まさおレポート

当ブログへようこそ。広範囲を記事にしていますので右欄のカテゴリー分類から入ると関連記事へのアクセスに便利です。 

新電電メモランダム(リライト)1 はじめに

2012-10-15 | 通信事業 NTT・NTTデータ・新電電

 

<17年に亘るNTT接続交渉>

1989年12月から2001年7月までの12年は日本高速通信株式会社と株式会社タイタス・コミュニケーションズにそれぞれ6年にわたり在職した。この間のNTT接続交渉のメインテーマは、NTT地域網との接続料金をめぐる交渉、長期増分費用方式の実現の為のモデル作成と実現への米国大使館との連携、NTT再編成の実現に向けた研究や各方面への働きかけ、VPN接続交渉が難航し接続裁定に至った事、NTT地下管路借用に関する賃貸料金問題、NTTネットワークへの接続ポイントの多様化と接続料金のアンバンドリング(ネットワーク利用料金の細分)化、固定電話の番号ポータビリティー方式実現等になる。

郵政省との間ではオプショナル・コーリング・プラン(割引料金プラン)導入にあたって総括原価方式での説明に苦労した事、公専公解禁での戸惑い、新電電の自己代理等の営業問題改善、赤字会社の料金引き下げに難渋を示されたときの困惑、VPN接続での大臣裁定申請と郵政省担当幹部からの苦情など。

ソフトバンクBB株式会社に在職した2001年8月から2005年9月までの4年2か月は、あしかけ17年に亘るNTT接続交渉、総務省対応の職歴の中で、とりわけ盛りだくさんなNTT接続交渉のテーマが次々と目白押しに発生した時期だ。ADSLサービスを実現するためのNTT局舎内の配線等の設置工事遅延にいらだち改善交渉に明け暮れた事、NTTへのADSL工事申込みに必要なオペレーションの非効率性の改善要求の繰り返し、ADSL申込み時の申込者氏名とNTT登録名義人の不一致問題はとうとう必要な時期には解決できなかった。光ファイバーを芯線単位(顧客単位)に分割利用可能なメニューの要求、NTTと電力会社で占有している光ファイバーの敷設工事を各電気通信事業者が自前で工事可能とするための電柱利用の交渉、特定のADSL技術規格が干渉を引き起こすとの非難に対する対処、MDF自前工事を可能とする要求、日本テレコムを買収後に計画した「おとくライン」の営業が引き起こした問題の対応などが思い浮かぶ。

<実務当事者の目から>

過去に経験したNTT接続交渉の個々のケースを報道的な目でとらえる手段としては日経新聞社のデータベースを検索することも有用だが、実務当事者の目から実際に経験したことを主観的に記してみることもそれなりに大きな意味を持つだろうと考え新電電メモランダムを書き始めたのはソフトバンクを退職して1年3ヶ月を迎えたころで、2007年1月のことだった。問題解決の渦中にあるときよりも多少時間の経過した後のほうが遠景としてとらえられ、記憶の生々しさは薄れるが重要な点のみがフィルターにかけられて浮かび上がり、又感情的な面からもバランスのよい見方もできるだろうと考えた。

執筆開始当時はバリ島にロングステイを始めて4ヶ月目になる頃で、当時夢の中でほぼ毎日のようにかつての仕事の断片のシーンが次々と浮かんでくるようになった。それらの夢を糸口にして書き留めてみると意外に楽しい作業になった。既にバリ島滞在4年目になる。

ニュースや総務省報道あるいは国会議事録やテレコム年表をつなぎ合わせただけでは私にとってあまり意味がある作業とは思えないが、交渉実務者としての経験の記憶を通して見えてくるものが何かあるのではないか、それを求めて書いてみようと考えた。

<反省点もある>

現時点では、世間の関心の焦点は携帯電話事業の競争に移っている。しかし本文でも盛んに取り上げたMDF自前工事(接続を依頼する新電電側が工事する事)の課題や電柱線路の自前敷設(NTTや電力会社以外が敷設工事をおこなうこと)など、いまだ未解決でラストワンマイルでの競争の妨げになっているように見え、今後のNTT再編成問題へと大きな影響を与える問題も多い。しかし、今となっては本当にMDF自前工事が競争促進に必要なのかどうか、ラストワンマイル会社分離論と合わせて今後冷静に議論してみる必要があるだろう。私にはどちらも仮に実現した場合、大きな問題を引き起こす気がしてならない。

