一旦、別れてまた合流する川の
ように、彼女の中から懐かしさ
が溢れ出す。それは長く忘れて
いた感覚で、出会いの頃の息苦
しいほどのときめきを伴って
いる。
帰って来たのは私の方だと彼女
は気付く。男に初めて会った、
あの日の自分に。
肩の力がふっと抜けた。喜びが
体の筋々に伝わって、ゆっくり
筋肉を弛緩させてゆく。
涙に濡れた顔が和む。舌が甘や
かな言葉を紡ぎだす。
―――そうだわ、明日、残り
の折りヅルをみんな燃やして
しまおう。もう、私には必要
がないだもの。
だって、私の中に灯が点った
のだから―――
夜明けの鏡はガスの災を優しく
映している。涙に曇った彼女の
目には、白いセーターの胸の
真ん中あたりが、ぽおっと
緋色に染まって見えた。
“楽しいだけが恋じゃない、
歓びだけでもない、楽しい
分だけ苦しみや危険がとも
なう、
それが当たり前。生きた形態が、
塑像(そぞう)として見えるた
めには、深い影を必要とするの
と同様に、
困難や危険や涙がともなうから、
恋がきらびやかでもあるわけだ”
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だれかが風の中で 木枯し紋次郎
https://www.youtube.com/watch?v=HPo5yTbpcKs