空飛ぶ自由人・2

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世界で最も混雑する空港ランキング

2024年08月10日 23時00分00秒 | 旅行関係

2023年に飛行機で旅行した人は
全世界で85億人(!)にのぼり、
ほぼパンデミック前の水準まで回復した。
世界経済の厳しい状況にもかかわらず、
増加傾向にあるという。
その旅客を送り出し、迎えるのが、空港。
世界で最も忙しい空港トップ10を見ていこう。

 

10位 インディラ・ガンディー国際空港(インド、デリー)

乗客数:7220万人
乗客数が前年比で21.4%増加した。

9位 シカゴ・オヘア国際空港(アメリカ、イリノイ州)

乗客数:7390万人
利用客は、前年比8.1%増加した。
アメリカの国内旅行のハブ空港で、
とりわけユナイテッド航空とアメリカン航空のフライトが多い。

8位 ロサンゼルス国際空港(アメリカ、カリフォルニア州)

乗客数:7510万人
利用客は、前年比13.8%増加したが、
2019年のパンデミック前の水準と比べると
14.8%減少している。
この下げ幅は、トップ10に入った空港では最大。
アラスカ航空、ユナイテッド航空、アメリカン航空、デルタ航空など、
数多くの航空会社のハブになっているが、
2022年に経済状況が悪化し、
航空各社がフライト数を削減したことで、
この空港を使う国内旅行者が大幅に減少したもの。

7位 イスタンブール空港(トルコ)

乗客数:7600万人
乗客数は18.3%増加した。
2019年に比べて45.7%増と急増している。

6位 デンバー国際空港(アメリカ、コロラド州)

乗客数:7780万人
利用客は、前年比で12.3%増加し、
パンデミック前の水準と比べても12.8%増えている。

5位 羽田空港(日本)

乗客数:7870万人
2022年の順位は16位。
乗客数は、最大の増加を見せ、
前年比55.1%と急増した。
この原因は、
日本が2022年後半まで入国規制を解除せず、
観光旅行の回復が遅れていたことによる。
この増加にもかかわらず、羽田空港の乗客数は、
2019年の水準と比べて7.9%減にとどまっている。

4位 ヒースロー空港(イギリス、ロンドン)

乗客数:7920万人
利用客は、2022年に218%増(3倍)と急増した。
2023年も、28.5%という、
前年よりやや控えめな増加率ではあるものの、堅調に増えている。
乗客数増加の主な要因として、
アジア太平洋地域からの旅行客の増加を挙げている。
2024年には、パンデミック前の水準を上回り、
8140万人という乗客数記録を達成することが期待されるという。

3位 ダラス・フォートワース国際空港(アメリカ、テキサス州)

乗客数:8180万人
利用客数は11.4%増加した。
アメリカン航空の発着が最も多いハブ空港で、
多くの航空会社の国際線が出発する都市でもある。

2位 ドバイ国際空港(アラブ首長国連邦)

乗客数:8700万人
乗客数が31.7%と大きく増加し、
このランキングで初めて2位になった。
この地域における航空業界と観光推進への
重点的な投資を反映している。

1位 ハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港(アメリカ、ジョージア州)

乗客数:1億470万人

同空港は、20年以上にわたって首位を守っている。
2023年には、乗客数が前年比で11.7%増加した。

              
10空港のうち9つを利用している私ですが、
1位の空港は意外。
何故利用する機会がなかったのか、謎です。

 


短編集『流浪地球』

2024年08月08日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

「三体」(2008)で世界的にヒットした
中国のSF作家・劉慈欣(リュウ・ジキン)が
それ以前に書いた短編を集めた本。
同時期に翻訳された11編を
5編を「老神介護」に、
6編を本作に割り振って、出版された。
「老神介護」が地球編なら、
こちらは宇宙編

