K.H 24

好きな事を綴ります

短編小説集 GuWa

2021-10-05 14:07:00 | 小説
第弍什話 (婚)外 ※閲覧注意 性的描写あり

「サヨちゃんに先越されちゃいました、もう結婚なんて無理ですかね」
「何言ってんの、まだ二〇代でしょ、大丈夫よ、ここで出会いがあるかもよ」
「そうですね、まだ、諦めてはいけませんね」
 
 三年前までは同じ会社の同僚だった、来年三〇歳を迎えるアリサと結婚一〇年目でアラフォーのヒデミが、もう一人の同僚でいちばん若いサヨの披露宴に招待されていた。
 
「それにしてもヒデミさんとマサトさんは安定なさってる感じですもんね、相変わらずスーパーでの買い物はお二人で、羨ましいです」
「たまに会うわね、まぁ、日曜日で一週間分の食材を買い溜めするから一人では荷物がね、喧嘩する程、会話もないだけよ」
 ヒデミは結婚して直ぐにセックスレスになったことまではいえないでいた。
 
「えっ、僕はもう少しやることがあるから先に寝てていいよ」
 ヒデミとマサトが結婚をして、ひとつ屋根の下に収まると、ほぼ毎晩、マサトは趣味の風景写真の編集に費やした。
「そうじゃなくて、私だって」
「どうした、体調悪いの、熱はなさそうだよ、一週間の疲れがたまってるのかな、明日は君のお母さんの誕生会なんだら早めに休んだほうがいいよ」
 マサトはヒデミの首に右手の甲を当てて体温を確かめると、直ぐディスプレイに顔を戻し、冷静さを崩さなかった。
 一方、ヒデミはそれまで疼いていたが、そうやって透かされると萎えていた。
「はい、おやすみなさい」
 結婚を機に同居し物理的に近くなった二人は、心がついて行けず、徐々に徐々に遠ざかっていった。その距離のなかには気恥ずかしさもあるのだか、それさえ気がつかず、互いにの気持ちを言葉で表現しきれずに、いつぞや不信感までも湧き上がり、益々、セックスに目を向けることを避けていった。
 
 そもそも、マサトとヒデミは情熱的な部分があって、結婚前は会える日になると、夕食を外で共に済ませ、どちらかの部屋に行き玄関へ入るや否や抱き合い、唇を重ね舌を絡ませ脱がせ合い、マサトが乳房と乳首を愛撫し始めてヒデミが息遣いを荒立てると互いの性器を愛撫しあい、ベッドへ辿り着く前に、窓の外から注がれる弱い人工の光が、更に、二人を燃え上がらせて、時にはヒデミから時にはマサトから、ヴァギァナとペニスの繋ぎ合わせを声に出して求め合った。立位のままに前から後ろから、マサトが床でヒデミが騎乗し、ヒデミが四つ足でマサトが腰を手で止めて、と。
 それに追随して、二人の性器から湧き出る体液は床や壁等を汚してしまうことは少なくはなかった。落ち着いた後、二人で綺麗にするのも二人の秘事として楽しんだのだ。
 
「ヒデミさん、二次会はどうします、私、ヒデミさんが行かないなら行きませんけど、サヨちゃんの職場の人とか同級生ばかりで、一人で行くのも」
「一緒に行こう」
 ヒデミはアリサの哀しげな表情を察し、二次会を付き合うことにした。
「ありがとうございますヒデミさん、実はですね、お手洗いの帰りに誘われちゃったんですけど、二次会の会場に行ってその人がいなくなってたらって思って」
「こら、アリサ、まぁいいわ、あなたにとっていい出会いになるかもしれないしね」
「流石ヒデミさん」
 
 二次会の会場は薄暗く雰囲気の良いカフェバーを貸切にしていた。アリサは周囲には気づかれないように胸を躍られていた。
「ヒデミさんマティーニでいいですか、私とってきますよ」
「気が利くわね」
 ヒデミはアリサが落ち着いていないのを直ぐに気がついた。
 アリサとヒデミはマティーニをゆっくり時間をかけて味わいながらサヨのウエディングドレスの話から、ヒデミの披露宴の時のこと、アリサが夢見る披露宴の話しをしていた。これは、アリサがあの男性へ期待する気持ちが溢れ出ないように抑え込むための故意的な策略だった。ヒデミはそれに気づいていて、一生懸命話しをしてあげた。
 
