競合各社の反発
わたしは1990年代以降KDDIやソフトバンクで働き、古巣としての愛着があります。同様にNTTにも長い年月働いた経験があり、同様に愛着があります。したがって以下に述べる事柄は若干の批判も含みますが、古巣への愛着の前提にたって現在の論争を国民目線で眺めたものであり良かれとの思いで書き連ねたものと理解していただければ幸いです。
競合各社の反発を丁寧に検討してみましょう。先ずKDDIに対する質問とその回答を要約すると、以下のポイントが挙げられます。
電話のユニバーサルサービスの携帯電話への移行については、エリア展開に光インフラが必要で、特に5G・Beyond5G時代にはより稠密なインフラが求められると考えています。
固定電話は有事や災害時に重要であり、ユニバーサルサービスとして維持すべきであるとの見解です。メタル回線の維持限界を認識しているものの、IP電話やワイヤレス固定電話への移行には、NTTの光インフラ整備に関するラストリゾート義務が必要だとしています。
地域インフラのボトルネックに最大関心があることが伺えます。
ブロードバンドのユニバーサルサービスについては電話とブロードバンドのユニバーサルサービス制度の統合を検討する必要があるとしています。今後のサービス提供には、光インフラが重要な役割を担うと考えており、例外的にワイヤレス固定ブロードバンドの活用も検討しています。
その他の通信インフラ設備の自己設置義務の緩和については、他社設備の利用を例外的に認めることに問題はないとしています。NTT東西の業務範囲規制に関しては、公正競争を確保するために、NTT法の業務範囲規制や合併等の認可手続きが引き続き必要となっています。
NTT東西のアクセス部門の分離についてNTT東西のアクセス部門を別会社化する場合、公正競争の確保が難しいとの懸念を示しています。
研究成果の普及責務の見直しに関して国際競争力強化や経済安全保障の観点から、研究成果の普及義務を見直す必要があるとしています。しかし、電気通信市場の活性化に寄与し、ネットワークの相互接続に不可欠な技術など、広く普及すべき研究成果も存在するため、開示領域の定義や運用についての議論が必要となっていると認識しています。
外資規制に関してNTTが保有する「特別な資産」の安定的な提供が必要であるため、これを外資から保護することが重要と考えています。そのため、NTT法と外為法の両方による対応を前提とすることが適切であるとの見解を示しています。
ソフトバンクに関する質問とその回答を要約すると以下のようになります。
電話のユニバーサルサービスについてソフトバンクは携帯電話を「ユニバーサルサービス」とすることに現時点での適切性はないと考えています。4G携帯ブロードバンドが基礎的電気通信役務と位置付けられないことや、携帯電話がNTTの光ファイバに依存している点などを挙げています。
ここは創立者孫正義氏の衣鉢を継ぐソフトバンクとして、国民の目線に立つならば携帯電話を「ユニバーサルサービス」とすることに賛成すべきでしょう。NTTの光ファイバに依存している弊害はこの書で提案する情報ハイウェイ・共同溝構想で解決できると思います。
ブロードバンドのユニバーサルサービスについて不採算地域における未カバーエリアの解決が重要であり、FTTHの全国整備を進めることが望ましいとしています。また、ワイヤレス固定ブロードバンド(共用型)の課題については、通信品質が安定しない点が挙げられており、携帯ブロードバンドをユニバーサルサービスとして位置づけるには時期尚早としています。これも過去の姿勢をしるわたしとしては少し違和感を感じます。
設備の自己設置義務の緩和については否定的で、国民の税金等を活用した公社時代の承継資産やボトルネック設備の管理・維持は、国民利益のために責任を持つ会社が行うべきだとしています。
国民の税金等を活用した公社時代の承継資産という言い回しに違和感を感じますが言いたいことは理解できます。この書で提案する情報ハイウェイ・共同溝構想で解決できると思います。
NTT東西の業務範囲規制についての緩和には反対の立場を取っており、NTT東西の業務範囲規制は公正競争の確保に重要な役割を担っているとしています。
競合他社特に2社はグローブハンディを主張する時代ではないというのが正直な感想です1990年代にはわたしもこういう主張をしていましたが、今やお互いに自由な競争をして国益に資するというのが本音です。
これもおそらく条件闘争の一環なのでしょうが今はそうした相手を牽制し合う条件闘争はむしろ国民の目線からみて国益に弊害があります。かつての先達のようにどこかで日本の国益を考えた高邁な議論を望みます。この書で提案する情報ハイウェイ・共同溝構想で根深い危惧を解決できると思います。
経済安全保障確保のため、NTT法及び外為法以外に特定重要設備の導入・維持管理等の委託時審査が役立つと考えています。
NTT法が依然として必要であるという理由が読み取れませんが特定重要設備の導入・維持管理等の委託時審査が役立つという点をもっと掘り下げて欲しいと思います。
楽天モバイルに関する諮問委員会からの質問とその回答を要約すると以下のようになります。
電話のユニバーサルサービスについて楽天モバイルは、ユニバーサルサービスを固定通信サービスに限定し、携帯電話を含めるべきではないと考えています。これは技術的条件の大きな違いと、NTTが承継した旧電電公社の設備を基盤とするサービスに焦点を当てるためです。
