空飛ぶ自由人・2

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小説『失われた岬』

2022年10月20日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介] 

物語は大きく3つに別れる。

第一は、ある夫婦を巡る話。
松浦美都子は、夫婦同士で親しく交流していた栂原清花(つがはら・さやか)と
突然交流が途絶えてしまう。
その後、清花の娘・愛子がアメリカから帰国して美都子に連絡してくる。
今、北海道にいるのだという。
母が転居した新小牛田という町の家が訪ねても、両親がおらず、
「岬に行く」という言葉だけが残されていた。
そこは、ハイマツが茂り、行く道が閉ざされた隔絶した岬で、
海から行くしかない。
そして、20年後、愛子は母からの手紙を受け取り、
美都子と共に新小牛田を訪れ、
伝書鳩による通信で、指定された日に昆布漁の船を調達して、
あの岬の海岸に降り立つ。
夜、清花は現れるが、
驚いたことに、20年前と容姿が変わっていない
若いままだ。
そのまま清花は姿を消す。

次は、あるカリスマ起業家・岡村陽(みなみ)を巡る話。
美都子の話にあった、肇子(はつこ)という女性が出て来、
清花と長野で近所に住んでいたことが分かる。
岡村は肇子と恋愛関係に陥るが、
肇子は別の男と結婚する。
しかし、結婚式の日、肇子は失踪してしまう。
岡村は肇子の消息を辿り、
あの岬の町、新小牛田にたどり着く。
そして、岬を目指し
ヒグマに襲われ、
顔面を全部削られてしまう。
(その話は、美都子の話にもちょっと出て来るから、
美都子の話の前の時系列らしい)

そして、最後は、ある作家と編集者の話。
20年ほど後の2029年。
つまり、近未来。
ノーベル賞の文学賞に選ばれた日本人作家・一ノ瀬和紀が、
ストックホルムでの授賞式の前夜、失踪する。
「もう一つの世界に入る」という書置きを残して。
担当編集者である出版社の相沢礼治は、
商業的意味もあって、一ノ瀬の後を辿る。
その結果、一ノ瀬があの新小牛田を訪れ、岬を目指したらしいことを知る。
その過程で、美都子とも接触する。
相沢は、岬で一ノ瀬と会う。
そこに住む人々は、一切の欲望から解放された「世捨て人」のようで、
一ノ瀬も、「解脱」したような雰囲気だった。
しかし、その情報が漏れ、
岬は一挙に全国的興味の対象となる。
そして、岬を再訪した相沢は、
ある事件に遭遇し、
岬にあったコミュニティーの住人は、全員死に絶える。
(その中には、清花もいた。) 

岬の持つ秘密とは何なのか。
不老不死の地域か、
宗教か、それとも・・・

相沢は、フリーの記者・石垣と協力しあって、
追究を続ける。
岬にある建物が戦前の製薬会社の研究所だったことが分かる。
深く関わった人物、
研究所にいた人物等の足跡を探る中で、
真実が見えて来るが・・・

様々な異常な状況を描きながら、
その背後にある秘密を明らかにしていく、
篠田節子の筆は健在。
今回追究する謎の解明は、これから読む人のために触れないが、
驚くような内容だ。
戦前の国家的事情もからむ。
北海道のアイヌの話もからむ。
特殊な自然の営みもからむ。
人間の魂の救済もからむ。
まことに重層的で、
読み進むにつれて新しい世界が開けるという、
読書の喜びを味あわせてくれる。

20数年後の世界では、
「うつ」は「脳内疲労症候群」と呼ばれているらしい。

背後に四半世紀後の世界のイデオロギー対立、
国家間の緊張などがあり、
日本は北朝鮮の核兵器の脅威と、
中国の侵略の危機にさらされ、
国土は外国人に荒らされている。
そして、最後に、ある天変地異が起こる・・・

578ページの大作
読みごたえがある。

「本の旅人」「小説野性時代」に連載。

 



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