「流浪地球」

天体物理学者たちは、
太陽内部の水素がヘリウムに転換する速度が、
突然加速したのを発見した。
やがてヘリウムフラッシュが起こると、
爆発した太陽に地球は飲み込まれてしまう。
人類が生存する唯一のチャンスは、
太陽系外の恒星系に移住することで、
地球から最も近い4.3光年離れたケンタウルス座の恒星
プロキシマ・ケンタウリが目標となった。
そこへの移住手段は、
重元素核融合で動く「地球エンジン」を、
アジア・アメリカ大陸に、
1万2千基を建設し、
そのエンジンの噴射で地球を移動させ、
太陽系を脱出するというものだった。
こうして、地球はそれ自体が宇宙船となり、
太陽から遠ざかっていった。

途中、太陽の表面的な見た目が以前と変化していなかったことから、
太陽の寿命が近いとの説は誤りだったのではないかと考える人が相次ぎ、
世界各地で反乱が起きたりする。

という奇想天外な話だが、
ありそうな科学的根拠が示される。

「ミクロ紀元」

太陽がスーパーフレアを起こす可能性があることから、
移住出来る星があるかを調べるため、
惑星探査に旅立った宇宙飛行士は「先駆者」と呼ばれた。
光速に近い速度で飛んだ後、
先駆者が帰還した時は、
地球時間で、2万5千年が経っていた。
先駆者が目にしたのは、死に絶えた地球と文明の消滅だった。
しかし、人類は、ミクロの人間として生き延びていた。
大災禍まであと一世紀という時、
一人の遺伝子エンジニアが、
天啓のように、あるアイデアを思いついた。
人類の体積を10億分の1に縮小して、
地中に入り、災禍が過ぎ去った頃、
地上に戻ろうというものだった。
こうして、ミクロ化した人類は、
ナノテクノロジーを駆使して、
直径1メートルの透明なドームの中で生きていた。

これも、よくこんなことを思いついたものだという、奇想の話。

「呑食者」

地球防衛軍は、宇宙空間で半透明の結晶体に遭遇する。
それは、滅ぼされた星の警告装置だった。
装置は、少女の声で警告する「警報! 呑食者が来る! 」。
呑食者(どんしょくしゃ)とは、
巨大なタイヤのような宇宙船で、
星をまるごと飲み込み、全てを吸い上げるのだという。

やがて、地球に呑食者の先触れ役が地球を訪れる。
先触れ役は巨大な体を持ち、地球の首脳の一人を食べてしまう。
やがてタイヤが現れ、地球は飲み込まれるが、
地球防衛軍の大佐の知恵によって、
呑食者は去り、地球は再生する。

「呪い5.0」

ある女性が裏切った恋人に復讐するために
「呪い1.0」というコンピューターウィルスを開発し、
ネットに送り込む。
それは、「呪い2.0」「呪い3.0」「呪い4.0」とバージョンアップし、
ネットを支配し、大災禍を起こす。
町全体の水道が汚染され、
コンピューターの支配するインフラは大混乱する。
皮肉なことに、女性は自分の起こした災禍に飲み込まれて死に、
恋人は、ネットと遮断された生活をしたために生き延びる。

「中国太陽」

中国上空に、ある巨大な構造物が設置される。
2万平方キロの大きさを持つ反射鏡だ。
高度3万6千キロの静止軌道上にあって、
太陽の光を地球に向かって反射する。
それによって、自然がコントロールされ、
人類は繁栄する。

物語は、主人公のシュイワーの視点で描かれる。
シュイワーは、貧しい農家の息子として生まれるが、
炭鉱夫、靴磨き、超高層ビルの窓拭き
を経て、中国太陽のエンジニアとなり、
最後は、惑星間航行船乗組員となる。
貧農の子どもが
少しずつ大きな世界を見て、
能力を伸ばし、
人類の最先端に立つまでになる様は感動的。

「山」

異星船の接近で
引力により隆起した海面、
その高さ9100メートル。
かつて登山家であったホンファンは、
その水で出来た山を泳いで登り、
山頂で異星船の主と会話する。
会話は船の底に現れた文字でなされる。
宇宙空間を移動する間に
地球の言語を学習したのだという。

その異星人の話がすさまじい。
異星人は固体で出来ている。
筋肉や骨格は金属、
大脳はICチップで、
電流と磁気が血液。
放射性岩石を食物とし、
そのエネルギーで生存している。
彼らの宇宙観は、全て岩石で出来ている。
しかし、その宇宙の果てについて科学的異論が生じ、
泡船という乗り物で、果てに向かって探査するうち、
全く違う物質「液体」に遭遇する。
泡船は水の侵入でショートし、炎上する。

