さっき、テレビ番組で、
元日本代表の前園がインタヴュアーとして、
現日本代表の中田に質問していた。
前園の質問は、特に鋭いものではなく、
むしろ、新人インタヴュアーとして、極々普通のものだった。
中田の返答も、どこかで聞いたような内容で、
特に新鮮なところは無かった。
'96アトランタ・オリンピックで、
初めて日本がブラジルを破ったとき、二人は、同じチームにいた。
……オリンピック日本代表のチームに。
主将として、敵陣に切り込むドリブラーとして、
前園は熱く、チームを引っ張った。
マスメディアに心を閉ざす前の中田が若さ溢れるプレーで応えた。
……二人は同じボールを追い、同じ風景を見ていた。
前園が質問を始めたとき、中田の表情が変わった。
一瞬だけど、チームメイトの目になった。
友達からの連絡事項をちゃんと聞こうとしているようにも見えた。
答え始めると、いつもの中田に戻った。
「またその質問かよ」……半ばうんざりしたような顔で喋った。
他のインタヴュアーに対するものと何ら変わらなかった。
前園だけを優遇するつもりは無い。
一見冷たいけど、
選手を引退し、新しい挑戦を始めた友達への礼節にも見えた。
'98W杯フランス大会で、初出場した日本代表。
そのピッチの上、中田の隣りに前園は居なかった。
召集されないのが不思議じゃないほどには、いろんなものが落ちていた。
でも、中田は前園の復帰を本気で望んでいた。日本が勝つ為に。
結局、二年後の地元開催W杯にも呼ばれなかった。
W杯初勝利を収めたチームで、中田は“孤高の王様”になっていた。
……同じボールを追うチームメイトを探していた。
インタヴュー終了後、帰る中田を前園が引き止めた。
「ヒデ、ヒデ、今日、いつもより喋ったじゃん」
「……だって、マーくんだから」
その瞬間、二人はチームメイトに戻った。
日清のカップ麺『ラ王』のCMに出演してた頃の友達に。
もう、何だか……
いろんなことが浮かんできて、涙腺が緩んだ。
選手としてどんな状態にあっても、友達としてのつながりは変わらない。
もう、同じ風景を見ることのない二人。
彼らがピッチの中と外で、三度目のW杯に何を見るだろうか。
中田に、
「俺が何とかするから代表に入ってもらいたい」とまで言わせた前園。
今晩、ドイツのピッチに、
前園以上に走り、中田と同じボールを追っかける選手が一人でも多く現れますように……