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まさおレポート

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新電電メモランダム(リライト)33 NTT再編成と研究開発力

2013-02-19 | 通信事業 NTT・NTTデータ・新電電

 

<三和総研に委託>

新電電三社では1995年に予定されているNTT再編成議論に対応するため、外部機関に想定される課題について研究委託をすることになった。想定される課題とはNTTからの反論に対する再反論の整理であり、当初は三菱商事から転籍してきた上司の伍堂さんを通じて三菱総研にお願いしてみた。しかしNTTから何かの研究委託を既に受けていて進行中との理由で断られた。シンクタンクは同時に競合関係にある2社の研究委託は受けないという。競合相手の情報がスタッフを通じて漏えいすることを防止するためというのがその理由であった。結局第二電電株式会社の伝手で三和総研にお願いすることになった。1989年から1992年まであしかけ4年間第二電電の社長を務めた神田氏は三和銀行の元副頭取から転身している。

三和総研では20代、30代の若手研究員3名が担当してくれた。(男性2名、女性1名) 週に一回地下鉄虎ノ門の駅から地上に出たところにあった三和銀行虎ノ門支店のビル内で会合を持ち、3ヶ月かけて研究レポートを仕上げてくれた。

研究テーマは ①NTT再編成で電気通信分野での日本の研究開発力は落ちるのか。②NTT再編成に要するコストはどのくらいかかるのか。③既存のネットワークの分離・分割は現実性があるのか。④再編成後の経営とユニバーサルサービスの維持は可能か。(分離会社間の相互補助が必要か。)

いずれも情報通信審議会で議論するにふさわしいビッグテーマである。若手スタッフ三名が3ヵ月程度で、それも複数の仕事を抱えて得られるレポートは当初の予想通り、当時内外で議論されていた内容を収集、整理して追認する範囲を出るものではなく、特段の新しい知見は無かった。しかし第三者的意見を得るという事の他に、週一回の議論を通じて新電電各社側の議論が深まり各種の意見書やヒヤリングに有効な準備ができたのではないか。その後、このレポートは新電電各社の社長や経営陣に報告され、各社のNTT再編成に対する理論武装の多少の参考や思考訓練にはなったと思うが、外部に公表されることはなかった。

<NTT再編成で研究開発力は落ちるのか>

NTTは日本電信電話株式会社法の第一条に目的が記され、①電気通信業務の提供の確保と②研究開発という2大目的を併記している。さらには第二条に研究開発がその主業務であることを明記している。第三条ではユニバーサルサービスの提供と並んで研究開発に配意する旨が記される。会社法1条、2条、3条に渡って健全経営、ユニバーサルサービスの提供と同レベルで研究開発を行うことが明記されているということは実に異例であり、驚くべきことで、いかに国家レベルの研究開発が期待されているかが会社法から伺うことができる。

第一条 日本電信電話株式会社(以下「会社」という。)は、東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社がそれぞれ発行する株式の総数を保有し、これらの株式会社による適切かつ安定的な電気通信役務の提供の確保を図ること並びに電気通信の基盤となる電気通信技術に関する研究を行うことを目的とする株式会社とする。 (日本電信電話株式会社等に関する法律より)

第二条 会社は、その目的を達成するため、次の業務を営むものとする。

中略 三  電気通信の基盤となる電気通信技術に関する研究を行うこと。
 
第三条 会社及び地域会社は、それぞれその事業を営むに当たつては、常に経営が適正かつ効率的に行われるように配意し、国民生活に不可欠な電話の役務のあまねく日本全国における適切、公平かつ安定的な提供の確保に寄与するとともに、今後の社会経済の進展に果たすべき電気通信の役割の重要性にかんがみ、電気通信技術に関する研究の推進及びその成果の普及を通じて我が国の電気通信の創意ある向上発展に寄与し、もつて公共の福祉の増進に資するよう努めなければならない。

NTTには「日本電信電話株式会社等に関する法律」第一条から第三条に見られるようにユニバーサルサービスの確保を含んだサービスの提供と世界最高水準の研究開発力という2大目標達成に極めて大きな期待がかかっていた。1985年のNTT民営化時に作られた会社法以来一貫して、研究開発の維持が重要であり、世界トップレベルの日本の通信技術水準維持が会社の主目的であると宣言している。そして世界トップ水準の維持を妨げるNTT再編成は絶対に避けなければならないとの主張が盛り込まれている。すでに1985年の時点で会社法草案作成者は周到な防波堤を条文に仕組んでいたことになる。

