普賢岳登山中に、山頂付近で夫と喧嘩。
ひどい夫は、例によってどんどん先に行ってしまい、下山は別行動。ひとりで普賢岳を降りた。
無言のまま駐車場で合流し、でもとりあえず温泉に入るべく、不穏な空気を乗せたまま車は雲仙地獄へと向かったのだった。
地獄への入り口・・・そういえば、先日ワイドショーかなにかで、「妻の体調不良の原因の殆どは夫の言動だ」とか言ってたな。。。
確かにそうに違いない、そういやこのごろ肩こりが・・・・
鼻につく硫黄のにおいと、ぐつぐつ煮えたぎる池の底から、視界も遮らんと立ち上る不気味な白煙。
「大叫喚地獄」とおどろおどろしい名のついた地獄もあった。
「ひどい夫」を地獄につきおとすならいまか!
サスペンスは佳境を迎え、足音を忍ばせて夫の背後に近づいたその時・・・
「ちょっと待った!!」 とばかりに割って入ったなにものかが現れた。
誰っ!刑事?ペッパー警部?邪魔をしないで!
現れたのは・・・
首輪もしてない、つながれてない、白い犬でした。
彼は自分の庭のようにして、観光客の間を弾むような足取りで歩きまわっていた。
地獄エリアには数軒、地獄の湯でゆでたゆでたまごを売る店があり、
そこで飼われているのか、それとも放浪犬なのか最初は判断がつかなかった。
ゆでたまごを売るおじいさんに、「この犬はここのいぬなんですか」と聞いたが、おじいさんは耳が遠いらしく、
「そう、そこのね、ぐつぐつしてるところでゆでたたまごなんだよ」
「あの白い犬はいつもここにいるんですか」
「美味しいよ。塩もつけとくよ」
とまあ、要領を得なかった。でも迷い犬なら放ってはおけない。
おじいさんから買ったゆでたまご、「食べる?」と白い犬に聞くと、嬉しそうに眉根をひろげて近づいてきた。
でも、一定の距離を保っておとなしく座り、私が殻をむくのを待っている。
ゆでたまごを半分に割って、ふーふーして手のひらにのせ差し出すが、
白い犬はちょっと顔をそむける感じで、
でも食べる気は満々、という表情で、待っている。その顔はこう言っている。
「あっしは野良でやんす。 ひとさまの手からなんて食べられやせん、どうか地べたに置いておくんなせえ」
こういう子をみると、私は本当にいじらしくなり、抱きしめたくてしかたがないが、抱きしめられないことも知っている。
仙台の150匹犬猫ボランティアの愛すべき犬たちのことを思い出さずにはいられない。
ちょうどあの子たちにそっくりな、はにかむような、甘えベタな白い犬。
ゆでたまごを地面に置いてすこし離れると、さも美味しそうにぜんぶたいらげた。
(注意:犬に、「生たまご」は与えないでください。下痢の原因になります)
私達が移動すると、 「別に催促してるわけじゃーありませんが」といった顔でついてきて、
もう一個ゆでたまごをむきはじめると、なんとなくその顔は嬉しさを隠せない。
「おまえ、うちに来るかい?」
と聞いたら、
「あっしの庭はここでやんす」 と言う。
痩せているわけでもなく、毛並みもよく、自由に歩き回っているけどたぶん、
ここで地域犬として可愛がられているのかもしれない。
彼がすこしでも、連れて行って欲しそうなそぶりを見せたら、
犬を飼うことにいつまで経っても反対している夫を無視して、私は連れて帰って来たと思う。
でも、白い犬は、連れて帰って欲しそうではなく、とても自由で幸せそうだった。
私のゆでたまごを2個食べ、満足そうに、丘のほうへと登って行った。
あ、君のおかげで、夫を突き落とさずにすみました。どうかいつまでも、幸せに暮らしてね。
注意:ちなみに実際には、地獄と名はつけど、ここはサスペンスには不向きです。
こんな感じ。
命を救った。ということでやんすか・・・ 旦那さんの命の恩人ということでやんすね。
そうそう、たまごを、あんさんの手からもらわなかった
理由を御教えいたしやしょう。
あっしには、野良としての誇りがござんす。
尻尾を振るだけの落ちぶれた飼い犬どもとは、
違うでやんす。生きていくために、人間どもに媚びた
真似はしても、魂までは売ってはおりやせん!
あんさんが御撮りになった、あっしの2枚目の写真、
あれが、あっしの真の雄姿でやんす。誇り高き侍、
といった感じでやんしょ?!
なにはともあれ、ありがとうでやんした。。。