[書籍紹介]
物語は大きく3つに別れる。
第一は、ある夫婦を巡る話。
松浦美都子は、夫婦同士で親しく交流していた栂原清花(つがはら・さやか)と
突然交流が途絶えてしまう。
その後、清花の娘・愛子がアメリカから帰国して美都子に連絡してくる。
今、北海道にいるのだという。
母が転居した新小牛田という町の家が訪ねても、両親がおらず、
「岬に行く」という言葉だけが残されていた。
そこは、ハイマツが茂り、行く道が閉ざされた隔絶した岬で、
海から行くしかない。
そして、20年後、愛子は母からの手紙を受け取り、
美都子と共に新小牛田を訪れ、
伝書鳩による通信で、指定された日に昆布漁の船を調達して、
あの岬の海岸に降り立つ。
夜、清花は現れるが、
驚いたことに、20年前と容姿が変わっていない。
若いままだ。
そのまま清花は姿を消す。
次は、あるカリスマ起業家・岡村陽(みなみ)を巡る話。
美都子の話にあった、肇子(はつこ)という女性が出て来、
清花と長野で近所に住んでいたことが分かる。
岡村は肇子と恋愛関係に陥るが、
肇子は別の男と結婚する。
しかし、結婚式の日、肇子は失踪してしまう。
岡村は肇子の消息を辿り、
あの岬の町、新小牛田にたどり着く。
そして、岬を目指し、
ヒグマに襲われ、
顔面を全部削られてしまう。
(その話は、美都子の話にもちょっと出て来るから、
美都子の話の前の時系列らしい)
そして、最後は、ある作家と編集者の話。
20年ほど後の2029年。
つまり、近未来。
ノーベル賞の文学賞に選ばれた日本人作家・一ノ瀬和紀が、
ストックホルムでの授賞式の前夜、失踪する。
「もう一つの世界に入る」という書置きを残して。
担当編集者である出版社の相沢礼治は、
商業的意味もあって、一ノ瀬の後を辿る。
その結果、一ノ瀬があの新小牛田を訪れ、岬を目指したらしいことを知る。
その過程で、美都子とも接触する。
相沢は、岬で一ノ瀬と会う。
そこに住む人々は、一切の欲望から解放された「世捨て人」のようで、
一ノ瀬も、「解脱」したような雰囲気だった。
しかし、その情報が漏れ、
岬は一挙に全国的興味の対象となる。
そして、岬を再訪した相沢は、
ある事件に遭遇し、
岬にあったコミュニティーの住人は、全員死に絶える。
(その中には、清花もいた。)
岬の持つ秘密とは何なのか。
不老不死の地域か、
宗教か、それとも・・・
相沢は、フリーの記者・石垣と協力しあって、
追究を続ける。
岬にある建物が戦前の製薬会社の研究所だったことが分かる。
深く関わった人物、
研究所にいた人物等の足跡を探る中で、
真実が見えて来るが・・・
様々な異常な状況を描きながら、
その背後にある秘密を明らかにしていく、
篠田節子の筆は健在。
今回追究する謎の解明は、これから読む人のために触れないが、
驚くような内容だ。
戦前の国家的事情もからむ。
北海道のアイヌの話もからむ。
特殊な自然の営みもからむ。
人間の魂の救済もからむ。
まことに重層的で、
読み進むにつれて新しい世界が開けるという、
読書の喜びを味あわせてくれる。
20数年後の世界では、
「うつ」は「脳内疲労症候群」と呼ばれているらしい。
背後に四半世紀後の世界のイデオロギー対立、
国家間の緊張などがあり、
日本は北朝鮮の核兵器の脅威と、
中国の侵略の危機にさらされ、
国土は外国人に荒らされている。
そして、最後に、ある天変地異が起こる・・・
578ページの大作。
読みごたえがある。
「本の旅人」「小説野性時代」に連載。
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