337の3『自然と人間の歴史・日本篇』「東亜新関係方針」(1938)と近衛声明(1938)
1938年、日本政府は、中国をうまいこと自己の思惑に合致するように誘導、なんとかして実質的な支配の網をかけたいと願い、かつ行動していた。
具体的には、日本は、国民政府に対し、脅したり、無視したりを繰り返していく。
近衛内閣の第一次声明では、その時点では「国民党政府を交渉相手と認めない」態度をとしていた。
それが、武漢そして広東を占領すると、それまでの強硬姿勢一点張りを修正するにいたる。11月3日には「御前会議」が開かれ、昭和天皇が参加の下で、つぎの新方針を決定した。
「日満支三国は東亜に於ける新秩序建設の理想の下に相互に善隣として結合し東洋平和の枢軸たることを共同の目標と為す之が為基礎たるべき事項左の如し
一、互恵を基調とする日満支一般提携就中善隣友好、防共共同防衛、経済提携原則の設定
二、北支及び蒙彊に於ける国防上竝経済上(特に資源の開発利用)日支強度結合地帯の設定
蒙彊地方は前項の外特に防共の為軍事上竝政治上特殊地位の設定
三、揚子江下流地域に於ける経済上日支強度結合地帯の設定
四、南支沿岸特定島嶼に於ける特殊地位の設定
之が具体的事項に関しては別紙要項に準拠す
二、北支及び蒙彊に於ける国防上竝経済上(特に資源の開発利用)日支強度結合地帯の設定
蒙彊地方は前項の外特に防共の為軍事上竝政治上特殊地位の設定
三、揚子江下流地域に於ける経済上日支強度結合地帯の設定
四、南支沿岸特定島嶼に於ける特殊地位の設定
之が具体的事項に関しては別紙要項に準拠す
別紙
日支新関係調整要項
第一 善隣友好の原則に関する事項
日満支三国は相互に本然の特質を尊重し渾然相提携して東洋の平和を確保し善隣友好の実を挙ぐる為各般に亘り互助連環有効促進の手段を講ずること
一、支那は満洲帝国を承認し日本及び満洲は支那の領土及び主権を尊重し日満支三国は新国交を修復す
二、日満支三国は政治、外交、教育、宣伝、交易等諸般に亙り相互に好誼を破壊するが如き措置及び原因を撤廃し且将来に亙り之を禁絶す
三、日満支三国は相互提携を基調とする外交を行い之に反するが如き一切の措置を第三国との関係に於いて執らざるものとす
四、日満支三国は文化の融合、創造及び発展に協力す
五、新支那の政治形態は分治合作主義に則り施策す
蒙彊は高度の防共自治区域とす
上海、青島、厦門は各々既定方針に基づく特別行政区域とす
六、日本は新中央政府に少数の顧問を派遣し新建設に協力す特に強度結合地帯其の他特定の地域に在りては所要の機関に顧問を配置す
七、日満支善隣関係の具現に伴い日本は漸次租界、治外法権等の返還を考慮す
二、日満支三国は政治、外交、教育、宣伝、交易等諸般に亙り相互に好誼を破壊するが如き措置及び原因を撤廃し且将来に亙り之を禁絶す
三、日満支三国は相互提携を基調とする外交を行い之に反するが如き一切の措置を第三国との関係に於いて執らざるものとす
四、日満支三国は文化の融合、創造及び発展に協力す
五、新支那の政治形態は分治合作主義に則り施策す
蒙彊は高度の防共自治区域とす
上海、青島、厦門は各々既定方針に基づく特別行政区域とす
六、日本は新中央政府に少数の顧問を派遣し新建設に協力す特に強度結合地帯其の他特定の地域に在りては所要の機関に顧問を配置す
七、日満支善隣関係の具現に伴い日本は漸次租界、治外法権等の返還を考慮す
第二 共同防衛の原則に関する事項
日満支三国は協同して防共に当たると共に共通の治安安寧の維持に関し協力すること
一、日満支三国は各々其の領域内に於ける共産分子及び組織を芟除すると共に防共に関する情報宣伝等に関し提携協力す
二、日支協同して防共を実行す
之が為日本は所要の軍隊を北支及び蒙彊の要地に駐屯す
三、別に日支防共軍事同盟を締結す
四、第二項以外の日本軍隊は全般竝局地の情勢に即応し成るべく早急に之を撤収す
但し保障の為北支及び南京、上海、杭州三角地帯に於けるものは治安の確立する迄之を駐屯せしむ
共通の治安安寧維持の為揚子江沿岸特定の地点及び南支沿岸特定の島嶼及び之に関連する地点に若干の艦船部隊を駐屯す尚揚子江及び支那沿岸に於ける艦船の航泊は自由とす
五、支那は前項治安協力のための日本の駐兵に対し財政的協力の義務を負う
六、日本は概ね駐兵地域に存在する鉄道、航空、通信竝主要港湾水路に対し軍事上の要求権及び監督権を保留す
七、支那は警察隊及び軍隊を改善整理すると共に之が日本軍駐屯地域の配置竝軍事施設は当分治安及び国防上必要の最小限とす
日本は支那の軍隊警察隊建設に関し顧問の派遣、武器の供給等に依り協力す
二、日支協同して防共を実行す
之が為日本は所要の軍隊を北支及び蒙彊の要地に駐屯す
三、別に日支防共軍事同盟を締結す
四、第二項以外の日本軍隊は全般竝局地の情勢に即応し成るべく早急に之を撤収す
但し保障の為北支及び南京、上海、杭州三角地帯に於けるものは治安の確立する迄之を駐屯せしむ
共通の治安安寧維持の為揚子江沿岸特定の地点及び南支沿岸特定の島嶼及び之に関連する地点に若干の艦船部隊を駐屯す尚揚子江及び支那沿岸に於ける艦船の航泊は自由とす
五、支那は前項治安協力のための日本の駐兵に対し財政的協力の義務を負う
六、日本は概ね駐兵地域に存在する鉄道、航空、通信竝主要港湾水路に対し軍事上の要求権及び監督権を保留す
