改憲の危険シリーズ 緊急事態条項(4)
ナチスの全権委任法と同じ
「緊急事態条項」のナチスの全権委任法との共通性が指摘されています。1933年3月に成立したナチスドイツ下の全権委任法は、立法権を政府が掌握し、ナチス政府が制定した法律は憲法に反しても有効とする法律でした。これによって市民の権利の一切が封殺され、ナチスを批判する言論の圧殺、共産主義者や社会主義者の弾圧と虐殺、ユダヤ人の虐殺へと進むことになりました。自作自演の国会議事堂放火事件は、ナチスが国民の圧倒的な支持を獲得する大きな転機となりました。全権委任法は時限立法でしたが、結果的に33年から45年の5月まで実に11年間も続きました。ワイマール憲法が保障していた国民の諸権利を「永久停止」させて独裁政権を樹立しました。
安倍政権が自作自演の事件を引き起こさないとも限りません。危機感を煽ることで国民の支持を取り付け「緊急事態」を発動すれば、あとはそれを100日ごとに延長し、恒常化させればいいのです。その危険は十分にあり得ます。まさに「ナチスに学べ」です。
「テロ」を口実として非常事態令を出したフランスの例
昨年11月の「テロ」事件を契機にフランスでは非常事態令が出されました。しかし、この事件は戦争でも内乱でも大規模自然災害でもありません。フランスのシリア空爆を批判する複数犯による大量無差別殺人事件、一刑事事件にすぎません。にもかかわらずオランド政権は「これは戦争だ」と叫び当然のようにフランス全土に非常事態令を出しました。美術館や図書館が閉鎖されました。集会やデモの許可が取り消されました。住民は不急の外出を控えるよう強いられました。令状なしの家宅捜査、身柄拘束と連行、集会やデモの禁止の継続、コンサートの中止等々あらゆる市民の権利が弾圧されました。コンサートホールなどの興業場、酒類の小売店、集会場の閉鎖命令、集会の禁止、新聞・出版・放送・映画の上映・演劇の上映規制等々。「テロ」からわずか一ヶ月で非常事態宣言下で行われた令状なしの家宅捜索は約3000ヵ所に上ったと言われています。そのもとでフランス政府は圧倒的な支持と反対論の封じ込めによって新たな空爆へと踏み出しました。
フランス議会は2月16日圧倒的多数で非常事態令の3ヶ月の延長を決定しました。問題は、事件から3ヶ月も立っているにもかかわらず、「治安維持」を理由に、議員の大多数が国民の諸権利の制限、警察や治安部隊の不法行為を正当化しているということです。
※人権の国、非常事態の下で 仏、宣言再延長(朝日新聞)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12214252.html
※仏 非常事態宣言を5月末まで延長(NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160217/k10010412021000.html
ショック・ドクトリンを使った戦争国家づくり反対
フランスではまさに、戦争と治安が結びつく形で「非常事態令」が発令されました。しかしそれは半ばオランド政権が作り出した虚像です。フランス国籍などの自国民が引き起こした殺人事件について、その理由がフランスのシリア空爆への批判であったということから、「戦争である」と強弁し、いつ終了するか分からない「非常事態」へと持って行ったのです。フランスで起こった事態は決して人ごとではありません。「緊急事態条項」が何をもたらすかを示唆しています。国民にショックを与えて黙らせ、独裁的に政策を遂行するというショック・ドクトリン(惨事便乗型政策)にほかなりません。
緊急事態条項は、戦争国家作り、独裁権力のもとでの国民の総動員体制、諸権利剥奪と反政府運動弾圧のすべてを含んでいます。絶対に改憲の突破口にしてはなりません。
(ハンマー)