[映画紹介]
小説家のイングリッドは、
書籍のサイン会に来た友人から
親友のマーサが癌に侵されたことを知る。
マーサは戦場記者として、華々しい活躍をしていた人だ。
二人は再会し、
会っていなかった時間を埋めるように
病室で語らう日々を過ごす。
新たな治療法が失敗、転移し、
治療に望みが失われた時、
マーサは自らの意志で安楽死を望み、
イングリッドにあることを依頼する。
人の気配を感じながら最期を迎えたいから、
“その日”が来る時に
隣の部屋にいてほしいというのだ。
悩んだ末に、彼女の最期に寄り添うことを決めたイングリッドは、
森の中の小さな家で二人暮らしを始める。
マーサは「ドアを開けて寝るけれど、もしドアが閉まっていたら
私はもうこの世にはいない」と告げ、
最期の時を迎える彼女との短い数日間が始まるが・・・
人が病気で死ぬ話は、
極力観ないようにしているのだが、
本作は、あの「トーク・トゥ・ハー」(2002)の名匠、
ペドロ・アルモドバルの監督(脚本も)なので、
観ることにした。
しかも、マーサをティルダ・スウィントン、
イングリッドをジュリアン・ムーアが演ずるというのだから、
オスカー女優二人の共演を避ける理由がない。
違法な安楽死の薬を取り寄せ、
尊厳の中で死にたいと望む親友の
最後を看取る日々。
その二人の様子をカメラはじっと凝視する。
大部分が二人の会話。
特に後半は、
森の中の一軒家での二人きりを描く。
生きることを勧めるのはもはや無意味で、
いかにして親友が人生を閉じるかを見守る。
自殺幇助の疑いがかけられるおそれのある行為。
何が正しいかは、正解のない状況。
味わったことのない経験。
マーサは、死期が迫るほどに美しく、カラフルになっていく。
美しいまま死にたいという、
女性の願望だろう。
そして、服や食器の色彩、部屋に飾られたアートなど、
全てが美しい。
シーグリッド・ヌーネスの小説「What Are You Going Through」が原作だが、
原作小説の中の、わずかなエピソードに過ぎないのだという。
イングリッドが旧友と出会いをする小さな場面だけで、
結末は異なるから、
原作の厳密な映画化ではない。
だが、↓のように、映画に当て込んだ題名で出版。
ペドロ・アルモドバルは当年75歳。
もはや死を見つめる年齢なのだろう。
ベネチア国際映画祭で金獅子賞受賞。
ティルダ・スウィントンはゴールデングローブ賞の
主演女優賞にノミネートされたが、受賞には至らなかった。
途中で、あれ、音楽は「トーク・トゥ・ハー」と同じ人ではないか、
と気づき、エンドクレジットで確かめると、
音楽はやはりアルベルト・イグレシアスだった。
アルモドバル監督の映画作品の音楽を長く手掛けている人。
2007年にはスペイン映画国民賞を受賞。
「トーク・トゥ・ハー」は、
私の映画体験の中で、10本の指に入る映画音楽だ。
5段階評価の「4」。
新宿ピカデリー他で上映中。
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