小二のころ、担任に、こんな話をされた。
……道徳の時間だったと思う。
人を殺すと、
その殺された人が夢に出てくる、と。
「何で殺したんだ~」って物凄い顔で毎晩現れる、と。
頭から血を流して涎垂らして、夢の中で首を絞めてくる、と。
そのショックのあまり、寝られなくなり、
しまいには、気が狂って自殺してしまう、と。
……物凄く怖かった。
だから、ン十年経っても、鮮明に覚えてる。
幽霊じゃなく、
夢に出てくる、というのが、なお怖い。
今、思い出した。
昼間も、道端や交差点で、
死んだ人の幻を見る、とも言ってた。
他の人には見えないのに、自分だけに見える。
もう、一生、まともに暮らせなくなる、と。
やがて精神病院に入れられる、とも。
……実は、今でも半ば信じてる。
最低でも、
本当にそうなってもおかしくない程度には、
殺した側に重くのしかかり続けるだろう、と。
本当にそうかどうか、確かめることは出来ない。
そんなこと、考えるだに恐ろしい。
今、こんなこと、小学校の担任が言ったら、
問題になるかもしれない。
でも、私は、言ってもらって良かったと思っている。
理性ではなく、
皮膚感覚にも似た感性に訴えかけられた恐怖は、
抑止力として充分過ぎるほど。
もちろん、それ以前に、
人の命の大切さは、
他の色んな、怖くない話でも教えてもらってはいた。
だから抑止力なんか必要ない、と九割九分思う。
でも、人間、絶対も完璧もない。
何かの原因で人を殺したくなるほど憎む可能性は、
一生、ゼロにはならない。
でも、
その、万が一のもしものとき、
きっと恐怖で何も出来なくなると思う。
悪夢を見たくなくて。
怖い幻に悩まされたくなくて……
結果的に、誰も死なずに済む。
その収まりかたが最良かどうかはわからない。
人じゃなく、自分の都合で動いてのことだから。
でも、悪くはないだろう。
誰も悲しまずに済むんだから。
……………………………………
彼らにも、そういう恐怖があれば、
「誰でも良かった」
って面識もない人を刺せなかったかもしれない。
他人を線路に落とせなかったかもしれない。