※この漫画をフェイスブックに投稿したら、ジャパンタイムズの記者エイミーさんに気に入ってもらい、ロケットニュース24で紹介してもらいました。
英語のみ
http://en.rocketnews24.com/2014/09/25/kamishibai-the-precursor-to-manga-and-anime/#more-183292
むかし、ある村にコウマン吉という豚がいました。同じ村にいる他のブタと比べても、特に目立った違いもない、ごく普通の平凡な豚です。役者ならば「その他大勢」といった役しか回ってこないタイプです。
その方が、豚にとっては(時には人間も)一番楽な生き方だと思うのですが。下手に目立つと命を縮めることもあります。
でも、残念ながら、コウマン吉にはそのことが全くわかっていませんでした。
「普通なんておもしろくない。おいらは特別な豚になりたいんだ。でもどうすれば普通を越えられるんだろう」 と、毎日、思い悩んでいました。
そうしてある日、特別な豚になるための素晴らしい方法を思いつきました。
それは、実際に起こったことを少しばかり脚色して仲間に伝えることです。
まず最初に長老豚のところに行き、その方法を試してみました。
コウマン吉は、得意な顔で、長老豚にこんな話をしました。
「田吾作さんが米を作ってるだろ。そいでさ、田植えするのに人手が足りないって言ってたの聞いたんだ。そんだから、おいら、田植えを手伝ってやったんだよ。身体中、泥だらけんなって大変だったけんどさ、おいらのおかげで田植えが早くできてよがったぁって田吾作さん、大喜びさ。おいら、田植えができるんだぞ。すごいだろ」
でも、実際にコウマン吉がやったことは、田んぼの中に入って田吾作さんがせっかく植えた稲をぐちゃぐちゃに踏み荒らして全部台無しにしてしまったのです。
長老豚はびっくりした顔でコウマン吉を見ていました。その驚いた表情から、自分は長老からも一目おかれたのだと思いました。それに気をよくしたコウマン吉は、次に雌豚たちのいるところへ行って、こんな話をしました。
「田吾作さんの奥さんがさ、リンゴの木を育ててるだろ。それでアップルパイを作りたいけど、忙しくってリンゴを採りに行く暇がないって聞いたんだ。だから、おいら、奥さんんの代りにリンゴをたくさん採ってきて、そんでもってアップルパイを作るのも手伝ってやったんだ。奥さん、すっごくおいしいのができたって大喜びさ。すごいだろ。おいら、アップルパイができるんだぞ」
でも実際にコウマン吉がやったことは、台所のかごに山積みしてあったリンゴを全部食い荒らしてしまったのです。それは田吾作さんの大好物のアップルソースを作るためにとっておいた大事なリンゴです。奥さんは、怒りとショックでその場にへたり込み、泣き出してしまいました。
雌豚たちは何も言わずにコウマン吉を見つめています。
雌豚たちの表情から、これは尊敬のまなざしだと思ったコウマン吉は 増々気分がよくなりました。
次の日も、またその次の日も、そんな話をあっちこっちで吹聴していましたが、やがてそれだけでは飽き足らず、もっともっと特別な豚になりたいという欲が出てきました。
今まではただ話を聞かせるだけでしたが、今度は本当に自分はすごい豚なんだということを見せつけてやろう、そう思ったコウマン吉は、何か良い方法はないかと数日間、考えました。
そうしてある晴れた日の朝、村はずれの山にある一番背の高い杉の木の周りに豚たちを集めました。
一体何事が始まるのかと不思議な顔で集まってきた豚たちの前に立ち、コウマン吉はこう言いました。
「今朝は、お忙しい中、おいらのためにお集まりいただき、誠にありがとうございます。ええっと、エヘン(と咳払い)。さてみなさん。おいらは見ての通り、外見は普通の豚だけど、みんなも知ってるように、今まで普通の豚にはなかなかできないことをたくさんやって田吾作さん夫婦からも大変感謝された。でも、それだけで満足しては、普通の豚にちょっと毛が生えた程度だと思うんだ。そこで、おいらは、もっと上を目指そうと思ったわけなんだ。それで今日、みんなに集まってもらったわけなんだが。今からおいらはこの木に登ろうと思う」
そこまで言うと、豚たちからどよめきが起こりました。
「お静かに、おしずかに。驚くのも無理はないと思うけど、心配はご無用。いままで木に登った豚は世界中どこを探したっていないだろ。おいらは今から、木登りのできる世界に一匹しかいない特別の豚になるんだ。君たちはその最初の目撃者というわけだ。どうだい。すごいだろ」
