空飛ぶ自由人・2

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小説『ブルーマリッジ』

2025年01月06日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

ある商社で、
「ホワイトボックス」という制度が試験運用される。
ハラスメントに関する告発や
社内の問題を匿名で投稿できる制度。
しかし、冤罪を生みはしないかと危惧されていた。

この制度に、土方営業課長がひっかかる。
お気に入りの女性営業部員・長谷川が
自分への食事の誘いを断って
同期の飲み会に行ったことで、怒り、
長谷川を徹底的に干す。
得意先の担当を外し、
売上を低位に落とし、叱責する。
長谷川は情緒が破壊され、
それを「ホワイトボックス」に訴えた。
だが、土方には、自分の言動が
いかに相手の尊厳を踏みにじっていたかの自覚がなく
体育会系で、
部下を叱咤激励することで成長させたという意識だ。
しかし、調査が進むにつれて、
土方のパワハラの証拠が次々と出て来て・・・

長谷川の言葉。
「『上司』ってすごいなあって思いました。
その人の匙加減ひとつで、
ここまで他人を追い込むことができて、
心をボロボロにさせることができて、
部下のことを、
まるでダメ人間みたいにさせちゃう。
そんなことがありえるのかって、
私、信じられなくて」

一方、「ホワイトボックス」の提唱者である
人事部員・雨宮守にも新たな問題が襲いかかる。
長年同棲してきた翠で、
いよいよ結婚に進もうという時、
翠の口から
雨宮が無意識のうちにしてきたハラスメントを指摘されたのだ。
特に、大学の新人歓迎キャンプでした行為を責められる。
「止めずにみんなで笑ってた時点で、
みんな加害者で、共犯者だよ」
「守くんも、その会社の課長と、
なんにも変わんないんだよ。
それを、さっきから棚に上げっぱなしでさ」
「そんな人が、ハラスメントの窓口になってるのも、
どこまで被害者に寄り添えるだろうって、
やっぱり怖く感じるよ」
雨宮は、ようやく気づく。
知らず知らず、相手を深く傷つけてきた自分。
過去は捨てられない。拭えない。
加害の過去がある自分には、
その過去を棚上げてまでして、
声高に善や正義を叫ぶ権利もない。

土方の家庭では、離婚問題が持ち上がる。
娘の結婚式が終わると、
離婚届けを置いて、妻が家を出たのだ。
長年、土方の横暴に愛想が尽きたのだが、
これも、土方には自覚がない
必死になって妻の行方を探すが、
娘にも嫌われ、相手にされない。
パワハラ問題の自宅待機と重なって、
土方の家にゴミ屋敷のようになる。
土方みたいな人物は、昔は実際にいた。
しかし、時代がそれをはねのける

ようやく離婚届に印をついて、
妻の美貴子に会った時、
美貴子は言う。
「散々、奴隷のように生きてきましたから。
これからは、もう自分のために働いて、
自分のために生きると決めたんです。
誰かに少ずつ迷惑をかけながら、
自分のために幸せになると、決めたんです」

雨宮の「ホワイトボックス」の提案を認めた
辻人事部長の過去にも触れる。
「私は過去に、
同僚の自死を止められなかったことがあります」
隣席の同僚の上司からのハラスメントからの自殺を
阻止できなかったのだ。

雨宮と翠の両家の対面の会で、
散々、「子供は何人」ときかれて、
その無意識なハラスメントに、
雨宮は嘔吐する。
実は二人は同棲しながら、セックスレスなのだ。
出逢って八年。
付き合って六年。
同棲を始めて二年。
もう僕らのあいだに、
新鮮な出来事はほとんど残されていない。
でも、雨宮は言う。
「恋が終わったら、その先は、
 愛が引き継ぐんじゃないかって思う」

土方のパワハラ問題と、
雨宮のセクハラ、モラハラとを並行して描き、
日本の男性社会が長年築き上げてきた
歪んだ社会を告発する。
「この社会で男性として生きることは、
それだけで加害性を帯びている」

いろいろ考えさせられる本だった。
作者のマツセマサヒコは有望で、
やがて直木賞を受賞するだろう。



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