「恐れ入ります、ご一緒させてもらって構いませんか」
 二次会が始まり三〇分も経たないうちに、ヒデミとアリサのマティーニが半分も減らないうちに、あの男性が現れた。
「はい、どうぞ」
 アリサは少し表情を強張らせていて、ヒデミがその男性を誘った。
「初めまして、ヤマギワといいます。カズオ君が僕の会社の担当をしてくれてて、お世話になってるのに、披露宴まで招待してくれて」
 ヤマギワはアリサとヒデミに名刺を差し出した。
「初めまして、僕もヤマギワと同じ会社です」
 ヤマギワは二人できていて、二人目の男性の名刺にはCEOの文字が刻まれ、オクデラナギサと綴られていた。
 アリサがサヨの前の会社の同僚だと説明し、緊張を解すようにした。
 四人の男女はこの場ではマイノリティーであることに意気投合し会話が弾んだ。
「やっぱりお忙しくて、行き違いが原因だったんですか」
 オクデラがバツイチであることを知るとアリサはこの場にも酔わされ大胆になっていた。
「そうなんですよ、突然、前妻は家を出て行ってですね、誤解を解く島もありませんでした、子供ができてると違ったのかもしれませんがね」
「そうですよね、子は宝とは夫婦関係に於いても言えますよね。」
 ヒデミはオクデラもセックスレスだったろうと捉え、しみじみとそう口にした。
「いやぁ、僕は経営することが好きで、社員やそのご家族も喜んでもらえるように頑張っていて、家事も率先して手伝ったんですが、流石に身体はひとつなものだから、会社、家の仕事が終わるともうぐったりになって」
 オクデラは嫌味なく恥ずかしげに、しかし、楽しそうに喋っていた。
「そうなんですよ、オクデラさん、我々にも社長なんて呼ぶな、みんなで同じ目線でやっていくんだってのがその頃の口癖で」
 ヤマギワは尊敬の念を込めて言葉を付け加えた。
「素敵な話ですね、師弟関係、漢同士の友情ですかね」
 アリサはキュンとして、それくらいのことしか言葉にできなかった。
「オクデラさん、同じのでいいですか、ハヤシさんとムラカミさんはマティーニで」
 オクデラとヒデミは頷いた。
「ヤマギワさん、二人で行きましょう」
 数分も経たないうちに、ウエイターがマティーニとバーボンのロック、チェイサーを運んできた。
「あれ、あの二人」
「ヤマギワさんが披露宴でアリサに声をかけたみたいですよ、抜け出したのですかね」
 オクデラは納得した表情でグラスに口をつけた。
 
 少しの間沈黙が流れた。
 
「ハヤシさんはお子さんは、お身体悪くされたんですか」
「いや、身体は大丈夫だと思いますが、まぁ、病院に係ってないので、実際のところは」
「でも、子育てしにくい社会になったんでしょうね、きっと、ほんと近所付き合いも減ってますもんね」
 オクデラは少し哀愁を漂わせた。
「そうですね、二人とも働いてるので、子供が欲しい気持ちはありますけど、恐らく、今だと、子育ては私一人になりそうなので、オクデラさんは独りで頑張ってらっしゃるんですね、凄いですよ」
「いやぁ、会社を経営させてもらってるのがありがたい限りです」
「傍には誰もいらっしゃらないの」
 ヒデミはその哀愁に艶やか波をたてた。
「いやぁ、もういいかなって思ってます。あの時は頑張り過ぎました。会社をやっていくのは楽しいんですけど、家族を作るのは駄目でした、育ちが悪いから」
「都合のいい関係ってどう思われます」
 ヒデミは、アリサとヤマギワが抜け出したのに感化され心を開いていった。
「テレビドラマで都合のいい女、なんて言葉を耳にしたことがありますが、そんな女性って少ないように思うんです、ほんとに男女が都合よくってのを理解しあえば成り立つように思いますけど、だから、気があって、しっかりコミニュケーションが取れてって男女じゃないと、ん、この時代、男女じゃないですね、同性であっても、深いプライバシーを見せ合うというか、分かち合うというか、個々が社会での関係性を上手く築いていく冷静さ、巧みさ、勇気を生み出すことができるのであれば、善じゃないですかね」
「深みがありますねオクデラさん、こんな私ですが、試してみません」
 二次会の開催時間が半分過ぎようとした時、ヒデミとオクデラも抜け出した。
 
 ヒデミはオクデラとホテルの一室に入ると、オクデラの胸の中に身体を埋めた。
「ハヤシさん、落ち着きましょ、汗を流してさっぱりしましょ、先ずは」
 とても甘い声に聞こえた、焦った自分に恥じらいを抱かさない甘い感じだった。
「そうですね」
 ヒデミは目を潤ませて、オクデラを見上げた。同時に腹部に硬い膨らみも感じた。
 
