[書籍紹介]
大宮の場末にあるビジネスホテルが舞台。
そのホテルには、長期滞在の70代80代の老人たちがいる。
長期滞在どころか、
ホテルの一室を終の棲家にしている人たちだ。
1泊4800円からで、平日の連泊は3800円。
1か月で12万円くらい。
だったらアパートに住めば
いいようなものだが、
掃除もベッドメイクもしてくれるし、
光熱費は料金に含まれているし、
家事をする必要のない
案外気楽なホテルライフらしい。
ホテルの側もそうした老人たちを1階に集めている。
管理しやすいからだ。
仲間うちでは「老人ホテル」と呼ばれている。
108号室の綾小路光子・78歳は、
元々いくつかの不動産を持っていた人物。
107号室の阿部幸子・84歳は、
元雑誌記者で本も出しているが、今はフリーライター。
104号室の大木利春・73歳は、投資家で、
室内でコンピューターとにらめっこして株式投資をしている。
他に田原浩三・78歳や今野寿文・80歳過ぎなど。
そのホテルの清掃メンバーとして、
24歳の日村天使が就職したのは、
昔縁のあった綾小路光子に近づくためだった。
いま「天使」と書いたが、
はじめ天使を題材としたファンタジーかと思ったが、
これで「えんじぇる」と読む、人名。
両親が変わっていて、子どもに変な名前を付けた。
長女は大天使で「みかえる」と読む。
長男は堕天使で「るしふぇる」、
次男は羅天使で「らふあえる」、
次女は我天使で「がぶりえる」、
三男は亜太夢で「あだむ」、
三女は衣歩で「イブ」、
末っ子の四女が天使=えんじぇるだ。
天使は高校中退で家を飛び出し、
キャバクラなどを遍歴して、
このビジネスホテルの掃除メンバーになった。
高齢者従業員ばかりの中、
比較的若い山田の助手になって、
水回りなどを担当している。
ある日、阿部幸子の部屋を掃除している時、
「あなた、もしかして、あの日村さん?
『仲良し日村さん一家』の」
と言われる。
というのは、天使の一家は、
テレビ番組で扱われたことがあるのだ。
その題名が『仲良し日村さん一家』。
子だくさんの変わった家庭ということで、
年に2回特集番組が組まれた。
はじめは地方局で、
人気が出て、キー局で。
でも何かの事情で番組は終わった。
天使の家族というのが最悪で、
父親は腰を痛めたといって、
生活保護を受けている。
その親たちも生活保護。
二代にわたって不正受給の家系だ。
両親ともに学がなく、
子どもを虐待し、
兄や姉は、高校を出るとみな家を飛び出した。
阿部幸子は天使の顔と
日村という名前であの四女だ、と見定め、
その天使を取材して、本にしたいという。
金に釣られて、天使は応じ、
仕事が終ると、幸子の部屋を訪ねる。
一方、綾小路光子は天使がキャバクラ時代の店の大家で、
店に客として時々訪れ、
その時天使が席についた。
光子の方は天使のことなど忘れているが、
光子が「金を貯める方法を教える」と言った言葉を憶えていて、
光子に教えを請うために
町で見かけた光子を追跡して、
このホテルに居住していることを突き止め、
光子に近づこうとしたのだ。
何とか光子に取り入り、
まず、節約法を伝授される。
高いマンションを引き払って、安価なアパートに移り、
コンビニ食を改めて、自炊をさせ、
それだけで月3万円が貯金できた。
このあたりは面白い。
こうして、天使は光子によって、
金の貯め方、その後の不動産投資の仕方を伝授する。
毒親の母が天使のアパートを訪ねて来て、
目を離した隙に通帳と印鑑を盗むと、
光子が先頭に立って銀行口座を閉鎖し、
親のもとを訪ねて、
しらばくれる母親を相手に、
「民生委員に言うぞ」
と脅して通帳と印鑑を取り戻してくれた。
やがて、光子の死期が近づき・・・
家庭に恵まれず、
教育も受けられなかった一人の女の
更生の物語か、
と思ってていたら、
突然変な形で終わってしまう。
どうやら続編があるのではないか。
つくづく分かるのは、
「無知」の怖さ。
天使は全く世間の知恵がなく
金融の知識もなく、
銀行口座さえ知らず、
健康保険もなく、
人と交流することが苦手で、
一人暮らしをせざるを得ない。
問題は親だ。
生活保護に頼ると、
自立することを考える事ができず
生活保護を貰い続ける方法しか考えられなくなる。
それを見ながら育った子供は、
勉強や仕事をする意味を知らずに育ち、
自分の頭で物事を考える事を知らなくなる。
親も祖父母も働いてる姿を見たことがないから
働き方がわからない。
だから稼げる仕事に恵まれず、
親と同じ道をたどる。
それを打開するには、
「無知」を克服するしかない。
「赤ひげ」のセリフではないが、
「病気の原因は社会の貧困と無知からくる。
だがこれまで政治が貧困と無知に対してなにかしたことがあるか。
人間を貧困と無知のままにしては置いてはならないという
法令が出たことがあるか。
我々に出来ることは、貧困と無知に対する戦いだ。
貧困と無知さえなければ、
病気の大半は起こらなくて済むんだ」
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