9/18~20日の穂高岳山行《後編》です。
本日19日は、前穂北尾根から奥穂へ縦走、穂高岳山荘で幕営予定。
2時起床。テントを静かに撤収して3時半、ヘッドランプの明かりを頼りに涸沢を発ちました。気温は15℃と暖かい。
いきなり何の写真かわからないかもしれませんが…5・6のコルを目指し雪渓の側を通過しているところです。
標高2500m付近で、真新しいテン(貂/イタチ科)?のフンを発見。こんなに人が多い場所でも、野生動物たちは確かに活動しています。
北尾根上での順番待ちを避けようと、同じく早朝に出発した他パーティと追いつ抜かれつしながら4時45分、標高2720mの5・6のコルに先着。しかし、頭上に動くヘッドランプの光から、さらに先行パーティがいることはわかっていました。「いったい何時に出たんや!?…」
ここでハーネスを装着して5時ジャスト、縦走開始です。
後ろに見えるのは、後続パーティの明かり。
5峰を通過中の5時20分ころ…
待ちに待った夜明けを迎えました。後方には、8月初めにガイドで行った常念岳(2857m)の秀麗な山容が際立ちます。
そして前方には…
4峰が威圧的に迫って来ます。
4峰の登り。岩登りとしての難しさはないのですが、岩が脆く、変な場所に迷い込むと行き詰ってしまう怖さがあります。下部で巻いた涸沢側は高度感も抜群で、ロープなしでは少し緊張しました。ほぼ稜線通しに行き、上部は奥又白側のルンゼから頂上に抜けるのが良さそうでした。
こうしてルートを自分たちで判断して進んで行くのが、バリエーションならではの楽しさです。
次はいよいよ…
北尾根の核心3峰です。通常4ピッチ程度の傾斜の強いリッジ。すでに先行のガイドパーティが取り付いていました。
取り付きの3・4のコルへ。ガイドパーティが抜けるまでしばし順番待ちです。
北方向に…
これから目指す奥穂高岳(一番左)と涸沢岳、北穂高岳、そして槍ヶ岳-北アルプスを代表する3000m峰が豪快に連なっています。
黎明の奥穂高岳。
約20分待ちの後、アンザイレン(ロープで結び合うこと)して登攀開始。1ピッチ目のトップはT氏にお願いしました。2ピッチ目を私、3ピッチ目をまたT氏がそれぞれリードする「つるべ(トップを交代しながら登る方法)」で登りました。
3ピッチ目を華麗にリードするT氏です。
天気が良く、岩も硬く、さらに穂高という最高のロケーションでのクライミング。これだから、アルパインはやめられません!(笑)
3峰もルートはいくつかあるようですが、私たちはⅢ~Ⅳ級程度の岩場をつなぎ実質3ピッチで終了。あとはコンティニュアス(ロープをつなぎ合ったまま同時に行動すること)でピークへ抜けました。
3峰頂上から西側の涸沢方面へ目をやると…
私たちが今いる北尾根の影が、鋭い。
ここから1峰の前穂頂上までは、ほんの一投足です。2峰の7~8mの岩場を懸垂下降したあと、少し登り返すと…
7時40分、前穂高岳頂上(3090.2m)へ飛び出しました。5・6のコルから2時間40分、心配していた順番待ちもさほどなく快調でした。気温18℃。北西方向には奥穂高岳と、明日縦走する西穂高岳への険しい岩稜が続いています。
この奥穂-西穂の縦走路は、一般ルートとしては国内最難クラス。登山者の増加とともに毎年事故が多発しているようです。当日も警察(おそらく岐阜県警)のヘリコプターが稜線付近をなめるように、繰り返しホバリングしていました。
(下山後、当日朝6時前にピラミッドピークと呼ばれる稜線付近から66歳の男性が滑落する事故があったことがわかりました。幸い一命はとりとめたようです)
岩場とナイフリッジ、鎖場が連続し、岩慣れた人以外が入り込むのは極めて危険です。
北には槍ヶ岳(3180m)。穂先の右奥に立山と剱岳も望めます。
そして振り返ると…
今登って来た北尾根。2峰と3峰がすぐ下に見えます。
本日の予定は、ここから2時間余りの穂高岳山荘まで。時間はたっぷりあります。前穂頂上でお湯を沸かしてコーヒー入れて、小1時間、まったりと過ごしました。極上のひと時です。
8時半、奥穂へ向けて出発。足元には…
コイワカガミ(小岩鏡/イワウメ科)の真っ赤な紅葉。
今回は、有名な涸沢の紅葉にはまだ早かったですが、稜線上の植物たちは着実に色づき始めていました。花は、イワツメクサがわずかに残る程度で、トウヤクリンドウやミヤマダイコンソウなどは、すでに終わっていました。
縦走路の途中から振り返ります。
辿ってきた前穂北尾根がカッコいい。
(写真は、1峰(頂上)~6峰)
