一昨日、渋谷に出かけ、
ヒカリエの
シアターオーブへ。
↓このミュージカルを観るためです。
原作はジェフリー・アーチャーが
1979年に発表した大ベストセラー。
私は「世界で一番面白い小説」として、
沢山の人に紹介してきました。
題名から旧約聖書・創世記に出て来る「カインとアベル」を
想起する方がいると思うが、
実は、カイン(Cain)とケイン(Kane)は、
英語読みでは音は同じケイン。
つまり、カインとアベルの話の現代版というわけ。
二人はアダムとエバの息子。
聖書では神が兄カインの供物を受け入れず、
弟アベルの供物のみ受け入れたため、
カインがアベルを憎んで殺してしまう。
「人類初の殺人事件」と言われる。
スタインベックの小説「エデンの東」も
その現代版で、
二人の兄弟の愛憎を扱い、
弟を狂わせた兄に対して、ある人物が
「カインは主の前を去って、
エデンの東、ノドの地に住んだ」
という聖書の記述を口にし、
「お前もここを出て行ったらどうか」と言う。
「エデンの東」という題名は、ここから来ている。
更に言うと、石原裕次郎の主演で映画にもなった
石坂洋二郎の小説「陽の当たる坂道」は、
「エデンの東」に触発されたそうで、
裕福な家での駄目な兄と優秀な弟の相克の話になっている。
「ケインとアベル」の主人公二人は、兄弟ではない。
ただ、誕生日が同じ。
1906年4月16日、
遠く離れた場所で、2人の男の子が誕生した。
アメリカとポーランドという
遥かに離れた場所で二人は同時に生を受ける。
しかし、生い立ちは全く違う。
ウィリアム・ケインは銀行家の家の跡取りとして生まれ、
銀行を引き継いで頭取になる。
ヴワデグ(後のアベル・ロスノフスキー) は、ポーランドで生まれ、
極貧の中、男爵家に拾われ、
戦争により、ソ連の強制収容所に連行されるが、
脱出し、大西洋を越えてアメリカ移民となる。
ホテルに就職し、ホテルチェーン経営者の目に留まって、
頭角を現し、
やがてホテル王になっていく。
その二人のサクセスストーリーに、
アメリカの歴史が重なる。
たとえば、1929年の大恐慌で
アベルのホテルは危機に陥る。
その時、融資を依頼したアベルを
ケインが取締役会の決議を楯に断ったことで、
アベルはケインを憎むようになる。
後に、アベルは、
ケインの銀行の株を買占め、
ケインの追い落としを図る。
ケインも自分の行く手をことごとく阻むアベルを
「不倶戴天の敵」と認識するに至る。
二人とも祖国のために戦場に出かけ、
アベルはそれと知らず、
ケインの命を助ける。
実は二人が接触したのは、
この時を含め、3回しかない。
その後、アベルの娘とケインの息子が恋に落ち、
両家の反対をおいて駆け落ちし、
服飾店を開いて成功する。
やがてケインが亡くなり、
ケインの未亡人がアベルに、ある秘密を告げる・・・
という長大な話をミュージカル化。
勇気ある挑戦。
心意気を買う。
世界に先駆け、日本での初演だが、
スタッフはブロードウェイの人々。
脚本・演出:ダニエル・ゴールドスタイン、
歌詞:ネイサン・タイセン、
音楽:フランク・ワイルドホーン、
編曲:ジェイソン・ハウランド、
振付:ジェニファー・ウェーバー。
出演は、ウィリアム・ケイン:松下洸平
アベル・ロスノフスキ:松下優也
他に知念里奈、愛加あゆ、上川一哉
植原卓也、竹内將人、今拓哉
益岡徹、山口祐一郎ら。
1月22日から2月16日、東京の東急シアターオーブで、
2月23日から3月2日、大阪の新歌舞伎座で。
出演者の人気か、
切符が取れにくく、
リセールで中央の良い座席をゲット。
第1部が1時間25分、
第2部が1時間5分で、
休憩を含め3時間。
出来栄えだが、
音楽はいつものワイルドホーンのメロディ。
この方は、ブロードウェイではあまり受けず、
日本と韓国で大人気という、不思議な作曲家。
ストーリーはやはり、ダイジェストになってしまった。
ケインとアベルの対立が明らかになる後半の方がいい。
やはり、葛藤がドラマを際立たせる。
ラストはちょっと泣かせる。
セットがややチープ。
振り付けもイマイチ。
とにかく日本語の歌詞が聞き取れない。
特に歌い上げると、何を言っているのか分からない。
いかにも東宝らしい、
形は行儀良く整ってはいるが、
胸を打つものがない。
ブロードウェイ進出は無理だろう。
5段階評価の「3」。
なお、原作はイギリスでテレビドラマ化され、
日本語版はテレビ朝日系列にて
1986年9月28日より5日連続で放送された。
本書の続編として、主人公アベルの娘フロレンティナを主人公に、
彼女がアメリカ大統領の座を目指す長編
「ロスノフスキ家の娘」(1982年)が書かれた。
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