「あっそうだ!メイサ、写真撮っていい?」
あまり食が進まないアイアンはそう聞いた。
私はモグモグする口を手で覆って、自分を指差した。
「わひゃひの?ややよ」
「俺たちのだよ!もちろん君のも撮りたいけどさ、ハハ!」
「んー、まぁ、いいけど」
「よし、こっち見てこっち見て!」
と言うとアイアンは自分のスマホを掲げたが、すぐに
「ちょっと待って!俺このデカイ鼻隠さなきゃ!待って待って。
あっこれでいいや!ジャン」
と、水の入ったカラフェを自分の顔の前に持って来た。
いやそれ、アンタちゃんと写らないんじゃないの!?と思わず笑ってしまった。
しかもカラフェって透明だからなんとなく見えるんじゃ……
「よし、これでオッケー!はい、笑って〜♡」
と言ってアイアンは写真を撮った。
私はどんな顔をしたら正解なのかわからず、ムスッと頬を膨らませてみた。
見ようによってはぶりっ子なアレだ。
アイアンは撮れた写真を見て、いいねいいねと何やらご機嫌だ。
混んでいないにもかかわらず、ランチが全部やってくるのには時間がかかった。
ボリュームが多すぎるのもさることながら、アイアンにとっては時間もかかりすぎだ。
一応この人は、仕事中なのだ。
ランチ休みにしては時間を使いすぎた。
この国は何もかもがいい加減で、のんびりしている。
特にレストランに行くと日本人はイライラすること間違いない。
私なら発狂しそうなくらい待たされても、アイアンはチラチラとカウンターを見ては
俺行かなきゃと苦笑するだけで、お会計を急かす事はなかった。
あぁ、これがこの国の常識なんだとシミジミした。
アイアンは、初デート(なのかあれは?)で朝っぱらから女をトイレに連れ込むような奴だ。
でも、彼は公共の場(笑)ではとてもこの国の人間らし〜い男で、
大変体裁を気にする。
トイレに連れ込んだ時でさえ、周りに知られないかだけは気にしていた。
アーーーーンド
「メイサ、そんなに怒らないでくれよ。周りの人が、俺たちが何か揉めてるって思うよ」
トイレ事件の日、彼はしつこくカフェに戻ろうと言った。
女は割とすぐモードチェンジ出来るけど、男はそうは行かないからだろう。
当然こちらはトイレで続きをする気は全くないので、
カフェの前で押し問答になったのだ。
私が「何でトイレになんか戻んなきゃなんないのよ!」とシャウトしたところで彼は↑こう言ったのだ。
つまり、腹が立っても怒鳴るなってことね。
アンタが悪いのに。
知らねーよ
……話はランチに戻ります(笑)
体裁を気にするアイアンがようやくお会計を済まし、
私は何か違和感を感じた。
この時はそれが何かわからなかった。
「いやー、思ったより時間かかっちゃったけど、
楽しかったよ!
今日は来てくれて本当にありがとうね」
「どういたしまして」
「ね、メイサ、ハグしてもいい?」
裏通りに差し掛かったところで、彼はそう聞いた。
私はしかめっ面をしてNOと答えた。
「なぁんで!いいじゃんいいじゃん」
「や、だ」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ。ね♡」
「いやです」
「じゃぁキスしていい?」
「はぁ!?もっとダメだろ!」
「じゃ、ハグだけ」
と言って彼は私を抱きしめた。
んん〜〜〜と噛みしめるように唸るアイアンに対し、私は何なんだこれは…という顔をしていた。
「アンタ早く行かなきゃいけないんじゃないの」
「おっとそうそう!俺マジで急がなきゃ!」
と言って表通りに抜けると、アイアンはクルッと私に向き直った。
「じゃ、また会おう。一緒にコーヒーでも飲もうよ、ね。
また連絡するね」
「はいはい……」
「じゃぁね、メイサ。行く前にもう一回だけハグさせて!」
と言ってアイアンは私をギューっと抱きしめて持ち上げた。
ちょっと、と私が言うか否かのうちに、彼は
パシン
と、私のお尻を叩いた。
「ちょっとぉ!!(怒)」
「ハハハハハ!!じゃーねー!」
と言ってアイアンはサッサと帰っていった。
「な、何なのよアイツ……」
ゲンナリなのか
イライラなのか
グッタリなのか
私はとにかく、眉間にしわを寄せて彼の背中を見送った。
フン、と鼻息をついて、私も踵を返した。
ま、いいや。どうでも。
私はこの国に来てから思っていたことがあった。
私のように英語が達者でない女でも、こんな風に案外、口説かれる。
雅留やアイアンのように到底真面目には思えない男もいれば、
咲人や梓、他にもちらほらと、まともな恋愛関係を求める男もいた。
でも毎回思ったのは、彼らと私の今のニーズが合わないということだ。
彼らはベッタリと濃密に彼女と過ごしたい。
何なら毎日会いたいから一緒に暮らしたい。
対する私はそれどころではない。
キャリアアップやまだ見ぬ世界への経験に忙しい。
勿論恋愛は楽しいけど、とてもじゃないけど彼氏を一番に優先できない。
思い返せば、学生のころは私も彼らのようにベッタリしていた気がする。
働き始めてからも、一緒に朝を迎えたい気持ちはあった。
だから彼らの気持ちがわからないわけではないけど、
今の自分には合わないようで、
結局最後は「君は俺に真剣じゃない」と振られた。
というわけで結論。
私は日本に帰るまでは真面目に付き合う男はいらない。
それを踏まえた上でアイアンは、特に悪くなかった。←トイレ事件どうなった
彼は変だ。
少なくとも素敵じゃない。
でも、これっぽちも私に真剣に見えない割りに、
すごく私に執着していて、すごくまめ。
トイレ事件を除けば(除くんだ笑)、とにかく優しい。
レディファーストで、あたしがどんなにキツいことを言っても怒らない。
まともな仕事についている。
見た目がスーパータイプ。
そして、この国の人間だ。
ヒールのコツコツ音はちょっと目立つ。
早足に道を行くと人が振り返り、そして避ける。
この国でサバイバルするためには、この国のことを知らなきゃいけない。
この国の言語をマスターしなきゃいけない。
だって何のためにはるばる日本からここまで来たの。
日本人とお喋りしている暇はない。
アイアンはこの国の人間だ。
ポチ
ポチポチポチポチ
『アイアン、今日は楽しかったわ、ありがとう。
写真送ってくれる?