NTTが承継した旧電電公社の設備を基盤とするサービスに焦点を当てるためというのは情報ハイウェイ・共同溝構想でその危惧は消滅します。
メタル回線の廃止に関する考え方について楽天モバイルは、技術の進歩に伴いメタル回線の廃止が予測されると考えていますが、既存の光ファイバー設備の維持が重要だとしています。
これも情報ハイウェイ・共同溝構想でその危惧は消滅します。
ブロードバンドのユニバーサルサービスに関して楽天モバイルは、ユニバーサルサービスの議論が既存の固定通信サービスを前提に進んできたと認識しており、将来のサービスと技術の動向に応じたユニバーサルサービスの提供を重視しています。自らも努力するという前提だとすると妥当な意見だと思います。
ワイヤレス固定ブロードバンド(共用型)の位置づけについて楽天モバイルは、ワイヤレス固定ブロードバンド(共用型)が多数の端末に接続される場合、通信品質が不安定になる問題があるため、その位置付けについて引き続き検討が必要としています。改善可能な課題ですが検討は妥当な意見でしょう。
NTTの業務範囲の見直しに関する懸念で楽天モバイルは競争が阻害される恐れがあると指摘しています。なぜ競争が阻害される恐れがあると考えるのかの言及が1990年代に巨象と蟻議論の前提に立っているためであり、現在のに象となっている今では競合3社として歩調を合わせて議論するにはかなり無理があると思います。
NTT東西のアクセス部門の分離について楽天モバイルは、NTT東西のアクセス部門を別会社化することで公正競争の観点からの懸念が払拭されないと考え、完全な資本分離を提案しています。果たして資本分離して財政的に破綻なくやっていけるのか、かつて光の道構想の際に総務省審議会分科会委員の町田氏から受けた批判を再度吟味すべきだと思います。このような批判も情報ハイウェイ・共同溝構想でかわすことが可能だと思います。
外資規制について楽天モバイルは、情報通信インフラの重要性からNTT法と外為法の両方による外資規制の対応が必要としています。ユニバーサル責務がNTTのみの責務ではなくなってきたという意見に同調するわたしにはNTT法と外為法の両方が必要だとの根拠が今ひとつよく理解できません。
KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの回答にはいくつかの共通点と異なる点があります。光ファイバーネットワークの維持・存続・依存の重要性については、各社が一致しています。特に5GやBeyond5Gの普及における光ファイバーネットワークの重要性を強調しています。
これは当然のことであり競合他社が参入したのもNTTへの光ファイバーネットワークの維持・存続・依存を前提としたためです。サンクコストの障壁があるためであり、当時としては最善の選択肢であったと思います。
例えて言えばトヨタが私企業として敷設した道路を他の車メーカーも適正な通行量を支払えば走っても良いとするような施作であり、今では誰も違和感を抱きませんが本来は競争企業としてこのNTT管理の施作を電気通信事業法の元とは言え是認し続けるのはおかしな話なのです。
どこかの段階でケリをつけなければこの先いつまでもこの問題は燻り続けることになるでしょう。この際国の持つ道路占有権を梃子にして地域インフラの管理権を国に奉還するべきだと思います。情報ハイウェイ・共同溝構想の実現に向けて動き出す時期だと思います。
NTT東西の業務範囲規制とアクセス部門の分離についてKDDIはNTT法の業務範囲規制や合併等の認可手続きの維持を支持しています。ソフトバンクも同様に業務範囲規制の緩和に反対し、公正競争の確保を強調しています。楽天モバイルもNTT東西の業務範囲規制に対し競争の阻害を懸念し、NTT東西のアクセス部門の資本分離を提案しています。
いずれも競合の経営者として当然予想された態度表明と言えるでしょうが、すでに通信事業参入で長い年月がたち、いつまでも相手にハンディグローブ着用を主張するのもすでに日本を代表する企業に成長した今、いかがなものかとの感も1990年代に論争に参加していた身として持っています。
NTTも競合他社も互いに株主の利益にたった発言は当然ですが、それでは企業エゴの垣間見える条件闘争に終始して、結局はそれを見透かした政府の妥協案で国益にそぐわない結論が出てしまうことにもなりかねません。NTT東西分離などは料金の同調や人事の一体化など何の効果も生み出さない結果となっておりその悪しき実例だと思います。
NTTも競合他社も日本国全体のパワーを押し上げるような大きなビジョンを示して欲しいものです。かつての「光の道構想」は財務的に根本的欠陥があり、葬り去られたが、わたしは以下の章で述べる共同溝構想が財務的な欠陥を補い今後の無用な論争を防ぐ唯一の手立てではないかと思います。
自民党PT提案の検討
自民党PTの提案は果たして国益になるものかどうかを検討してみます。以下は自民党PT提案の総論的要旨です。
1984年に制定されたNTT法について、約40年前に制定された「電話のあまねく提供」責務と「研究の推進及び成果の普及」責務は維持されたままであり、それを担保する様々な制約がNTTにのみ課されています。
NTT法の制定は、「電気通信分野への民間活力の積極的な導入を謳い文句に、電気通信事業の効率化と活性化を図り、もって、電気通信分野における技術革新と日本の経済社会の発展を目指し、更には国際化の進展に対処するとの見地から行おうとするものであった」とされています。