さて、このテーマに対する三和総研への委託研究のレポート結論は「本来こうした国家レベルの研究は国が税金で代替機関を運営すべき性格のものである」との平凡なものであった。

1995年からさらに4年延長され実施された1999年の再編成でも、この研究開発力がやはり大きな論点として議論された。研究開発力を低下させては将来的に国益を損なうとの意見や、NTT株価の維持、国際競争力の維持と監督官庁の支配力の維持などの思惑が相まって持ち株会社方式を実現させた。(国防の観点からは表立って議論されなかったが恐らく意識下で重要なポイントになったであろうと推測する)

いずれも研究開発力イコール国益をキーワードにした問題提起作戦で、NTTは持ち株会社方式に成功した。2010年に予定された経営形態の在り方見直し議論も先送りされた現在、持ち株会社設立以来すでに10年以上の歳月が経過した。この研究開発力の成果がどの程度のものなのかが次の経営形態の在り方見直し議論のポイントになることは間違いない。

<NTTの研究開発力>

かつてなじんだ愛称の通研は今はNTT先端技術総合研究所と名前を変えている。この研究所のウェブサイトや他のサイトを参考に過去の研究業績を眺めてみると①1977年 気相軸付け(VAD)法による光ファイバ母材製造技術 ②1980年 公開鍵暗号のマスタ鍵法の発明 ③1980年 高純度の光ファイバーを製造する装置を開発 ④2002年 世界最高速の光通信用集積回路を開発 ⑤2011年6月末で219万契約を獲得した「ひかりTV」 など研究所で開発した技術を使って大きな成果が出せたサービスもある。上記に挙げた例では光ファイバーに関するものが5件中4件と目につく。

NTTの研究所には、ベル研出身者で「音声圧縮技術」の守谷健弘フェローと「暗号理論」の岡本龍明フェローがいて世界の先頭集団に入っているという。上記の例と合わせてある分野では世界の先頭集団を走っていることはわかるが、かつてのベル研に比較するのは酷であるが国益を守るという壮大なNTT会社法の視点からは物足りなさを感じるのではなかろうか。

<NTTの研究開発費>

NTTグループ全体では、毎年3000億円の規模で研究開発費を使っている。この金は99年のNTT再編で整理されたNTT東西、NTTコミュニケーションズ、NTTドコモ、NTTデータの主要5社の負担で運営されている。

日本国内のビッグ企業の研究開発費ではトヨタ自動車は7253億円(2010年度)、ソニーは4268億円(同)、日立製作所は3951 億円(同)、米IBMは4620億円(同)などとなっている。(「ダイヤモンド」誌を参照した)NTTグループの連結売上高に占める研究開発費の割合は、 2.6%(10年度)となっている。しかしこの2.6%は他の通信事業者と比較すると圧倒的に巨額である。92年に分社化したNTTドコモは、無線通信部門だけを切り離した研究所を持っており、1099億円となっている。合わせるとNTTの研究開発費は4000億円規模となり、日立製作所なみの額となる。

NTTの公表されている研究開発実績がこの巨額の研究開発費にふさわしいかどうかは意見の分かれるところで、NTT自身も研究開発費と実績つまり実用化や基礎研究の成果との乖離に悩んでいるようにも見える。

<米国のベル研 過去の栄光と言われるが>

ノーベル賞受賞者を6件11名も輩出した米国のベル電話研究所は、1984年のAT&T分割で地域ベル会社からの費用負担は無くなり、規模を縮小した。このため連結売上高10兆円クラスの通信事業者で研究開発に力を入れているのは、世界でもNTTだけになったという。しかし1998年にはシュテルマー、ラフリン、ツーイが分数量子ホール効果を発見してノーベル賞を受賞している例をみてもそうとは言い切れないようだ。

AT&Tは1925年にウェスタンエレクトリック社と合併したのちニュージャージー州にベル研究所を設立した。通信の実際的な研究は勿論の事、「第一級の学術的な研究を行うことにより、好奇心と言う文化を育み、大学との架け橋になれば、それがいずれは商業的な利益にもつながっていくというものだ。」というポリシーを掲げ、6個のノーベル物理学賞11人の受賞者を輩出していることはつとに有名である。トランジスタ、レーザ、分子線エピタキシャル成長技術、CCD、太陽電池、UNIX、C言語などの発明を生み出した。たとえば1937年にはクリントン・J・デビッドソンが物質の波動的性質に関する研究で、1956年にはバーディーン、ブラッテン、ショックレーがトランジスタの発明で、1978年にはベンジアスとウィルソンがCMB放射を検出して、1998年にはシュテルマー、ラフリン、ツーイが分数量子ホール効果を発見してノーベル賞を受賞している。

