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映画『オッペンハイマー』

2024年04月13日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

先のアカデミー賞で作品賞・監督賞・主演男優賞・助演男優賞・
撮影賞・編集賞・オリジナル音楽賞と
主要7部門を制覇した作品。
(13部門ノミネート)
「原爆の父」を描いていることから、
日本での公開があやぶまれたが、
ようやく日本の観客も映画館で観ることができるようになった。

↓がオッペンハイマー。

この作品、一筋縄ではいかない

まず、構成
一つは、オッペンハイマーの学生時代から描き、
原爆開発プロジェクト「マンハッタン計画」の委員長として、
核兵器開発を成し遂げるが、
大変な殺人兵器を作ってしまったと罪悪感に苦しむ姿。
一つは、1954年、共産党員の疑いで
聴聞会にかけられ、失脚するまで。
もう一つは、オッペンハイマーを追い詰めた、
ルイス・ストローズが
1959年の聴聞会で
敗北するまで。

この3つの時系列が錯綜する。
しかも、かなり頻繁に。
ただ、3つ目の部分は、
ストローズ側の視点で描かれるため、白黒画面となっているので、
区別が付きやすい。
1と2は、カラーだが、
内容的に、
区別がつきやすい。

その3つをちゃんと把握していれば、
混乱なく観ることが出来るだろう。

いずれも、オッペンハイマーという人物を描くには
欠かせない部分なので、
省略せず、
しかも、時系列を交錯させる
というのが、本作の芸術的なところ。

ただ、1は日本との関わりがあるので身近に感ずるが、
2と3は、アメリカの政治がからむので、
ちょっと分かりにくい。

2で、1954年、オッペンハイマーを、狭い部屋に押し込めて、
大勢で取り囲んで尋問しているのは、
冷戦下、アメリカ社会に吹き荒れた赤狩り
(ソ連=共産主義とつながりがある者を追放する嵐)の影響下、
オッペンハイマーは水爆の開発に反対していたため、
それがソ連を利することとして、スパイの容疑をかけられた。
妻、弟、かつての恋人が共産党員だったことがあり、
オッペンハイマー自身も過去に共産党の集会に出席していたことを
根掘り葉掘り尋問される。
聴聞会は、具体的には、
オッペンハイマーが国の機密情報にアクセスできる許可や資格を
取り消すためのもので、
核関連の機密情報に触れられないということは、
研究を続けられないことを意味するので、
事実上のキャリア終了を意味する。

3の白黒画面で描かれる公聴会は、
1959年、アメリカ上院で、
ストローズが「商務長官」(日本の経済産業大臣) 指名に
ふさわしい人物かどうかを審査するもの。
公聴会では、適性、経歴、政策への理解などを検討するが、
途中から、1947~54年にオッペンハイマーを危険視した理由
について質問が集中する。
当時のオッペンハイマー糾弾の黒幕がストローズだったのではないか、
というわけで、
オッペンハイマーがらみの人物が沢山登場する。

ストローズは、戦後のアメリカ原子力委員会の委員長。
オッペンハイマーをプリンストン高等学術研究所の所長に抜てきし、
原子力委員会にも迎え入れる。
プリンストン高等研究所を訪れたオッペンハイマーは、
ストローズの過去を引き合いに「卑しい靴売り」と発言したため、
ストローズは「卑しくない」と表情をこわばらせる。
また、その後、オッペンハイマーはアインシュタインと池のほとりで会っており、


アインシュタインがストローズの顔も見ずに、無視して去ったため、
ストローズは二人が自分のことを中傷していたのではないか、
と疑いを抱く。
その後、ストローズが水爆の開発を推し進める一方で、
オッペンハイマーは水爆に断固として反対し、
2 人の仲は徐々に、しかし確実に悪くなっていく。
その背景に、ストローズのオッペンハイマーに対する劣等感があった、
というのが、クリストファー・ノーラン監督の見解。
俳優陣は準備のために「アマデウス」を観たという。
モーツァルトとサリエリの対立構造を参考にしたというのは興味深い。

プロメテウスの話がたびたび出て来るが、
プロメテウスは、ギリシャ神話に登場する神。
神々の意志に反して天上の火を人類に与えたために、
ゼウスによって罰せられ、
岩に鎖でつながれて、
大鷲に肝臓を食われてしまう。


オッペンハイマーは、人類に火=原爆を与え、
罪悪感や苦悩に縛られた人生になった。


本作の原作書籍のタイトルは
「American Prometheus: The Triumph and Tragedy of J. Robert Oppenheimer 」
(アメリカのプロメテウス:ロバート・オンペンハイマーの勝利と悲劇)で、
オッペンハイマーを「アメリカのプロメテウス」と表現している。

本作中、最も緊張感あふれる場面は、
やはりニューメキシコの砂漠での
原爆実験のシーンで、
爆発によって
空気が連鎖反応で核分裂を起こして、
“大気引火”現象が起こり得ることへの危機感が背景にある。
また、実験が昼間ではなく、
夜間だったことは、初めて知った。
すると、よく目にする
家のリビングに置かれたマネキンが吹き飛ばされるなどの
実験映像は、別な実験のものか。

実験成功の後、日本の都市に落とすかどうかの部分も緊迫の展開。
爆弾を積んだトラックが出発する場面は、ゾッとする。
トルーマン大統領とホワイトハウスで初対面した際、
「大統領、私は自分の手が血塗られているように感じます」と語り、
トルーマンは、「あの泣き虫を二度と呼ぶな」
と側近に言う。

なお、オッペンハイマーとアインシュタインが、
池のほとりで何を語ったかは、最後に明らかになる。

オッペンハイマー役を演じるキリアン・マーフィ
スローンズを演ずるロバート・ダウニー・Jr.
オッペンハイマーの妻を演ずるエミリー・ブラントは、
さすがの演技で、
他に実力者俳優が沢山登場する。
マット・デイモン、フローレンス・ピュー、
ジョシュ・ハートネット、トム・コンティ、
ケネス・ブラナー、ケイシー・アフレック、
ラミ・マレック、ゲイリー・オールドマン
オスカー級の顔ぶれが並ぶ。

常に音楽が流れ、
ホイテ・バン・ホイテマの撮影も見事。
私は1回目は普通劇場で、
2回目はIMAXで鑑賞した。
(もちろん、シネマサンシャインで。
 しかし、全編IMAXで撮影したわけではなく、
 パナビジョンで撮影した映像がかなりを占める)

科学的発見と道義的責任のジレンマ、
科学の成果が兵器としては利用される恐怖、
等、現代が抱える問題が浮彫りにされる。

オッペンハイマーの罪悪感は理解できるが、
ナチとの開発競争の真っ只中にあり、
戦争は殺し合いなので、仕方ない面もある。
ただ、3・10の東京大空襲も
広島・長崎の原爆投下も
実際は戦争犯罪だ。

オッペンハイマーは、その後、名誉を回復、
1965年、咽頭がんの診断を受け、
手術を受けた後、放射線療法と化学療法を続けたが効果はなく、
1967年2月18日、62歳で死去した。

関連映画「アインシュタインと原爆」についてのブログは、↓。
                                        https://blog.goo.ne.jp/lukeforce/e/6fe7b807dd151e0c5cb2155291476c6b 

 



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