演説が終わると、コウマン吉は木に飛びつき慎重に手足動かして登り始めました。下で見上げている豚たちの表情は様々です。不安な顔。驚いた顔。薄ら笑いを浮かべた顔。あきれ返った顔。
コウマン吉は木にしがみつき太った体を上に上にと持ち上げていきます。登るにつれ、短い手足がしびれてきました。こんなバカなことをするんじゃなかったと、コウマン吉は初めて後悔しました。どうせ木の上の方は他の豚たちには見えないのだから、枝の間に毒蛇がいたとか適当な理由を付けてこの辺で木登りはやめようか、とあれこれ自分に都合の良い理由を考えていると、下からこんな声が聞こえてきました。
「コウマン吉は豚の中の豚! おまえならできる! イヨッ! スーパー豚! もっとのぼれ! もっと登れ! イケイケドンドン! 登れ 登れ! 天まで登れ!」
他の豚たちから煽てられ馬鹿にされているとも知らず、コウマン吉は木にしがみついてにんまりしました。
「おいらはスーパー豚だ!」
急に元気を取り戻したコウマン吉は、ついに杉の木のてっぺんまで辿り着きました。下を見ると、他の豚たちの姿がかなり小さく見えます。小さすぎてどんな表情なのかはわかりませんが、皆、上を向いていることはわかりました。その姿から、自分は神のように崇められているのだと思いました。
コウマン吉はしばらくの間、木のてっぺんで最高の優越感に浸っていました。下を見ると、他の豚たちが上を見ながら指をさしています。自分に向けて手を振っていると思ったコウマン吉は、同じように片手をあげて応えました。でも、豚たちが指差していたものはコウマン吉ではなく、そのずっと後ろにある小さな黒い点。それはしばらくの間、空の高いところでゆっくりと回っていました。やがて、コウマン吉のいる杉の木をめざして下りてきました。
その黒い点が、鋭いかぎ爪をひろげたワシであるとわかったときには 時、すでに遅し。コウマン吉はあっという間に連れ去られ、その後は二度と戻って来ませんでした。
これが、この村に古くから伝わる伝説です。やがてこの伝説は、時代と共に少しずつ脚色され、わしに連れ去られた豚ではなく、空を飛んだ豚というふうに話が変わっていきました。
「現実には不可能」を意味する「豚が空を飛ぶとき」という格言はこの伝説から生まれました。
※注;
「豚が空を飛ぶ」という格言は実際にありますが、このお話はフィクションです。格言の由来とは何の関係もありません。
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(ウィキペディアから)
空飛ぶ豚(そらとぶぶた)は英語では、現実にはまったくありえないことを示す修辞技法(アデュナトン)の慣用句である。
「飛べる豚」"pigs fly"、「豚が飛ぶ時には」"when pigs fly" 、「豚に翼がある時には」 "when pigs have wings" 、などと使われ、ある事柄が不可能であることを意味するのに使われる。
同様な意味をもつ慣用句には「地獄か凍ったときに」"when hell freezes over"とか「古ローマ暦のついたちまでに」"to the Greek calends,"とか「樽から猿が出てきたら」"and monkeys might fly out of my butt"などがある。
古いスコットランドの話から来ているといわれているが、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』の中にも現れている。
"Thinking again?" the Duchess asked, with another dig of her sharp little chin.
"I've a right to think," said Alice sharply, for she was beginning to feel a little worried.
"Just about as much right," said the Duchess, "as pigs have to fly...." (第9章)
1909年11月4日にイギリスのパイロット、ジョン・ムーア=ブラバゾンが「豚も飛べる」ことを証明するために、飛行機にくくりつけたバスケットに子豚をいれて飛行した。
宮崎駿の紅の豚に出てきているポルコの名言「飛ばない豚は、ただの豚だ。」は、上記をもとに作られたと言われている