南米の旅も旅もいよいよ終ろうかという頃ペルーのクスコから首都のリマに向かった。リマは海岸の街でもあり念願の平地だ。水を変えていない金魚鉢の金魚が水面に向かってパクパクするように一刻も早く酸素の濃い下界に帰りたい。そんな心境でバスに乗り込んだ。しかしクスコからリマまでアンデスを越えなければならない。
バスは今までになく快適でリクライニングも申し分ない。リマ行のバスの予約をめぐってクスコの代理店のオヤジと揉めたことなど嘘のようだ。実はバス出発のぎりぎりまで予約の取り直しでハラハラした。当日になってオヤジは昼間のバスはフルで予約できないと言いだした。これではアンデスの景色が観れないではないか。オヤジは「では別に予約をするのでさらに別料金を払え」と平気な顔で言う。
お前が勝手に夜のバスに変更したのではないか、ふざけるなと強く言うとオヤジは折れてバス会社に向かった。しかし、時間がない。あと5分で出発というタイミングでチケットが取れた。足元を見るというのは日本では多少後ろめたいがこの国のこの種の人々ではごくごく当たり前のようだ。
バスの乗客も安心できそうな旅行者とペルーの大学の教師のような雰囲気の女性でリラックスできる。波乱の後は順調な滑り出しだ。クスコを出ると数時間でアンデスを登りはじめた。つづら折りの道をへばりつくようにして走る。崖っぷちの連続で夕闇も迫ってくるが運転手の技量に任せるしかない。もうそろそろ下るのかと期待するが応えてはくれずどんどん登る。
窓からアンデスの山並みが暮れなずむ夕陽のなかに浮かび上がる。これを見に来たのだ。幾重にも重なる山なみが夕日の沈むのと呼応して朱から変化していき、最後にはモノカラーになる。この間の時のグラデュエーションが実に良い。このサンセットを見るだけでもはるばるアンデスにきた甲斐があった。