閣法制局や安倍政権はこの劣勢をどうひっくり返すつもりなのでしょうか。
政府が再び西修氏などを引っ張り出してきても、とても勝てるとは思えません。
また、内閣法制局といえば、内閣が国会に提出する法律案を審査したり、法律問題に関して総理その他の大臣に意見を述べる等の業務を行う「法の番人」とも呼ばれる重要な部署です。それが、どうしても改憲がしたいという安倍政権の使い走りとなって、このような子ども騙しの主張をしてくるのは非常に残念です。
あっという間に結成された気鋭のオーソドックスな憲法学者2名の連合軍から速攻で「ダメ出し」をされてしまったわけですが、内閣法制局や安倍政権はこの劣勢をどうひっくり返すつもりなのでしょうか。
政府が再び西修氏などを引っ張り出してきても、とても勝てるとは思えません。
また、内閣法制局といえば、内閣が国会に提出する法律案を審査したり、法律問題に関して総理その他の大臣に意見を述べる等の業務を行う「法の番人」とも呼ばれる重要な部署です。それが、どうしても改憲がしたいという安倍政権の使い走りとなって、このような子ども騙しの主張をしてくるのは非常に残念です。