しかしその栄光も過去のものであり、近年は実用化研究が盛んで学術論文に比べて特許案件の比率の多さがそれを物語っているという。AT&T独占時代の豊かな財源をふんだんに使えたことが過去の輝かしい国家レベルの研究開発力を支えたのであり、独占から競争時代に入るとその研究水準を維持するのはベル研でも無理なことを先例として示していると言われる。しかしそれでも分割後から14年も経た1998年にさえシュテルマー、ラフリン、ツーイが分数量子ホール効果を発見してノーベル賞を受賞している。

米国でも既に独占の打破による競争の到来による国民の利益と、一方では巨大研究所を維持することによる国家レベルの研究開発力の維持という問題に突き当たっている。米国では国防費から通信分野への研究開発力寄与も相当にあり、一方で日本国には防衛費から通信分野への研究開発費は望み得ない。現在のベル研とNTT先端技術総合研究所の比較と言う単純な図式で国の研究開発体制を比較するのも単純すぎる。ベル研+国防費の通信開発研究に留まらない基礎研究開発への予算との比較検討が必要である。

従ってNTTの研究開発力問題は幅広い研究開発力と言う視点から検討しなければならず極めて政治的な問題になるのだが、ベル研や米国国防機関に比べて実績で見劣りするNTT先端技術総合研究所がNTT持ち株会社を維持する根拠の一つになりえるかどうか。NTT持ち株会社の次期見直し時期までに相当な実績や展望を示さないとNTT研究開発力が持ち株会社の防波堤になり得るのは難しいと思える。日本国の米国をはじめとした世界に対する競争力は国家感のありようの問題ともからみ、極めて難しい問題を含んでいる。

<KDDI、ソフトバンクの研究開発力>

KDDIは2010年で99億円であり、その後漸減している。ソフトバンクは2011年実績で9億円弱でありKDDIよりさらに定額である。郵政省総務省の幹部たちからはときおり研究開発費がNTTに比べて月とすっぽんであることを指摘された。KDDIとソフトバンクは金額だけでみると日本の通信関係研究開発費用の40分の1しか貢献していないことになる。このアンバランスをどう見るか、果たして政策的にもっとKDDIやソフトバンクに貢献させるべきなのか。金額の上からはNTTのみが研究開発力という国益に貢献しているように見える。研究開発の実態と実際の貢献度さらには企業としてふさわしいかどうか、総務省は研究会で次回NTT会社形態見直し論の前に一度議論すべきだろう。ユニバーサルサービスの政策的解決とどこか似た部分がある。幻影におびえているうちは説得力を潜在的に発揮するが課題が明快になった時には人々は判断ができるという意味でこの二つは似ている。

<日本の研究委託機関>

再び研究委託の話に戻る。この委託の経験を通じて、この種の研究委託を民間でこなすことの困難さを知った。研究員といえども、電気通信の制度的問題を扱うには、やはり経験が浅く、にわか仕立ての感がある。この種の問題を研究する民間の機関としてはNTTの(株)情報通信研究所が群を抜いているが、新電電がこのNTT系列の会社に委託するわけにはいかない。NTT以外には何十年も専門に通信制度や企業形態について研究している研究員などは皆無であった。もう一つの実力シンクタンクは郵政省で、当時から郵政省の事務局が審議会や研究会で提出する資料はしっかりしたものが多い。しかし郵政省に委託するわけにはいかない。

米国ではこの種の問題を専門にしている大学教授やエコノミストあるいはロイヤーが結構存在する。コロンビア大学のエリ・ノーム教授などは、多くのスタッフを抱えた電気通信制度問題専門のシンクタンクとして機能している。そして、何か研究課題があると、全米から多くのエコノミストがスタッフとして参加する。恐らく通信事業者が金を出しているのだろう、民間の研究者層が実に厚い。これは米国では弁護士の数が30万人と日本の10倍存在することと、どこかで通じる。つまり、議論の多い国では議論の助けになる研究(あるいは弁護)に金を出すということなのだろう。