ここで分かるのは、異星人らは、
地球のような惑星のコアに住むものたちで、
固体だけで世界は出来ていると思っていたが、
泡船は上昇して、海にぶつかったのだ。
彼らは液体を「無形岩」と呼ぶ。
そして、更に上昇した泡船は、
ついに「気体」に遭遇する。

という話をして、異星人は去って行き、
ホンファンは、水で出来た地球最高峰の山を制覇したという満足感で、
過去の山岳事故の心の傷が癒される。

という6編のSF短編。
その発想、スケール、科学的蘊蓄で、
劉慈欣が本物のSF作家であることが分かる。
天才とは、このような人のことを言う。

なお、「流浪地球」は、映画化され、
「流転の地球」というタイトルでNetflixで配信されたが、
地球をエンジンで太陽系から脱出させる、という
アイデアだけを借用した、
別な話になっていた。

また、過去に、「妖星ゴラス」(1962)という東宝の特撮モノがあり、
質量が地球の六千倍ある黒色矮星・ゴラスとの衝突を避けるために、
南極大陸に原子力ジェットパイプを並べ、
地球を公転軌道から移動させるというアイデアだった。

SF作家の山本弘が2009年に発表したSF小説「地球移動作戦」は、
この作品へのオマージュとして書かれた小説。

 


映画『ヤング・ウーマン・アンド・シー』

2024年08月07日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

1926年に英仏海峡を泳いで渡った
最初の女性を描くドラマ。

コニー・アイランドの精肉店の娘、
トゥルーディ・イーダリーは、
姉に付いて行ったプールで水泳に目覚める。
オーストラリアのスイマーと対決して勝利を収めるなど、
実力を付けたトゥルーディは、
1924年に開催されたパリ・オリンピックにも出場するが、
船で渡航中、全く練習をさせてもらえなかったため、惨敗。
「やはり女はダメだ」という世論に翻弄される。
当時の女性差別のすさまじさに驚く。
とにかく、女性は男性より劣る存在とされていた。
このままでは、父の精肉店を継いで
結婚するしかないという自分の運命を切り開くために、
英仏海峡を女性で初めて泳ぎ切る挑戦をするが・・・

英仏海峡と言えば、
最狭部のドーバー海峡が最短距離で34キロだが、
南西から北東へ流れる早い潮流に流されるため、
実際に泳ぐ距離は60キロ程と、もっと長い。
水温が低く、体力を奪われ、
夜を徹して泳ぐことによる精神的疲労もきつい。
更に、浅瀬には伴走船が入れないため、
たった一人で孤独に耐えなければならず、
方向を見失って、溺れ死ぬ者が続出した。

記録に残っている中で
最初にドーバー海峡を泳いで渡ったのは、
イギリス人男性のマシュー・ウェッブで、
1875年8月25日にイギリスのドーバーを出発し、
21時間45分かかってフランスのカレーに到着した

記録が公認されるのは
水着だけを着用し、己の力のみで泳いだ場合だけで、
ウェットスーツを着用したり
何らかの補助を用いたりした場合は公認されない。
誰かの手が触れただけで失格とされる。

当時、英仏海峡対横断は、
“強い男性”だけが成し遂げられるとされていた。
女性には不可能だという周囲の声をはねのけ、
女性として挑戦したトゥルーディ・イーダリーの生涯。
トゥルーディは自分の意志を強く持ち、
目標達成のためにはどんなことにも真摯に取り組む努力家。
女性が泳ぐことが一般的でなかった当時、
周りから白い目で見られても諦めず、
姉と献身的なコーチらの力強いサポートを受けながら、
偉業を成し遂げた。

資金を出させるために
有力者と交渉して、
コニーアイランドからニュージャージーまで
時間内に泳いで渡るなど、映画的要素も加える。
最初の海峡横断は失敗。
(その失敗の原因は、いかにもディズニー的。)
再度の挑戦で、周囲の応援に後押しされて成功するまでの
軌跡をていねいに描いて、引き付けられる。
途中、クラゲで一杯の海を泳ぎ切り、
最後の浅瀬でたった一人、
方向を見失ったトゥルーディーを助けたものは・・・
良い意味でアメリカ的な展開に胸が踊り、
感動的だ。

