空飛ぶ自由人・2

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小説『嘘』

2024年02月11日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

絵本作家の里谷千紗子は、
絶縁状態にあった
認知症の父親の世話をするために、
一時的に故郷に戻って来た。
5年ぶりに再会した父の孝蔵は、
厳格な教師だった面影はなく、
千紗子に会っても「どなたかな?」というほど衰えていた。

千紗子は旧友の久江と飲みに行った帰り、
久江の車が男の子をはねてしまい、
飲酒運転で公務員のクビがかかっている
久江に頼まれて、
男の子を引き取るはめになる。

ケガは軽いようだったが、
少年は記憶を失っていた
少年は父母と遊びに来た時、
橋からバンジージャンプをして川に流され、
久江の車と遭遇したようだ。
捜索を伝えるニュースでは、
9歳と言っていた。

全身に虐待の跡があったことから、
千紗子は、少年の両親を訪ね、
とんでもない鬼親であることを確認して、
少年を自分の子どもとして育てる決意をする。

千紗子は、
5歳の息子・純を水難事故で失った過去があり、
夫婦で乗り切ろうとする夫の努力に反して
立ち直ることが出来ず、離婚した経緯がある。
その純の身代わりに、拓未(たくみ)と名づけられた少年との間に
偽の親子関係が築かれていく。

拓未に対して、偽りの過去の記憶を植え付ける一方、
日がな一日仏像を彫り続ける孝蔵と拓未の関係は良好で、
「おじいちゃん」「お母さん」「拓未」という
疑似家族は、絆を深めていき、
幸福感が三人を包む。

しかし、孝蔵の症状は増々進み、
また、ニセモノの親子関係にも危機が迫っていた・・・

と、絵に描いたような作り話だが、
すいすいと読ませる力はある。
三人の幸福が長続きしないことは
最初から見えているのだが、
破綻した後の展開は、
世の中の冷たさと理不尽さを見せつける。
拓未の実の親がとんでもない奴だと読者は分かっているだけに、
千紗子と拓未の幸福が守られるよう祈るのだが、
世間はそれを許さない。
そして・・・

周囲を彩る人物も多彩で、
特に孝蔵の幼馴染の医師・亀田の存在が麗しい。
背景に過疎の村や認知症の症状などが存在する。

終章の最後一行で、
「ああ、そうだったのか」という
感慨を持つと共に、
題名「嘘」の意味が判明する。
解説の『良い結果をもたらす嘘は、
    不幸をもたらす真実よりいい』
という言葉は、なかなか深い。

ミステリ、SF作家の北國浩二の作品。

近く、杏主演で「かくしごと」という題名で
映画化されるという。


既に同題のアニメもあり、
もっと他の題名はなかったのか。
脚本・監督は関根光才。
6月7日公開。
成功するかどうかは、
ひとえに子役の人選にかかっている。



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