MDF自前工事では狭いMDF設置空間で互いに異なる業者や異なる指示系統で作業し合うため、非効率性が発生するだろう。又テロ対策などに抜かりが生じる可能性も心配だ。ラストワンマイル会社をNTT本体から分離する案では会社を切り刻むことに対する国際競争力の低下や、社員の士気の低下さらに独占の弊害である非効率も将来の暗雲となりえる。

潜在的サボタージュを防止する規制と監視方法、手続きの透明性と監視方法、公平性を担保する規制と監視方法、適正料金を総務省が徹底して規制するなどに知恵を出し合うことで実効をあげる方が、分離会社よりもふさわしいのではないかと今では考えている。

長期増分コスト方式もそろそろ中止する段階に入ったのではないか。実際費用方式より高い接続料金を算出する矛盾もさることながら、将来原価といいながらも機器や労賃などは実際費用を算出のベースとし、もっぱら減価償却期間を後追いで調整していく手法など、既に限界を示している。天動説で天体の動きをむりやり表現した愚を犯しているように見える。

<タイムリーな行政判断が大事>

一方では名義人不一致問題のように2006年9月にようやく、「新競争促進プログラム2010」が策定され、曙光が見え始めたテーマもある。総務省も努力を怠っているわけではないが、「戦いすんで日が暮れて」の時期ではその有難味も激減する。2001年から始まったADSLサービス事業立ち上げ時にこそ必要な行政であったのだが。

2012年10月現在、携帯周波数の割り当て問題もオークションを後回しにしているうちに値打ちのあるバンドはほぼ割り当てを完了してしまった。今後の実施を準備中だというが遅きに失したのではないか。

ソフトバンクは携帯事業、光ファイバー事業、さらには、コンテンツ事業、(はたまた電力事業)へと一層の発展が期待されている。事業規模、顧客数、社会的影響、どれをとってもADSL事業開始当時とは比較にならない規模と影響の広がりを見せている。今後も幾多の難局を、過去と同じ戦術で、あるいは世間に予想外と思わせる方法で乗り越えていけるのだろうか。競争参入時には大目に見られた企業としてのマナー違反も現在の会社規模では一層厳しい眼が注がれることになる。

 <接続交渉に「正義」はない>

本書では新電電各社やソフトバンクの社内事情を書くことも、NTTへの非難、論難を書くつもりも毛頭無い。どちらの交渉担当者も、それぞれの企業の命題を担って、それぞれの立場で真摯に交渉を繰り広げてきたと考えている。記述したいのは大きな意味での通信政策であり、ありのままの交渉の事実だろう。日本の通信政策とNTT、それに戦いを挑む新規参入事業者の生の歴史、成功例も失敗例も含めて内側の目、接続交渉担当者の目からみて描いてみようと考えた。尚、世間にあまた出版されている孫正義本のような「成功物語」あるいは成功の秘密的な内容、ちょうちん持ち的な内容も本書からは期待できない。

新電電サイド、ソフトバンクサイドからの接続交渉実務担当者の目でNTT、総務省、新電電各社を眺めた17年間の振り返りでもあり、バランスを欠く偏向もどこかに潜在することは避けられないと自覚しているが、それでも気持ちの上では務めて公平に書くように努めた。

独占も競争もいずれが正義という事は無いとの思いから、接続交渉に一方だけが「正義」という概念はありえないという立場を取っている。NTT、NTTデータにも併せて20年近く在職したが、交渉実務としては新電電という一方の側にいた人間の描いたものであるからおのずから限界はある。事実に即して書く努力をしているが学術的史実を述べようと意図したものではなくあくまでも主観的な「物語」も多く含まれることをお断りしておく。

<守秘義務>

NTTとの接続交渉は非公開が原則で、結果がまとまれば、公表される。しかし、その交渉プロセスも同じくらいの重みで大切だと考える。接続交渉の中身は交渉する双方に守秘義務があり、それを避けて書くことはなかなか困難であるが、NTT接続交渉はメディアの関心を引いており、幸いかなりの部分が報道されている。総務省の研究会の討議内容の公開資料や国会議事録も含めて、公表された事実のみで再構成することは可能だと考えた。

会議中の食事風景等や何気ないしぐさ、会話や風景描写など、企業情報とは関係ない描写などは記憶をつないで創造で補って書いてあり、事実と異なるかもしれないがご寛恕願いたい。

<参照のお礼>

記憶のあいまいな日時や固有名称は主としてネット検索、テレコムビジネス年表(井上照幸 大月書店)、「ほんわかきりん」サイト、wikipediaで補い、国会議事録も多いに参照した。特に日時の確定にはテレコムビジネス年表は頻繁に利用させてもらった。この場でお礼を申し上げる。


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。