トゥルーディ・イーダリーを演ずるのは、
「スター・ウォーズ」の新シリーズ(エピソード7・8・9)で
主役レイを演じたデイジー・リドリー


これがいい。
明確な意志を持つ女性を演じ切った。
似た映画「ナイアド」(2023) は、
フロリダ海峡を泳いだ60代の女性を描いたものだが、
その主人公が相当クセの強い女性だったのに対して、
若い女性の夢と希望を担う演技が胸を打つ。
やはりこの手の映画は主人公にどれだけ感情移入できるかだが、
デイジーの魅力がそれを成功させた。
また、父親役や先駆者役など、
アメリカにはベテランの良い役者が沢山いる。

トゥルーディの記録は、14時間31分。
それまでの男性の記録を2時間も上回った。
それも、平泳ぎではなく、
クロールで泳いだから。
それだけでも驚異的だ。

最後にニューヨークの大通りでの凱旋パレードが描かれ、
「スポーツ界における女性の地位向上に貢献した」
と文字が出る。
トゥルーディは、その後、
聴力を失い(少女期にかかったはしかのため)
聾唖者の水泳教育に生涯を捧げ、
2003年、98歳で亡くなった。

監督はヨアヒム・ローニング
カメラワーク、人間の描写も的確。
製作は「トップガン」のジェリー・ブラッカイマー

アメリカの良き時代の成功物語として、
胸躍る、よく出来た作品だった。

なお、Wikipediaには、
女性の名前は「ガートルード・キャロライン・イーダリー」と
なっているが、はて。

アメリカでは5月に公開され、高い評価を得たが、
日本では、Disny+の配信でのみ公開。
                                        

 


王子稲荷神社

2024年08月06日 23時00分00秒 | 名所めぐり

7月29日のブログで訪れた王子神社から
徒歩で5分ほどのところに、
王子稲荷神社があります。


征夷大将軍、源頼義により
「関東稲荷総司」の称号を頂いた、由緒ある神社。

神社運営の「いなり幼稚園」が境内にあり


神門が幼稚園の入口となるため、
幼稚園の開園時間はこの門は閉ざされています。

そこで、この急坂「いなり坂」を登って行きます。

正面。

鳥居。

狛犬ではなく狐が左右に。

中に入ります。

大木。

能舞台?

社殿。

十一代将軍家斉公により寄進されたもの。

更に奥にある社。

この階段は今は閉鎖中。

下に移り、神門から入ります。

幼稚園。

今は閉鎖中の階段を登って参拝も出来ます。

ここにも神社内神社が。

民話「王子の狐火」や落語「王子の狐」でも有名。
狐火(きつねび)は、日本各地に伝わる怪火。

かつて王子周辺が一面の田園地帯だった頃、
路傍に一本の大きな榎の木があり、
毎年大晦日の夜になると関八州(関東全域)の狐たちが
この木の下に集まり、
正装を整えて、
官位を求めて王子稲荷へ参殿したといいます。
その際に見られる狐火の行列は壮観で、
近在の農民はその数を数えて翌年の豊凶を占ったと伝えられています。