「日本三大岩稜」も、納得です。
(残り二つは、剱岳・八ッ峰と槍ヶ岳・北鎌尾根)
東側、氷河地形の涸沢カールと山岳の取り合わせが、どこかヨーロッパ的な雰囲気を漂わせます。奥の三角垂は常念岳。
途中、多くの登山者と行き交いながら…
前穂から2時間余り、北アルプス最高峰・奥穂高岳(3190m)着。360°のパノラマを楽しみながら、しばしの休息です。
しかし、本日の「核心」は、実はここからだったかもしれません…。
登山者の行列!穂高岳山荘まで通常30分のところが、山荘すぐ上の鎖場と梯子で大渋滞、何と1時間半以上かかりました。これまで、知り合いから剱岳カニのタテバイ・ヨコバイで同じような場面に遭遇したことは聞かされていましたが、私は初体験でした。
小屋はすぐ下に見えているのに…。
12時45分、(やっとの思いで)穂高岳山荘(2983m)に到着。さっそくテント場を確保したものの…
次から次へ来訪者が現れて、過密集合住宅状態です。
夕方にはさらに…
小屋前のテラスやトイレ前までほぼビッシリ…テント村が出来ていました。(安全上、登山者の宿泊は断れない)山小屋の苦肉の策といったところでしょうが、「前代未聞の出来事」とT氏と私は顔を見合わせました。
登山者の列は夕方まで途切れることなく、小屋も300%近い大入り?だったようです。
今回の山行でも、中高年層に加えて、いま流行りの「山ガール」「山ボーイ」たちに数多く出会いました。全体の半分近くにもなるでしょうか。山に若い人たちが戻っているのはとても喜ばしいことで、私も大歓迎です。
しかし一方で、
・中高年の方を含めて、多くは山岳会などに属さない未組織登山者。山のこと(知識・技術、マナー、危険性、自然のこと…)をよく知らないのではないか…
・そんな人たちが、ブームに乗って穂高のような険しい高山に大挙して押し寄せるのは、色々な意味でリスクが高すぎるのではないか…
・山小屋、トイレ、登山道などの施設はもちろん、「自然」そのものの許容量をオーバーするのではないか…
等の不安もあります。
もちろん中には、きちんと勉強して近所の山から地方の山、そして高山へ、と段階を踏んで真摯に取り組んでいる方もおられることでしょう。
「俺たちアルプスへ来るのに何年かかったかなぁ…」なんてT氏と話しながら、これまでの中高年層だけではなく、若者も含めて、ブームに乗って山を始めた人たちをどう育て、導いていくか…今後の登山界の大きな課題になると感じました。
暮れなずむ前穂北尾根。美しい…。
本日の一品。
今日のために担ぎ上げたクマ肉の缶詰。今回の山行で唯一の贅沢でした(笑)。ビール片手に乾杯!
しかし明日も、西穂までは気が抜けません。朝2時起きの3時半出発を、T氏と確認して…
西の笠ケ岳(かさがたけ・2897.5m)方面に夕陽が沈む18時ころには、私たちも寝袋に入りました。
最終日20日。予想に反して朝2時過ぎころから雨に。後ろ髪を引かれながらも、西穂への縦走を断念しました。結局、幕営用具一式をここまでボッカしただけ…?になりましたが、それも仕方ありません。
こうなると話は早い。「他の登山者が一斉に下山を始める前に」と、強まる雨の中テントを撤収し、4時40分、ヘッドランプを点けて一番に出発しました。
途中で…
涸沢の雪渓で遊び…
徳沢名物のソフトクリーム!(350円)で喉の渇きと空腹を満たしてから…
10時40分、上高地へ帰着。
この日もやはり、他の小屋から出発した人たちと隊列を組んで?の下山となりました。百名山など有名どころの山岳エリアでは、無積雪期の連休の「キャラバン」は、もう避けられなくなるのかもしれませんね。
今回の私の計画につき合って下さり、とても楽しい山行を共有して下さったTさんに、心から感謝します。
また、長い報告を最後まで読んで下さった皆さん、ありがとうございました。
おわり
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私も2時起きで涸沢を出発した思い出があります。
賑わうことがいいとも限らず、
むずかしいところですね。
でもこのルートはとても好き!
また行きたいなーって思います。
わくわくしながら拝見。ありがとうございます。
わくわくして頂きありがとうございます!嬉しいです。
北尾根は本当に、眺めても登っても魅力的なルートですね。私もとても気に入りました。次はぜひ、積雪期に訪れてみたいものです。
それにしても、今後の登山界から目が離せませんね(笑)