連休が終わり、仕事も終わり、念願の山に行ってきた。
毎日私が仕事だった連休中、ろくな食事も与えられず(笑)、山に行くのもがまんしていた夫をさしおいて、
夫が出勤するやいなやひとりで阿蘇へ。どうもすみません
去年熊本に越してきたのは夏だったので、考えてみれば春の阿蘇に登るのは初めてなのだった。
春とはいえ、熊本市内の最高気温が27℃。連休中も夏のような日が続いていた。
私の体感的に、熊本の春は2月から始まる。だいたい、スイカが3月末から店頭に並ぶのだ。
でも標高の高い阿蘇の麓では、市内ではとうに終わった躑躅が満開であり、山上ではまだヤマザクラが咲いていた。
ところで、杵島岳は去年の秋に一度登り、ガスでなにも見えなかった山だ。
杵島岳眺望のリベンジを兼ねているのと、前回断念した往生岳登頂が目的だった。
だが、おおざっぱで綿密な計画をたてない私は、調査不足である勘違いをしていた。この時の記事で、
「鞍部をはさんですぐむこうに見えるのが往生岳。天候がよければなんなくふたつとも登れる山」 と書いていて、
昨日もそう思って登って行ったのだった。午後から登っても、遅くとも2時頃には降りてきてるだろう、くらいの感覚。
実際そんなに大変ではなわけではないけど、前回ガスの中で、「往生岳を完全に誤解」していたのだった。
登山は朝早く出るのが鉄則だけど、「近場だし、時間のかからない山だ」という油断もあり、阿蘇に着いたのは12時だった。
杵島岳へは、石段で舗装された階段を空に向かって登っていく。私が登り始める頃には、午前組の団体が、下山してくるところだった。
この時間から登り始めるひとは少なく、この時いたのは私と、そしてずいぶん軽装なおじさんがひとり。
私は、靴だけはGORE-TEXのSCARPAを履いていたけど、ザックではなく普段使いのバックをななめがけにして、
ずいぶんナメた軽装だったが、おじさんはさらに上をいっており、
手荷物はペットボトル1本と小さなデジカメだけ、足もとはCROCSといういでたちだった。
登山口ですれ違い、挨拶を交わしたものの、私は花を見つけるたびに、しゃがんだり腹ばいになったりしているので、
おじさんにはすぐに抜かされていった。
下をみたり上をみたりしながら石段を登っていると、石段の途中でおじさんが座って休んでいて、
下にいる私に、「えらいねー」と声をかけた。 私は「えらい」の意味がどっちか一瞬迷った。
三重県出身の私の地元で「えらい」というと、「疲れる」という意味と、「立派だ、偉い」の意味と両方ある。
おじさんは東海地方出身なのだろうか、とちょっと思いながら「はーい」と曖昧に返事をした。
おじさんが「疲れるねー」と言いたかったか、「ひとりで偉いねー」と言ったのかわからずじまい。
追いついた私とおじさんは、石段に並んで腰かけて、阿蘇を見降ろしながらすこし話した。
おじさんは日本全国いろんな山にいったけれど、結局阿蘇がいちばん飽きがこない、と言った。
いろんな山に行ってる格好ではないのに見た目じゃないもんだ、と感心した。
「一人で登るのかい?俺もいつも一人だ。一人がいちばん気楽でいいんだ」とおじさんは言った。
私は普段は夫と一緒だけど、逐一説明する必要もない気がして「そうですね」と答えた。
そしておじさんは、「阿蘇がいちばんだけど、もう一度いってみたいのは能登だな」とも言った。
「能登って日本海のほうの?」「そう、石川と富山のほうだ」「へえ」なんてことを話したあと、
能登のおじさんは先に登って行った。足もとがCROCSでも、山に登るひとは皆、紳士だ。
杵島岳山頂は風も穏やかで、気持ちよかった。私が山頂に着いたとき、能登のおじさんが左手の方へ歩いていくところだった。
山頂で寝転がってのんびりしたあと、能登のおじさんの行ったほうへ、私も歩いた。そっちにきっと往生岳があるのだろう、と思った。
途中、花を撮るために腹ばいになっていたとき、車のキーが落ちているのを見つけた。
能登のおじさんのかもしれない、と思い、ずいぶん先に行ってるおじさんを追いかけて、「おじさーん」と呼んだ。
杵島岳の山頂標識のところまでもうすぐ一周する、というあたりだった。
「おじさーん、車のキー、落としてないー?」と叫ぶと、果たしてキーはおじさんのものであり、
「うわあー!」と驚いて、何度も「ありがとう、ありがとう、これも何かの縁かな、ありがとう」と言って下って行った。
私があの場所で花を撮らなければ、私が見つけることはなかった。
きっとおじさんについてる神様が私に拾わせたので、おじさんの普段の行いがいいせいだろう、と思った。
さて私がキーを届けた時、能登のおじさんは、反対側から登ってきたマッチョなおじさんと立ち話をしていて、
私が、「往生岳の標識がどこにもなかった」と言うと、マッチョなおじさんが「往生岳はあっちだよ。ここは杵島岳だ」と教えてくれた。
前回霧の中で、杵島岳の向こうに、ピークがある、と勘違いしたのは、杵島岳の一部だったのだ。
杵島岳の中央は火口になっており、火口縁の向こう側を往生岳だと思ってしまっていた。
下は杵島岳山頂標識のところから見た位置関係。
マッチョなおじさんの案内でまた逆方向に戻り、
「ほれ、あそこに白く道が出来ているから、たぶんあれをいけば頂上にいける」と教えてもらう。なんと、また一度谷まで降りて登り直しだ。
予想に反して一歩向こうに佇む往生岳に多少ひるみ、「往復一時間くらいで戻ってこられるかな」とぐずぐずしていると、
「いや、そんなにかからんよ。山頂まで30分かからないんじゃない?」とマッチョ。
また別の、通りかかった第3のおじさんが「でももう遅いし」とひきとめる中、
「なに、最近は日暮も遅いから大丈夫大丈夫」とマッチョは、自分がいくわけでもないのに、ずいぶんと太鼓判をおしまくる。
私は初対面の女子なのであり、しかも私はナメたバッグひとつをななめにかけており、
マッチョは私の力量も知らないのに、その確信はいったいなにか。私の登山靴を見逃さなかったからか。
でも往生岳が目的であったわけなので、マッチョの声は神の声かもしれず、
「よし、いってくる!」と意気込み、マッチョと第3のおじさんに手をふって、往生岳に向かった。
つづく
Twitterでのフォロー並びにリツイートありがとうございます。
実は息子小五に薦めてふくしま子供たいしに応募したんです。熊本学園大学には予想どおり苦情が殺到しているらしく、「応援する」とした私のツイートにも何人かの方が噛みついてきて閉口しています。
きのこさんのツイートにほっとしたので、お礼がいいたくてお邪魔したんですが、山の写真に心躍りました。
なんだか脈略のない話になりましたが、今後とも宜しくお願いします。