↓は、その伝承を描いた歌川広重の浮世絵「王子装束ゑの木大晦日の狐火」

これにちなみ、
大晦日から元日未明にかけては、
除夜とともに「大晦日狐の行列」が王子稲荷へ向かいます。

境内にある「狐の穴跡」は、
落語「王子の狐」の舞台にもなっています。

ある男が王子稲荷に参詣した帰り道、
一匹の狐が美女に化けるところを見かける。
男は化かされた振りをして声をかけ、
近くの料理屋・扇屋に上がり込み、
差しつ差されつやっていると、
狐は酔いつぶれ、すやすやと眠ってしまった。
そこで男は、土産に卵焼きを包ませ、
「勘定は女が払う」と言い残して、帰ってしまう。
しばらくして、店の者に起こされた狐は、
男が帰ってしまったと聞いて驚き、
びっくりしたあまり、狐の姿に戻ってしまう。
店の者に追われた狐はほうほうの体で逃げ出した。
狐を化かした男、友人に吹聴するが
「そんなことをするもんじゃない。狐は執念深いぞ」と脅かされ、
青くなって翌日、王子まで詫びにやってくる。
巣穴とおぼしきあたりで遊んでいた子狐に
「昨日は悪いことをした。謝っといてくれ」
と手土産を渡す。
穴の中では痛い目にあった母狐がうんうん唸っている。
子狐は「今、人間がきて、謝りながらこれを置いていった」
と手土産を開けると、中身は美味そうなぼた餅。
子狐が食べようとすると、母狐があわてて止め、
「いけないよ! 馬の糞かもしれない!」                 

噺の中に登場する料理茶屋「扇屋」は今でも存在するお店で、
厚焼き玉子が美味しいと有名。

毎年2月の午の日に開かれる凧市は、

たびたび大火にみまわれた江戸庶民たちが
「凧は風を切る」として火事除けの縁起をかついだもの。

神社が所蔵する
「額面著色鬼女図」は、
日本画家、蒔絵師として有名な柴田是真(しばたぜしん)作の大きな絵馬。


国認定重要美術品です。

絵馬として販売。


このほかにも谷文晁筆の板絵著色の龍図や数多くの文化財が保存されています。

帰り道の京浜東北線をくぐる地下道にも


が描かれています。

夜一人で通ると狐に化かされるかもしれません。

                                        


『生き物の死にざま』

2024年08月04日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]
 
生き物がどんな死に方をするか、を
29の生き物(動物)の例をあげて、
生命の不思議に迫る本。

著者の稲垣栄洋氏は、
静岡大学大学院農学研究科教授。
専門は雑草生態学。
「スイカのタネはなぜ散らばっているのか」
他、著書多数。

29の生き物とは、↓。

1 空が見えない最期──セミ
2 子に身を捧ぐ生涯──ハサミムシ
3 母なる川で循環していく命──サケ
4 子を想い命がけの侵入と脱出──アカイエカ
5 三億年命をつないできたつわもの──カゲロウ

6 メスに食われながらも交尾をやめないオス──カマキリ
7 交尾に明け暮れ、死す──アンテキヌス
8 メスに寄生し、放精後はメスに吸収されるオス──チョウチンアンコウ
9 生涯一度きりの交接と子への愛──タコ
10 無数の卵の死の上に在る生魚──マンボウ

11 生きていることが生きがい──クラゲ
12 海と陸の危険に満ちた一生──ウミガメ
13 深海のメスのカニはなぜ冷たい海に向かったか──イエティクラブ
14 太古より海底に降り注ぐプランクトンの遺骸──マリンスノー
15 餌にたどりつくまでの長く危険な道のり──アリ

16 卵を産めなくなった女王アリの最期──シロアリ
17 戦うために生まれてきた永遠の幼虫──兵隊アブラムシ
18 冬を前に現れ、冬とともに死す“雪虫”──ワタアブラムシ
19 老化しない奇妙な生き物──ハダカデバネズミ
20 花の蜜集めは晩年に課された危険な任務──ミツバチ

21 なぜ危険を顧みず道路を横切るのか──ヒキガエル
22 巣を出ることなく生涯を閉じるメス──ミノムシ( オオミノガ) 
23 クモの巣に餌がかかるのをただただ待つ──ジョロウグモ
24 草食動物も肉食動物も最後は肉に──シマウマとライオン
25 出荷までの四、五〇日間──ニワトリ

26 実験室で閉じる生涯──ネズミ
27 ヒトを必要としたオオカミの子孫の今──イヌ
28 かつては神とされた獣たちの終焉──ニホンオオカミ
29 死を悼む動物なのか──ゾウ

普段、動物や虫の死に方など気にしていない人が
大多数だと思うが、
改めて生きること、死ぬことに注目させてくれる。

目についた主な内容を書くと、

○セミの命は短い、と言われているが、
 実は地中で7年以上生きて、成虫になった途端、
 ひと夏の命で終わる。
 セミは必ず上を向いて死ぬ
 昆虫は硬直すると脚が縮まり関節が曲がるので、
 体を支えることが出来ずに、ひっくり返ってしまうのだ。

