えくぼ

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「それから」を読む ④

2015-04-29 09:17:14 | 歌う

            ・・・ 「それからを読む ④」 ・・・

✿「それから」を読みつつ三千代の「これから」が気になる藤の花房ゆれて  松井多絵子

 「平岡の細君は、色の白い割に髪の黒い、細面に眉毛の判然映る女である」。~これは昨日第20回「それから」の冒頭の文である。平岡の細君とは三千代のことだ。「こころ」ではヒロインの「奥さん」の容貌について特に書かれていなかったような気がする。しかし「それから」は親友の妻の三千代について「第20回」でかなり丁寧に描写されている。「三千代は美しい線を綺麗に重ねた鮮やかな二重瞼を持っている。目の恰好は細長い方であるが、瞳を据えて凝と物をみるときに、それが何かの具合で大変大きく見える。 二重瞼の黒目がちのパッチリした眼は欧州的な美人を思わせる。英国に留学した漱石は古風な日本的な女より、ヨーロッパ的な美女のほうが魅力的だったのではないか。

 今日の「第21回・それから」の代助は椅子に座りタバコを吸いながら、彼の家に訪ねて来た三千代と二人で話をしている。「久しぶりだから、何か御馳走しましょうか」などと誘うが三千代は「なりたけ早くかえりたいの」と応える。明日は引っ越すので忙しいらしい。そして、「実は私少しお願いがあって上がったの」と言い出す。夫の平岡は現在失業している、借金も抱えている。三千代は出産したが、生まれた子はじきに死ぬ、それから心臓を痛めたらしく体調がすぐれない。その淋しく弱々しい三千代が古版の浮世絵に似ている、ように代助には見える、同情から恋へとなるのか、高等遊民・大助の「これから」は。

 三千代に気恥かしい思いをさせる平岡を、代助は甚だ気の毒におもう。無職で親の脛を齧っている自分にお金を貸してほしいとは。しかも妻に言わせるとは。金高は500円だ。今の500万円?代助は 「なんだその位」 と思うが実際には金を持っていない。
自分は金に不自由しないようでいて、その実大いに不自由している男だと気が付いた。三千代の青白い顔を眺めて、その中に、漠然たる未来の不安を代助が感じた。そこで今日は終わっている。代助と平岡は親友だと度々書かれているが、二人の接点は何なのか。私はこの二人を好きになれない。他にも書生の門野という青年、この先どうなるか。誰よりも自立できない三千代のことが心配である。   

      私だって自立できないのにねえ。  4月29日  松井多絵子


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