NTTのみならず、わが国の電気通信事業者には以下の3つの責務が課せられています。
- 情報通信インフラの高度化と維持。
- 研究開発・ソリューション・人材育成などの情報通信産業全体の国際競争力の強化。
- 自由かつ信頼性の高い情報空間の構築に努め、国富の増大に寄与すること。
わが国の情報通信事業者が真のグローバル企業として、世界各国の企業と競争し、成長するための環境を整えるため、NTT法などのあり方について提言されています。
NTT法の主な条文や各事業者から指摘された課題を含め、今後のNTT法のあり方について検討した結果、政府に対し、NTT法において速やかに撤廃可能な項目については2024年通常国会で措置し、それ以外の項目についても、2025年の通常国会を目途に電気通信事業法の改正等、関連法令に関する必要な措置を講じ次第、NTT法を廃止することを求めています。
以下はわたしの総論的意見です。
NTTの責務は維持されたままで担保する制約がNTTにのみ課されている。しかし競合他社にも同様の責務が電気通信事業で課せられていて現実に合っていない。だから廃止するとの論法で提言しています。
NTT法廃止議論を国民目線で考えるには、まずNTTの歴史と現在の状況を理解することが重要です。1985年に設立されたNTTは、組織変更を経て、かつては世界で最も価値のある会社の一つでしたが、現在は激化する競争の中で利益を出すのに苦労しています。KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルなどの企業の台頭により、市場環境は一層競争的になっています。そして何よりもかつての「象と蟻」は互いに巨象に成長しています。
2023年12月8日時点で、NTT(日本電信電話株式会社)の時価総額は1,000.2億ドル(約13.2兆円、1ドル=132円換算)です。対して、KDDI株式会社の時価総額は654.5億ドル(約8.6兆円)、ソフトバンクグループの時価総額は583.3億ドル(約7.7兆円)と報告されています。
NTT法の廃止に関する議論は、日本の通信業界の未来、経済、国民の生活に大きな影響を与える重要な問題です。1985年に設立されたNTTは、その後の組織変更を経てかつては世界でも最も価値のある企業の一つでしたが、現在は激しい市場競争の中で利益を上げるために苦戦しています。KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルなどの台頭により、市場はより競争的な環境になっています。そしてこれらの企業は、かつての小規模なプレイヤーから通信業界の大きな存在に成長しており、その事実はそれぞれの企業の莫大な時価総額によって明らかです。
国際的な視点から見ると、過去に米国からの圧力によって日本の通信市場が開放された歴史がありますが、現在は自国主義の傾向が強まっています。日本の通信産業は、IOWNなどの新技術を通じて国際競争に勝つため、特に失われた30年への反省から強い企業への革新が求められています。国内競争の環境整備から国際競争に勝てるための環境整備へと注目が集まっていると感じます。
「失われた30年」とは、日本経済が1990年代初頭のバブル崩壊後から長期にわたって停滞した時期を指します。この期間に日本は、デフレーション、低成長、少子高齢化の進行、新興国の台頭などの複合的な経済問題に直面しました。経済成長の鈍化により、日本の国際的な競争力は相対的に低下し、かつての経済大国としての地位が揺らぎました。
バブル経済の崩壊は、土地や株の価格が急落し、金融機関が多額の不良債権を抱え込む結果となりました。これによって金融危機が引き起こされ、多くの企業が経営破綻に追い込まれました。政府の経済対策も十分な効果を発揮せず、経済の再活性化には至りませんでした。
加えて、グローバル化の進展により、世界の経済構造は大きく変化しました。特に、中国やインドなどの新興国が経済成長を遂げる中で、日本企業は国際市場での競争力を維持するのが難しくなりました。技術革新のスピードも加速し、情報通信技術(ICT)の発展が新たな産業の成長を促し、経済活動のデジタル化が進行しました。このような状況の中で、日本企業がイノベーションに対応し、国際競争に勝つためには、新しい技術やビジネスモデルを積極的に取り入れる必要があります。
IOWN(InnovativeOpticalandWirelessNetwork)のような新技術は、データ通信の基盤を一新し、次世代の通信インフラを構築する可能性を秘めています。これは光ファイバーや無線ネットワークの性能を飛躍的に向上させ、産業や社会の様々な分野で革新を促すことが期待されています。日本がこのような先端技術を先導し、国際市場での競争力を取り戻すためには、規制の緩和や研究開発への投資増加など、国内外での強いリーダーシップが求められます。
失われた30年の反省から、日本はこれまでの経済政策や産業構造を見直し、新しい時代に適した競争力のある経済体制を築くことが求められています。このためには、国民全体がその必要性を理解し、産業界、政府、教育機関が一体となって取り組む必要があるのです。その意味からNTT法により課せられた規制を解いて自由に羽ばたいてもらうことが大事だと考えます。NTT法が必要かと問われると先進諸外国の例からも今や不自然な存在に見えてきます。
続く