ハサミムシは卵を守り、子育てする珍しい昆虫。
 石を持ち上げると、子どもを守るために威嚇する。
 孵った幼虫は、母親の体を食べて成長する。
 母親は自分の体を子どもたちに与えて死ぬ

サケは生まれた川に戻ってメスは卵を産み、
 オスは精子をかける。
 サケは繁殖行動を終えると死ぬようにプログラムされている。
 そして、その死骸はプランクトンを生み、
 孵った子どもたちは、それを食べて育ち、
 やがて海を目指し、再び帰って来る。
 こうしてサケの命は循環する。

○はかない命の代名詞のように言われるカゲロウは、
 セミと同様、幼虫の時代を何年も川の中ですごす。
 そして、成虫になると、数時間で命が終わる。
 成虫は口もなく、生殖機能しかない。
 そして、群れを作り、交尾する。
 コウモリがそれを狙って食べに来る。
 生き残ったメスは水の中に卵を産んで死に絶える。
 あとは魚のエサ。
 交尾し、子孫を残すためだけに
 数時間の成虫の時を過ごす。
 カゲロウが発生したのは3億年前。

タコのオスは生涯たった一度の交接をした後、死ぬ。
 メスは卵を生み、卵を守り続ける。
 絶食したまま、何か月もの間、卵を守り
 子どもたちが生まれるのを確認して、死ぬ。

働きバチの寿命は1か月余り。
 巣の中で清掃や子守などの「内勤」をし、
 その生涯の後半、2週間が花から蜜を採集する期間。
 一匹のミツバチは、働き続けて、スプーン一杯の蜂蜜を集め、
 どこかで天敵に襲われて、命を落とす。

シマウマは「天寿を全うする」という死に方はない。
 途中、ライオンに襲われて食べられてしまうから大。
 そのライオンも年老いれば、群れを離れ、死ぬ。
 その後はハイエナやジャッカルに食われる。

ブロイラーは効率よく成長できるように改良され、
 体重1キロ増やすのに必要な餌の量はわずか2キロ強。
 人間に食べられるために、
 生後40日から50日で出荷される。
 世界で200億羽が飼育されており、
 世界人口75億の2.5倍だ。

特に、次の「死」の発明の記述は瞠目した。

○単細胞生物は細胞分裂によって増えるので、
 「死」はない。
 生命が地球に誕生したのは38億年ほど前、
 全てが単細胞生物であった時代に、
 生物に「死」は存在しなかった
 しかし、それでは新しいものを作り出すことは出来ない。
 そこで、生物はコピーをするのではなく、
 一度、壊して、新しく作り出す方法を選んだ。
 しかし、全てを壊しては、元に戻すのは大変。
 そこで、生命は、元の個体から遺伝情報を持ち寄って、
 新しいものを作り出す方法を編み出した。
 それがオスとメスという性。
 その仕組みを生み出すと同時に、
 生物は「死」というシステムを作り出した。
 生物は命を永らえさせる方法として、
 新しい命を生み出し、
 古い命を殺す(死ぬ)という方法を選んだ。
 この方法の方が
 より種族を存続させることができると考えたからだ。
 こうして、生命は、
 「死」と「再生」という仕組みを作り出した。
 「死」は、38億年に及ぶ生命の歴史の中で、
 10億年前に、生物自身が生み出した偉大な発明なのだ。

セミやカゲロウやサケの生涯を通じて分かるのは、
生き物の使命とは、
子孫を残すこと
自分のDNAを次世代に継承させることである。
それには、二つの方法があり、
沢山の卵を生んで、
他の生物の餌食になりながら、
生存する確率を高める方法。
もう一つは、数少ない個体を大きく生んで、
餌食になる機会を減らす方法。
いずれにせよ、
子孫を増やすための方法論である。

単細胞生物から、
性が分離して、
死が生まれ、
遺伝子を継承していく仕組み。
その中で、
多様な生き物が誕生し、
様々な生態が生まれた。
まさに、地球は生命に満ちた惑星である。
その不思議さを思わせる本だった。