マチュピチュからウルバンバ川を見下ろす。遠目にはおしるこ色の川水がゆったりと流れているようにみえるが実際の流れは激しい。この斜面をマチュピチュ発見者のハイラム・ビンカムさんは登ってきて石の壁をみつけた。 目がくらむ急斜面に石組で棚田が作られた。
そのときわたしは 大地の梯子(はしご)をよじ登り
人里離れた密休の 肌を刺す薮をぬけて
おまえのところまで 登って行った マチュ・ピチュよ
山の高みの郡市よ 石の段階よ
大地も死の経帷子の下に隠さなかった者の住居よ
石の母よ コンドルたちの泡よ
人類のあけぼのに高く聳えた岩礁よ ネルーダ「第六の歌」
石段。途中に巨石があるのに注目。巨石はそのままにしておく。
花崗岩の石切場。
マチュピチュの全景がみえる。マチュピチュの前方の高い峰がワイナピチュ。 マチュは老いた、ワイナは若いという意味だ。ワイナピチュの岩にしみ込んだ雨水を高度差を利用して石の樋でマチュピチュに導き居住民が炊事や神事に利用した。
ワイナピチュを望む。遠目にはわからないがワイナピチュの頂上まで登山路が石段で敷かれている。標高2800メートルの山だ。
力強い死はいくどとなくわたしを誘った
それは波のなかの眼に見えない塩のようだった
・・・わたしはいくどとなく立った
生と死をわかつ剣が峰に 風の狭い隘路に
農業と石の経帷子に
最後の足音をのみこむ天なる虚無のふち
眼もくらむ奈落へときりもみに落ちこむところ ネルーダ マチュ・ピチュの高み「第四の歌」
異なる角度から居住区全景をみる。
このすばらしい渾沌のなかに
この石の夜の中に わたしの手をさし込ませてくれ
そしてあの 千年も囚われた小鳥のような
忘れさられた むかしのひとの心臓を
わたしの胸のなかに 脈うたせてくれ!
・・・・
わたしが見るのは こき使われた祖先だ
畑のなかで眠っている男だ
わたしに見えるのは 怖るべき突風の下で
雨や夜で暗い顔をし 重い石の姿をした
ひとつの肉体 千の肉体 ひとりの男 千の女たちだ
ヴィラコツチャの息子 石切りのファンよ
緑の星の息子 ひやめし食いのファンよ
トルコ石の孫 裸足(はだし)のファンよ
立ち上って昇ってこい 兄弟たち
わたしといっしょに よみがえろう ネルーダ「第十一の歌」
雲を眼下に見下ろして休憩する。
450メートルの標高差を登ってきた後を振り返るとこのように急斜面を縫ってきたことがわかる。
帰路につく。
マチュピチュの駅名はアグアス・カリエンテス(熱い湯)と呼ばれたがその由来はこの温泉から来ている。露店ジャングル風呂。湯気のため、温泉内はピンボケだ。風呂に入りながらインカの文明に思いをはせる。
ペルーは12の世界遺産を持つ。マチュピチュは標高2400m にあり「アンデスの至宝」「天空の都市」「謎の空中都市」と呼ばれる。インカ帝国は1533年にスペイン人に征服されたが、それまでの歴史は1万2000年前に遡る。紀元前3000年頃には神殿があった。以降の帝国は チャビン、モチェ、ティワナク、ナスカと続き最後がインカ帝国となる。鉄器も車輪も歯車もないが脳外科手術の医療技術を持つ高度な文明を築いた不思議な文明だ。特に車輪の無い文明に驚く。
ペルー南部の小国インカは標高3500mにあるクスコを首都とし、15世紀半ばに北上を開始した。15世紀末には南北コロンビア南部からチリ中部アンデスまでおよそ5000km、日本の約8倍の領土を持ち最盛期には1000万人以上の人口を持つ大帝国に成長した。ところが1533年には滅亡する。百年に満たない短期間である。
「キープ」と呼ばれる組ひもで人口や収穫高などを記録する技能を持ち、発掘された頭蓋骨から手術された跡がうかがえるのど高い医療技術を持っていた。また総延長4万kmにもわたる「インカ道」も整備され皇帝からの伝達事項はインカ道を通じてチャスキと呼ばれる駅伝によりキープと情報が各地に日にキロの早さで伝えられた。さらに国政調査まで実施されていた。
こんなに暗くまで湯につかり、高山病のためしばらく節制していたビールを飲んでご機嫌になる。
川沿いのホテルで窓から見える濁流とその音がすごい。朝7時に目が覚めたがあいにくの雨と霧だった。しかし泊りの皆さんはすでにマチュピチュに向けて出発したあとだ。
霧雨の中を行く観光客。
雀。首回りがインカしている。
管理人住居跡から全貌が見えると期待したがあいにく霧でなにも見えない。
手前は見張り人小屋。霧にかすむ段々畑はアンデネスと呼ばれる。
上水道跡を見ていると当時の人々の生活が幻視されるようだ。
水道跡はいまでも清潔だ。こうした噴水の水飲み場がマチュピチュには16箇所ある。
羊を屠る聖なる場所。コンドルの形をした石の上で、生贄のヤギの首を落としたりしたらしい。白い部分がコンドルの胸の白い部分でこんもりと頭部が盛り上がり胴体が続く。
コンドルの頭の先は、血が流れるようになっている。
天なる鷲座よ 霧の葡萄畑よ
崩れ落ちた砦(とりで)よ 盲目の新月刀よ
滝のような階段よ 巨大な瞼よ
三角の上着よ 石の花粉よ
赤道上の三角定規よ 石の船よ
最後の幾何学よ 石の本よ ネルーダ 「第十一の歌」