福岡県東峰村に有る岩屋神社は、6世紀に建てられた古い神社だ。
近くには山岳修行の霊場として知られる英彦山があるが、岩屋神社もその修行場の一つだった。
神社の一帯には火山活動とその後の風化によって作られた奇岩が並んでいて、独特の雰囲気を漂わせている。
これほど険しい岩場での修行は、かなり厳しいものだったろうと、想像させる厳粛な風景だ。
そんな岩屋神社のご神体は大きな岩である。
言い伝えによれば、西暦547年に空から光輝く大きなものが降ってきたという。
これを祀る為に社殿を造ったのが神社の興りだという。
このご神体は「宝珠石」と名付けられた。
宝珠とは仏教用語で、どんな願いも叶う不思議な宝石という意味だ。
古くから重要視されていた様で、鎌倉時代の文献には英彦山へ修行に行く者は、必ず宝珠石に祈らなければならないと記されているほどだ。
しかし、その正体は謎に包まれている。
今まで誰も実物を見たことがないという禁断の石なのだ。
なぜなら、宝珠石は決して見てはならず、そのタブーを犯した者は目がつぶれてしまうと言われているからだ。
だから、宝珠石は常に薦(こも)で覆われているのである。
閏(うるう)年には薦を取り替える「薦替えの儀」が行われるのだが、この時も人々は宝珠石を目にする事はない。
神事にしばしば用いられる常緑樹の榊をくわえ、目隠しをした状態で作業を行うからだ。
昔は闇の中で作業が行われたらしい。
ここまで徹底した掟が守られていると、言い伝えも妙にリアリティが増す様である。