 オクデラから先にシャワーに入り、次いでヒデミがシャワーから出てくると、部屋は薄暗くなっていた。
 腰に巻いたタオルをオクデラが外し、全裸で近づいてくると、ヒデミも胸の上まで巻いたバスタオルを床に落とした。抱き合った。唇が重なり合う時間は短く、舌がからみあった。優しく、ゆっくりと。
 ヒデミはオクデラの素肌に当たる乳首が硬くなるのを覚えると、腹部に硬いペニスが押し付けられるのを子宮で感じとり、膣のなかの湿り気が増していくことまで分かった。いつのまにか、ベッドの側まで移動していた。
「オクデラさん、気持ち良い、抱いて」
 耳に息を吹きかけるようにした。
 
「そうなんです、私、レスられてしまって、私にも非があるとは思っているんですけど、なかなか」
「その気持ち分からなくはないですよ、もしも、今後、僕たち二人が同じ時間を共有することがあるのであれば、大切にしていきましょう。とても充実した時間でした」
 
 ヒデミの婚外恋愛が始まった。今後どういった事態になるのか、誰もが分からない、でも、お互いに傷つけ合わないようにしたいと思うばかりだった。
 
 終

短編小説集 GuWa

2021-10-04 07:12:00 | 小説
第什玖話 希
 
 何年振りかに告別式へ参列したサキハルは、悲しい気持ちが蘇っていた。
 それは交通事故で亡くした両親を弔い、数年は経っていたものの、幼馴染のセイジの父親のユウジの葬儀だったからだ。

 サキハルの頭のなかには、両親を弔う時に葬儀屋や親類とで、悲しみや悔しさを忘れるくらいにバタバタと慌ただしく準備を進め、葬儀のウラ側は心得ていたが、弔問客として訪れてみると、全く肌感が違うものだとは予測できないことだった。
 尚香の列に並んでいると、ご婦人達が口元を軽く手で隠し、コソコソ話ばかりで耳障りであり、また、黒タイであるが故に、キリッとした社長のような風格を漂わせ、姿勢正しく振る舞う初老の男性達からは温かみを感じれず、マニュアル重視の催しで決められた所作を如何にスムーズに熟すかを競っているように見えた。
 サキハルはそんな無機質な目上の人達の振る舞いを、葬儀のウラ方の苦労や感情を抑え込む辛さを分かっていないという見解が後押しし、他人の世知辛さを嫌悪し、悲しい記憶が想起していた。
 
「ハルちゃん、わざわざ来てくれたんだね、ありがとう、元気にしてた」
 尚香を終え、葬儀場の敷地から出で行こうとネクタイを緩めていると、セイジが駆け寄ってきた。
「おお、ユウジおじさん残念だったな、頑張って余命を伸ばしてたのにな」
「年齢的には大往生じゃないとは思うけど、病との闘いで二年も生き長らえたから、俺としては大往生だよ、最後の一年は一〇年分の話や家族で色んなところに行けたからね」
「そうだったんだ、俺は漸く会社を立ち上げて、親父が残した物を管理して行くよ、セイジ落ち着いたらうちに顔出せよ、酒でもやろうや」
「うん、分かった、じゃあ戻るよ、絶対ハルちゃんちにいくから、旨い酒、準備しててよ」
 
 葬儀場の雰囲気とは反し、ユウジはサキハルへ爽やかさを感じさせた。父親の死を受け入れていると安定した情動が伺えた。
 
 ユウジの父は三年前に胃がん末期を告知され、余命一年と宣告された。丁度その半年後、サキハルの両親は交通事故にあった。悲惨な事故だった。高齢ドライバーのアクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違いによる事故だった。
 
「セイジいらっしゃい、初七日が終わったな、お疲れさん、さぁ、入れよ」
「ふう、久し振りだハルちゃんちにお邪魔するの、おう、模様替えしたの、ハルちゃんの空間って感じだな」
 セイジは初七日の翌日、夕方にロング缶の缶ビール六本パックをて土産にサキハルの内装を変えた自宅へやってきた。
「まだ、一年はたたない、親父とお袋の民事裁判が漸く終わってさ、心機一転したんだ」
「なるほど、民事も上手くいったの」
「ああ、だいぶ心削られたけどな、要求額の五分の四はぶんどってやったかな」
「へぇ、大変だったね、でもハルちゃんもう呑んじゃってるの」
「そだそだ、乾杯しようや乾杯ユウジおじさんを弔わせてくれよ、冷蔵庫にキンキンに冷えたのあるから、セイジがもってきなのは冷やしておこうや」
 男二人が台所の大型冷蔵庫の前に立つ.似つかわしくない光景が時を流れた。
 