七、支那は警察隊及び軍隊を改善整理すると共に之が日本軍駐屯地域の配置竝軍事施設は当分治安及び国防上必要の最小限とす
日本は支那の軍隊警察隊建設に関し顧問の派遣、武器の供給等に依り協力す
第三 経済提携の原則に関する事項
日満支三国は互助連環及び共同防衛の実を挙ぐるため産業経済等に関し長短相補有無相通の趣旨に基づき共同互恵を旨とすること
一、日満支三国は資源の開発、関税、交易、航空、交通、通信、気象、測量等に関し前記主旨竝以下各項の要旨を具現する如く所要の協定を締結す
二、資源の開発利用に関しては北支蒙彊に於いて日満の不足資源就中埋蔵資源を求むるを以て施策の重点とし支那は共同防衛竝経済的結合の見地より之に特別の便益を供与し其の他の地域に於いても特定資源の開発に関し経済的結合の見地より必要なる便益を供与す
三、一般産業に就ては努めて支那側の事業を尊重し日本は之に必要なる援助を与う
農業に関しては所要原料資源の培養を図る
四、支那の財政経済政策の確立に関し日本は所要の援助をなす
五、交易に関しては妥当なる関税竝海関制度を採用し日満支間の一般通商を振興すると共に日満支就中北支間の物資需給を便宜且合理的ならしむ
六、支那に於ける交通、通信、気象竝測量の発達に関しては日本は所要の援助乃至協力を与う
全支に於ける航空の発達、北支に於ける鉄道(隴海線を含む)、日支間及び支那沿岸に於ける主要海運、揚子江に於ける水運竝北支及び揚子江下流に於ける通信は日支交通協力の重点とす
七、日支協力に依り新上海を建設す
二、資源の開発利用に関しては北支蒙彊に於いて日満の不足資源就中埋蔵資源を求むるを以て施策の重点とし支那は共同防衛竝経済的結合の見地より之に特別の便益を供与し其の他の地域に於いても特定資源の開発に関し経済的結合の見地より必要なる便益を供与す
三、一般産業に就ては努めて支那側の事業を尊重し日本は之に必要なる援助を与う
農業に関しては所要原料資源の培養を図る
四、支那の財政経済政策の確立に関し日本は所要の援助をなす
五、交易に関しては妥当なる関税竝海関制度を採用し日満支間の一般通商を振興すると共に日満支就中北支間の物資需給を便宜且合理的ならしむ
六、支那に於ける交通、通信、気象竝測量の発達に関しては日本は所要の援助乃至協力を与う
全支に於ける航空の発達、北支に於ける鉄道(隴海線を含む)、日支間及び支那沿岸に於ける主要海運、揚子江に於ける水運竝北支及び揚子江下流に於ける通信は日支交通協力の重点とす
七、日支協力に依り新上海を建設す
附
一、支那は事変勃発以来支那に於いて日本国民の蒙りたる権利利益の損害を補償す
二、第三国の支那に於ける経済活動乃至権益が日満支経済提携強化の為自然に制限せらるるは当然なるも右強化は主として国防及び国家存立の必要に立脚せる範囲のものたるべく右目的の範囲を超えて第三国の活動乃至権益を不当に排除制限せんとするものに非ず」
見られるように、「日満支三国は東亜に於ける新秩序建設の理想の下に」というのであるから、排除の論理はとっていない。
すなわち、それまで日本に抵抗するべく共産党との合作(1937年からは第二次)を固執するかぎり国民政府は壊滅されるという態度をやや後方にずらしつつ、一方においては、国民政府が人的構成を替えて日本の方針に近づいてくるのであれば、これを拒否しない、という二面性をとるに至っている。
具体性をもって臨もうとしているのは、中国の政治形態を「分政合作主義」というのであって、その味噌は「強力な中央政府を作らせない、それが日本の国益だとしている。
二つめの特徴は、かかる新中国の経済を日本が牛耳ろうとの意思が「見え見え」となっていることだ。すでに、巨大な二つの国策会社、「北支那開発」と「中支那振興」が運営を開始していることから、政治支配ばかりか、経済的な支配も念頭に置くものだといえよう。
(続く)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
二、第三国の支那に於ける経済活動乃至権益が日満支経済提携強化の為自然に制限せらるるは当然なるも右強化は主として国防及び国家存立の必要に立脚せる範囲のものたるべく右目的の範囲を超えて第三国の活動乃至権益を不当に排除制限せんとするものに非ず」
見られるように、「日満支三国は東亜に於ける新秩序建設の理想の下に」というのであるから、排除の論理はとっていない。
すなわち、それまで日本に抵抗するべく共産党との合作(1937年からは第二次)を固執するかぎり国民政府は壊滅されるという態度をやや後方にずらしつつ、一方においては、国民政府が人的構成を替えて日本の方針に近づいてくるのであれば、これを拒否しない、という二面性をとるに至っている。
具体性をもって臨もうとしているのは、中国の政治形態を「分政合作主義」というのであって、その味噌は「強力な中央政府を作らせない、それが日本の国益だとしている。
二つめの特徴は、かかる新中国の経済を日本が牛耳ろうとの意思が「見え見え」となっていることだ。すでに、巨大な二つの国策会社、「北支那開発」と「中支那振興」が運営を開始していることから、政治支配ばかりか、経済的な支配も念頭に置くものだといえよう。
(続く)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