メイサと7人の外国人たち

アラサー元お水とキャラの濃い外国人達の冒険記

私にとって大切な人

2018-10-16 10:22:38 | 
ある日のことだった。



「君はよくやってるよ。君の言う通り、気が合う友達に出会うのは簡単なことじゃないしさ」



私はもぐもぐとアスパラを噛みながら頷いた。
今夜も咲人と長電話しながら料理中だ。
私はとにかく食べたいし、作りたい。
コショウを足しながら私は答えた。



「ありがと。日本人相手でも難しいのに、ここで素敵な友達ができて幸せだわ」

「頑張ったな」

「……でも、今私は一つ大きな問題を抱えているの」



どうした?と咲人は驚いた。
一ヶ月前、私は梓の家を真夜中に飛び出した
やっと一歩踏み出した優しい彼を置き去りにして。
ため息が溢れる。



「私の、ここでの一番の友達覚えてる?」

「んー、あの国の男だっけ?」

「そう。私の一番の友達で、私の唯一の男友達…(あ、咲人入れないと失礼かな)」

「(俺は何なんだ)そいつがどうかしたの」

「私は彼のこと本当にいい友達だと思ってたんだけど…彼は違ったみたい」

「え、何で?」

「……私は彼にとって友達じゃなかったみたい」




一呼吸置いて、あぁーわかった、と咲人は声を上げた。
私はため息混じりにマッシュルームを切り刻んだ。




「彼はなんか言ったの?何つーんだ、何か決定的なことを?」

「まぁその…分かることをした」

「あ、そう。。。で、君はどうしたの」

「私はそれを受け入れなくて、それで……」




それから、何通かメールしたけど、すぐに返事が途絶えた。
何事もなかったように、どうでもいいメールを少し間を空けて2通送った。
梓は返事をしなかった。
そしてそのまま今日に至る。
あっという間に一ヶ月が経った。




「私は彼を失わんとしているの。はぁぁぁぁ」




それはしょうがないぜ、と咲人は言った。




「もう前みたいには戻れないのかなぁ〜〜〜〜〜」

「うーん、それはまぁ男によるけど。でもま、基本的には無理だろうな」



バッサリ



「えぇぇぇぇ!?(涙声)」

「ま、待て待て。基本的には、って言ったんだよ」

「イヤァァァァ(号泣)」




フライパンを振るいながら嘆く私を咲人はなだめた。




「そいつが良い男なら君の気持ちを理解してくれるんじゃないの」

「そうだね…梓は本当に素晴らしい人なのよ。だから…そう期待したいけど…
でもまぁ彼が私を諦めるにしろ、諦めないにしろ、私は彼を傷つけたんだからすごく悪い気がするわ」

「それはしょうがないだろ」

「私は彼のこと友達として大好きなのよ。好きな人を傷つけて、しょうがないなんて言えないわ」

「ふん、まぁ、な」



オリーブオイルとニンニクと一緒に炒まったマッシュルームは香りが最高。
米と白ワイン、牛乳を注いで火力を上げた。
フツフツ言うフライパンを混ぜながら言った。



「まぁ、何にせよ今は彼には時間が必要だと思うの」

「そうだな」

「彼の気持ちを考えるなら、私が今できることはただ待つだけ」

「いいんじゃない」

「はぁぁあ〜。。。」




深いため息をつく私に、咲人は質問した。




「君は気づかなかったの?そいつの気持ちに」

「うーん…随分前にもしかしたらとは思ったのよ。だから牽制したの」

「いいじゃん」

「でもそれはもう前のことで…彼は慎重な人だからそれ以降特に動かなかったから、私も油断していたの」

「なるほどね」



しつこくため息をつく私にウンザリしたのか、咲人は何やら提案し始めた。



「メイサ、そういう時は他の男の写真を見せて『この人が私の好きな人なの♡』とか言っとくべきだったんだよ」

「はぁ?そんな写真持ってないわよ」

「用意するんだよ。ウソでも」


イヤだよ


何でわざわざそんな事しなきゃなんないんだよ!(笑)


相変わらずどこかズレている咲人の提案はバッサリ切ってやった。
バッサリついでに聞いてみた。


「あなたは?こういう経験ないの?両思いだと勘違いしてしまった事」

「うーん……あるよ」

「その時はどうしたの?」

「学んだよ。また同じこと繰り返さないように慎重になったと思う。
楽しい出来事じゃないからな」



ですよね、と私は味見用スプーンを咥えた。
うん、あとは余熱でいいや。
火を止め、始めのアスパラを散らしてからフタをとじた。
明日のお弁当はリゾットだ。



一ヶ月の間、色々なことがあった。
梓には無視され、仁とは連絡が再開したけど私の気持ちは前とは違っていて。
どんどん咲人に惹かれていく自分に気がついた。
梓に申し訳ない気持ちもあった。
でも心のどこかで梓はまた何事もなかったように返事をくれるんじゃないかと思っていた。
だって、彼は今までずっと、本当にずっと、優しかったから。
私の拙い英語も、くだらないバカ話も、爆笑する顔も、全部受け止めてくれた。
この街で色々なところへ連れて行ってくれた。
いろんなことを教えてくれた。
一度も偉そうにも、恩着せがましくもせず。
ただスマートで、優しかった。
私のことを大切にしてくれた。



その理由は友情じゃなくて恋だったけど。




「メイサの今日の服、いいね」



雪の降る日だった。
ブランチを食べに出かけた私は、ダウンの下にグレーのワンピースを着て行った。
テーブルについてコートを脱いだ瞬間、梓がハッとしたのに気づいた。
でもやっと彼がそう言ったのは、店を出る時だった。
ありがとうと微笑んでから、あなたも着たい?と聞くと、笑った。



「残念ながら俺には似合わないと思うよ」

「恥ずかしがらないでいいのよ♡」

「ま、サイズが合わない(笑)」



確かに!と声を上げて笑った私は、本当に彼のことが大好きだった。
少ししか一緒にいられなかったけど、また会うのが楽しみだった。
それからも梓は頻繁に私の服を褒めてくれた。
典型的な女子らしく、クローゼットがパンパンな私は彼と会う時の服を選ぶのも楽しかった。
会う数日前から楽しみだったのだ。



続きます。




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