「ハルちゃん、何時から呑み始めてるの」
「朝起きてからかな」
 乾杯をした後に、サキハルの酔い具合が結構深いとセイジは気がついていた。
「好きだねぇ、ハルちゃんは」
「酒は百薬の長だからな」
 そんな調子で二人の会話が始まった。
 
「セイジ、就職決まったのか」
「まだだよ、父さんの看病というか、一緒にいる時間を増やしてたから就活はしてないんだ、父さんを優先させたよ」
 特に、話し出すきっかけはなかったが、サキハルはセイジの将来を心配していた。反面、セイジは父親のために時間を費やしたことへの後悔はなく、清々しい気持ちでいた。
 
 ユウジの四九日に線香をあげに行ったサキハルは香典返しを受け取っていないでいて、それに気がついたセイジは、翌日、届けにいった。
「ハルちゃん、今日も呑んでんの、昨日だって酒臭かったよ、だからこれも忘れていって」
「おう、すまんすまん、わざわざ持ってきてくれたんだ、まあ上がれよ」
 リビングは埃ひとつない程にピカピカで、ソファーの前のテーブルには上品な長方形の皿に、食べかけではあるものの、綺麗に盛られたクリームチーズとカラスミがあり、その傍にはひやの日本酒が入った茶碗と、更に、その傍には一升瓶があった。
「ささ、旨いぞ、呑んでくれ」
 サキハル食器棚から同じ茶碗を持ってきた。
「身体に悪いよ、あっ、でも、旨いや、えっ」
「ただ見てるだけ、アテのひとつだよ」
 セイジは目の前の五〇インチの画面に、セクシー女優の静止画が映っているのに気がつくと辺りをキョロキョロした。
「ハルちゃん、いつもこんな感じなの、酒に呑まれっぱなしなの」
「あ、旨いだろ、俺はね嫌なことはやんねぇの、人生何が起こるかわかんねぇ、だから好きなことをするんだよ」
 サキハルは満面の笑みだが、なんとなく、悲しい感情も漂わせていた。
「そうか、そうだね。収入の心配はないもんね、四棟だったっけ、マンション」
「一棟は相続税が半端なかったから売ったけどな、でも、後三棟はちゃんと管理してるよ、自分で、今朝も掃除してきた、平日は毎日してる、あっ、お前就職まだ決まらねぇよな、どうだうちの社員になってくれんないか、経理でおばちゃん二人いるんだけどさぁ、今度、運用部を作ってさぁ、売ったマンション取り返したいんだ」
 サキハルは無数の企画書のファイルをテープルの下の棚から取り出した。
「セイジ聞いてくれ、病は気からなんだよ、旨いもんを好きなだけ喰って呑んで、程良く好きな仕事をして、確か、長寿の人のアンケートで一位が摂生してる人達で、二位は好き勝手してるってデータがあるんだよ、長生きには興味ないけど、一度っきりの人生だ、俺は二位の生き方を選んだんだ、でもよう、一人で出来ることには限界があるからさぁ、手伝ってくんない」
「へぇ、ハルちゃん、それにしてもこの計画はシンプルにまとまってるね、うん、そうだね、一人でやるにはしんどいかも、二人なら余裕持てるかな」
「だろう、それで儲かれば先ずは、経理のおばちゃんらからボーナス上げてよぉ、労働時間は短いけど、それぞれの旦那さんの収入超えを狙うのさ」
 サキハルは得意げになっていた。
「楽しい考えだなぁ」
 セイジはつられて、白い茶器の日本酒が三杯目になっていた。
 
 大学を卒業するとセイジはサキハルの会社に入った。あの企画書を好き勝手に進めていった。二年後には、経理のおばちゃん達は各々の旦那さんより年収が上回った。五年後には障がいを持った子達が暮らしたり、通ったりする施設へ寄付をするこおができるくらい余裕ができた。
 
「これがドンペリか」 
「今日はこれを食らおうぜ」
 サキハルとセイジは、それぞれ一本づつボトルを持ち、そのまま口をつけていった。
 テーブルにはキャビアとクラッカーが皿に盛られ、ドンペリの未開封の瓶が数一〇本も無造作に置かれていた。
 
 終