日本では大学などとの連携は技術では盛んだが、通信の制度や企業形態の研究に金を十分注ぎ込む企業は知る限り皆無だ。もともと日本では電電公社時代にはこうした議論のない時代が続き、そのため企業もはっきりしたリターンの見えないテーマでの研究委託に金を注ぎこまなかった。今後はどうだろうか。

<余話1>

三和総研への研究委託では2000万円の委託料を支払った。官庁は巨大なシンクタンクとよく言われるが確かにその通りだと思う。上記の民間シンクタンクとは人材の数と蓄積した情報それにネットワークを利用した情報収集力はすごいものがある。審議会の研究会等では郵政省の事務局が資料作成を行うがその力量は民間のシンクタンクの力をはるかにしのぐことを改めて実感した。

上記の経験からの連想だが、2012年現在、民主党政権が政治家主導を唱えているが原発事故対策ではその政治家指導力を疑う。官僚組織は膨大な情報を得ているに違いないがそれを政治家に伝えていないのではないか。そんな疑いをもってしまう。

<余話2>

1980年初頭、NTTデータ通信本部に在職した当時、通研が開発した汎用コンピュータDIPSを使ってシステム開発をした経験がある。電話帳編集はそれまでは活字を拾って活版印刷で出版していたが、日本で初めてのコンピュータシステムを開発した。コンピュータそのものは富士通が制作した。世界最高水準をめざしたものだがその後DIPS開発は打ち切りとなった。このDIPSシリーズの研究開発に投資された金は相当なものだと思うが研究開発投資に見合った成果が出たのだろうか。富士通、日本電気、日立製作所がそれぞれシリーズの各機種の制作を担当した。

当時電話収入からふんだんに研究開発費に回せた時代の話で無駄と言えば無駄だがこうした金の使い方が現在の富士通の「京」(2011年のスパコン世界ランキング一位 2012年には2位に転落)の成果にどこかで結びついていると言えなくもない。研究開発力と投資は短兵急には結び付かないところが一筋縄ではいかない。蓮舫議員の仕分で有名になった「2位ではいけないんですか」は研究開発力と投資の関係にせまる本質をもっている。「長期的展望に立つ」というのは逃げ口上にも使われるし、やはり必要なポイントでもある。どちらに転ぶか、大きなリスクを伴うものだ。

<余話3>

NTTデータ通信本部は1967年(昭和42年)に北原安定氏の肝いりで発足した。1970年代の始めは銀行オンラインシステムの開発が花盛りのころで私も横浜銀行システムの開発に携わった。上司は当時の都市銀行がこぞってアイビーエム製を導入していたにもかかわらず国産コンピュータ(中でも富士通製F60)の導入を断固主張した。国産コンピュータを育成するという事を明言していた。第二次世界大戦の従軍経験者で通信とコンピュータが国防上極めて重要なことを日頃から部下に説いていた。北原安定氏に年に何回かは風呂敷に資料を包んで説明に伺っていた。国家(国防を含む)と情報通信の関係で意見があっていたのではなかろうか。全体がそうだとはとても言えないが、国防と国内通信企業の育成のために研究開発の金をふんだんに使うという考えはNTT体質の中に遺伝子のように存続していると思う。

<余話4>

ベル研が現代最先端の宇宙創成理論であるビッグバンの一翼を担う電波天文学にまで行きがかりとはいえ研究対象を広げていたことはあまり知られていないのではないか。

AT&Tベル研は1928年に長距離通信に雑音がはいる原因の探求に乗り出した。当時電波による大西洋横断の電話サービスを三分75ドルで提供(現在1000ドルに相当)しており、いわばドル箱のサービス向上に取り組んだわけで、第一級の学術的な研究に乗り出したわけではない。ベル研の若手スタッフであるカール・ジャンスキーはこの電波雑音の原因を探っていくうちに24時間ごとにピークを持つ宇宙からの電波を検出して「地球外に起源をもつとみられる電波障害について」の論文を発表 銀河電波を発見して電波天文学の創設ならびにその後のビッグバンの証明の基礎を担うという快挙を成し遂げる。その後1978年にはベンジアスとウィルソンがCMB放射(宇宙背景マイクロ波放射)を検出してビッグバン理論通りの波長のマイクロ波を検出することに成功し、ビッグバン理論の定常宇宙理論に対する優位さを証明することになりノーベル賞を受賞している。(宇宙創成 サイモン・シンによる)

 


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