ホントが知りたい食の安全
日本の方が安全性が高いとは言えない
食品安全性を考えるうえで最大のリスクは、生産から販売までの流通全段階における衛生条件の不備による「食中毒」です。この食中毒が発生しないようにする衛生管理の仕組みとその認証の制度がHACCP(ハセップ:危害分析重要管理点)です。日本の食べ物は、基本的に何らかの基準に基づいて衛生管理をしており、安全と言えるでしょう。しかし重要なのはその徹底度合いです。
米国では法律でFDA(米国食品医薬品局)が、すべての食品加工業者にHACCP取得を義務付けています。それに対し、日本の食品加工施設でのHACCP取得率はわずか20%程度。正直なところ、衛生管理の視点では米国の方がはるかに先進国です。食品安全の視点では「日本の方が安全性が高い」とは言えないことを直視すべきです。従って、「危険な食べ物が入ってくるからTPP反対」というロジックは成立しないのです。
逆に、「日本の衛生管理水準は高くない」ことが大きな問題だと気がつくべきでしょう。消費者にとってはより安全なものが手に入る方が好ましいのはいうまでもありません。消費者の利益を守る上では、衛生管理の水準を上げることはあっても下げることはありません。
■衛生管理を徹底すべき
誤解されやすいポイントとして、TPPには「同質化条項」があります。基準をそろえようというものですが、衛生管理においては米国の衛生管理の水準と同じように日本の水準を引き上げよう、ということになります。対応できていない日本の食品加工業者は市場から締め出される恐れがあるのです。
日本の食を扱う人々にとっては、より衛生管理の高い水準が共通ルールになることこそが実は脅威です。そのこと自体は消費者にとって利得をもたらすものである以上、反対できるものではありません。今すぐにでも衛生管理の徹底に投資を行い、それに対して公的機関が支援するのが国際戦略上正しいと考えるべきなのではないでしょうか。このことは海外に食品を輸出する場合でも同じです。
遺伝子組み換え作物についても、誤解の多い点です。すでに日本では多くの食品に使われています。TPPに参加したからといって規制が変わるものではないので、この点は心配する必要はないでしょう。
有路昌彦
近畿大学農学部准教授。京都大学農学部卒業。同大学院農学研究科博士課程修了(京都大学博士:生物資源経済学)。UFJ総合研究所、民間企業役員などを経て現職。(株)自然産業研究所取締役を兼務。水産業などの食品産業が、グローバル化の中で持続可能になる方法を、経済学と経営学の手法を用いて研究。経営再生や事業化支援を実践している。著書論文多数。近著に『無添加はかえって危ない』(日経BP社)、『水産業者のための会計・経営技術』(緑書房)など。より抜粋