人間、褒められて悪い気はしません。多少お世辞が入ったり「盛られたり」しているのがわかっても、認めてもらえるというのは、正直何歳になってもうれしいものであります。
以前、豚もおだてれば木に登る、ではなくて、おだてられても、そう簡単に木には登らない、と書きました。豚が登ったらいずれ落ちるのは目に見えています。低いほうに居るのが安全で心地よい、分相応を旨とすべき、と考えていたのです。
さて、そこで書道と篆刻であります。書道は、趣味とする人口も多く300万人くらいだそうです。幼少のころから徹底的に仕込まれた方や才能に恵まれる「筆の性」の卓越した人なども星の数ほどいます。実質的に本格的に学び始めてまだ7年ほどのワタシなどとうてい太刀打ちできません。それでも、漢字に特化して若い人たちに負けないほどの集中力をもち、書法についての研究は怠らずにまいりました。
しかし、各種の作品展・展示会への腕試しなどは億劫で、段位の取得・師範への欲求なども毫もございません。好きに書いて、いくらか自分が納得できるような書が書けるようになればよかろう、というのんきな姿勢でやってきました。
で、出会ったのが「篆刻」の世界で、自分の性分にあっていたのか。今のワタシにとって、いくつもあるの趣味の最高位になっております。暇さえあれば彫り、過去の先人たちの印譜を眺め摸刻し、数千もの篆刻用の石印材を蒐集するようになって3年経過しました。書道に比べると篆刻を本格的にやる人は、その10分の一以下でしょう。篆刻の業界団体は大きくは二つで、日本篆刻家協会(関西系)の会員が約1000名、全日本篆刻連盟(関東系)が300人足らずであります。 フリーでやってる篆刻家さんもいるでしょうから、篆刻家さんと言われる人は少なくても2千人というところではないかと思います。
例えば日展の「書道」部門では、やや古くなりますが2016年で総出品数8402(内篆刻569件)でした。割合では篆刻は6.8%ですね。書道人口が仮に300万人として、だいたい20万人位の篆刻愛好者が居るという計算になります。ともかくも非常に狭いマニアックな世界であることは間違いありませんね。
そんな状況で、いささかとち狂った感がある作品展(日展)出品用の制作を始めたのがひと月前でした。これまでにやってきた篆刻の延長でありますから、今まではやらなかった方寸6cm以上という大きな石を作品として彫ることにはさほど抵抗はありません。
そして、こつこつ10本ほど試作品を作った(粗彫ですが)ものの、これで出品物として、どうなんだ、という疑問が当然湧くわけです。なにせ篆刻作品をなにかに出品したことはありませんし、指導してもらえる師匠も居ませんから。そこで考えたのが、以前から参加している「篆刻・書道チャット」であります。以前から何度となく彫ったもので気に入ると投稿(アップ)してきました。残念ながらその反応は薄く、さほど注目もされず、当然のことながら印に対する感想や改善点などの指摘も滅多にありませんでした。
今回、「こういうわけで作品展に出したいと思って印を彫っているので、なにとぞご指導願います」、とやったのです。「篆刻チャット」には20人ほどのメンバーが居て、ワタシの見るところ最低2名の本物の「篆刻家」さんが含まれております。この方たちは日展作家であったり、篆刻を生業としている専門家なので、作品展と聞けば全く違う視点でシビアに見るだろうと思ったのです。師匠が居ない(月謝を払っていない)ワタシとしては苦肉の策でありました。
するとお二方から、意外な反応がありました。お一人はpekepeke先生というHNを使っている若手で気鋭の篆刻家さんで「僕はこれ好きです」とのコメントを頂戴しました。以前のワタシの篆刻印にも「かなり面白い」とかの感想をいただいていました。ワタシは正直、若者言葉を解していないので「かなり」がどんな意味かを測りかねておりました。「かなり」、は可なりが語源で「まぁいいでしょう」から相当に・結構といった意味で使われますが「そこそこ感」が強いですね。しかし、「か」の部分を強く発音すると、強調して誉め言葉の意味合いが強くなるのが若い人の使い方なのですね。文章ではそれは読めません。
今回の「好きです」がどんな意味を持つかはわかりませんが、その先生は「なんなら、アシストしますよ」と言ってくれました。ご自身の社中を経由して出品する、言葉は変ですが紐付きの出品になるのですね。ワタシには何のつても知り合いもなく、いずれの団体にも属していないので初出品で個人搬入をする予定でありました。これは、どんな公募展でも、ほぼ入選確率0と同義語になります。
先生は、日展はともかく、もう少し(身の程にあった)一般的な公募展にするならそこそこ顔が効いて紹介できるかも、と言う極めて現実的・具体的な方策・知識を伝えてくれたのです。さらに言えば、アンタの篆刻印だったら、自分の弟子扱いで応募してもいいでしょ、と認めてくれたのかもしれませんね。
そしてもう御一方のHN、Kisen先生からは、「個人的に、漢代の印を思わせて好きです」という、思ってもいなかった過分なコメントを頂戴しました。それだけで十分であります。まず、プロの篆刻家さんから感想を貰えるだけでも、一定の作品として見てもらえたという自信になります。ここはどうかな、とかこうしたらもっといい、とかの指導を期待していたのですが、それが無いのは、アマチュアのワタシながら、いくらかの力量とこれまでの姿勢を認めたうえで「今まで通り、自分を信じて精進なさいな」と激励してもらった、と自分に都合よく解釈いたしました。
前の川から渡ることにいたします。どうせ乗りかかった船であります。
当面はひたむきに作品として試作品を10本ほど制作し、pekepeke先生から、これなら自分のところを通し、先生の名前を「師匠」として登録してもいい、とお墨付きをもらえるなら、差し出された手にすがろうと思います。そして出品料の安い(権威はやや低くなる)公募展に出す、という当たり前のステップを踏んでみようと。
というわけで、勇気百倍、とりあえず、中古品として集めた大きな印材の印面の彫を削り磨くことにいたします。床を研磨する機械「ベルトサンダー」の布やすりの部分を交換しました。この底の部分を上に向け、大きな印材を押し付けて削るのです。さぁやるべし。
いろいろあって、急にいつの間にか「スイッチ」が入ったようです。ずっと前からいろんな何かが繋がって、なるべくしてなっていくしかない、と腹を括りました。
目先の一般的な公募展から権威ある専門の日展や読売などの作品展まで、可能な範囲で出品しようと思います。
ワタシは粗製乱造、手が早くて、どんどん印を彫るので、出品数には不足が無いのです(笑)