[映画紹介]
「ベン・ハー」(1959)、「キング・オブ・キングス」(1961)、
「偉大な生涯の物語」(1965)など
20世紀半ばに盛んに作られた聖書映画。
その後、鳴りをひそめたが、
作られていないわけではなく、
日本で公開されなかっただけで、
繰り返し製作されていた。
これもその一本。
一味違うのは、イエス誕生前の母マリアの話であること。
同様の作品は2006年の「マリア」(キャサリン・ハードウィック監督) がある。
本作は、2024年製作のイギリス映画で、
最も新しい聖書映画。
話は紀元前18年、マリア誕生の秘話から始まる。
マリアの父は、子供をさずらないのを神の罰ととらえ、
荒野で40日間の断食をして悔い改める。
青い衣を着た天使が現れ、懐妊を告げる。
その結果、生まれたのがマリアだ。
マリアは神殿に預けられ、
善の天使と悪の天使が奪い合いをする。
やがて、マリアが川で洗濯しているのを見て、
一目ぼれしたヨセフに見染められ、婚約する。
その際も、青い衣の天使の介在が両親の心を決めた。
そして、ヨセフと交わらないまま、懐妊。
姦通したとして、石打で殺されそうになる。
ヨセフはそのマリアを守る。
マリアがイエスを生む出産シーンも
リアルに描かれる。
救世主の誕生を察知したヘロデ王が
ベツレヘムで生まれた新生児を殺すことを命じ、
親子は逃れて、後を追って来た兵隊と争う。
最後は、エジプトへ逃れたとする新約聖書の記述とは異なり、
エルサレムに向かい、
神殿にイエスを委ねるところで終わる。
当時の神殿や衣裳など、
丁寧に作られている。
こういう前日談は奇抜なものになりがちだが、
その傾向は抑えられていて、好感が持てた。
ただ、その結果、新味はない。
ヘロデ王が救世主と思われる赤子がいたら、
生きたまま連れてこい、と命令するのは新解釈。
ヘロデはその赤子と対面したかったのだ。
そして、何十人もの赤子を前に
殺すのを命じて錯乱した時、
臣下たちに見捨てられて孤立する、
というのも新しい。
ヘロデ王をアンソニー・ホプキンスが演ずるので、
重厚さが増す。
マリアを演ずるノア・コーエンは美しい。
監督はD・J・カルーソ。
Netflix で12月6日から配信。
パゾリーニの「奇跡の丘」(1964)では、
お腹の大きいマリアを
怒りと共に見つめるヨセフの顔から物語は始まる。