私と、あなたが鼻をカラフェで隠してる、ツーショット。』
それから私は、アイアンに頻繁に会うことになる。
続きます!
あまり食が進まないアイアンはそう聞いた。
私はモグモグする口を手で覆って、自分を指差した。
「わひゃひの?ややよ」
「俺たちのだよ!もちろん君のも撮りたいけどさ、ハハ!」
「んー、まぁ、いいけど」
「よし、こっち見てこっち見て!」
と言うとアイアンは自分のスマホを掲げたが、すぐに
「ちょっと待って!俺このデカイ鼻隠さなきゃ!待って待って。
あっこれでいいや!ジャン」
と、水の入ったカラフェを自分の顔の前に持って来た。
いやそれ、アンタちゃんと写らないんじゃないの!?と思わず笑ってしまった。
しかもカラフェって透明だからなんとなく見えるんじゃ……
「よし、これでオッケー!はい、笑って〜♡」
と言ってアイアンは写真を撮った。
私はどんな顔をしたら正解なのかわからず、ムスッと頬を膨らませてみた。
見ようによってはぶりっ子なアレだ。
アイアンは撮れた写真を見て、いいねいいねと何やらご機嫌だ。
混んでいないにもかかわらず、ランチが全部やってくるのには時間がかかった。
ボリュームが多すぎるのもさることながら、アイアンにとっては時間もかかりすぎだ。
一応この人は、仕事中なのだ。
ランチ休みにしては時間を使いすぎた。
この国は何もかもがいい加減で、のんびりしている。
特にレストランに行くと日本人はイライラすること間違いない。
私なら発狂しそうなくらい待たされても、アイアンはチラチラとカウンターを見ては
俺行かなきゃと苦笑するだけで、お会計を急かす事はなかった。
あぁ、これがこの国の常識なんだとシミジミした。
アイアンは、初デート(なのかあれは?)で朝っぱらから女をトイレに連れ込むような奴だ。
でも、彼は公共の場(笑)ではとてもこの国の人間らし〜い男で、
大変体裁を気にする。
トイレに連れ込んだ時でさえ、周りに知られないかだけは気にしていた。
アーーーーンド
「メイサ、そんなに怒らないでくれよ。周りの人が、俺たちが何か揉めてるって思うよ」
トイレ事件の日、彼はしつこくカフェに戻ろうと言った。
女は割とすぐモードチェンジ出来るけど、男はそうは行かないからだろう。
当然こちらはトイレで続きをする気は全くないので、
カフェの前で押し問答になったのだ。
私が「何でトイレになんか戻んなきゃなんないのよ!」とシャウトしたところで彼は↑こう言ったのだ。
つまり、腹が立っても怒鳴るなってことね。
アンタが悪いのに。
知らねーよ
……話はランチに戻ります(笑)
体裁を気にするアイアンがようやくお会計を済まし、
私は何か違和感を感じた。
この時はそれが何かわからなかった。
「いやー、思ったより時間かかっちゃったけど、
楽しかったよ!
今日は来てくれて本当にありがとうね」
「どういたしまして」
「ね、メイサ、ハグしてもいい?」
裏通りに差し掛かったところで、彼はそう聞いた。
私はしかめっ面をしてNOと答えた。
「なぁんで!いいじゃんいいじゃん」
「や、だ」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ。ね♡」
「いやです」
「じゃぁキスしていい?」
「はぁ!?もっとダメだろ!」
「じゃ、ハグだけ」
と言って彼は私を抱きしめた。
んん〜〜〜と噛みしめるように唸るアイアンに対し、私は何なんだこれは…という顔をしていた。
「アンタ早く行かなきゃいけないんじゃないの」
「おっとそうそう!俺マジで急がなきゃ!」
と言って表通りに抜けると、アイアンはクルッと私に向き直った。
「じゃ、また会おう。一緒にコーヒーでも飲もうよ、ね。
また連絡するね」
「はいはい……」
「じゃぁね、メイサ。行く前にもう一回だけハグさせて!」
と言ってアイアンは私をギューっと抱きしめて持ち上げた。
ちょっと、と私が言うか否かのうちに、彼は
パシン
と、私のお尻を叩いた。
「ちょっとぉ!!(怒)」
「ハハハハハ!!じゃーねー!」
と言ってアイアンはサッサと帰っていった。
「な、何なのよアイツ……」
ゲンナリなのか
イライラなのか
グッタリなのか
私はとにかく、眉間にしわを寄せて彼の背中を見送った。
フン、と鼻息をついて、私も踵を返した。
ま、いいや。どうでも。
私はこの国に来てから思っていたことがあった。
私のように英語が達者でない女でも、こんな風に案外、口説かれる。
雅留やアイアンのように到底真面目には思えない男もいれば、
咲人や梓、他にもちらほらと、まともな恋愛関係を求める男もいた。
でも毎回思ったのは、彼らと私の今のニーズが合わないということだ。
彼らはベッタリと濃密に彼女と過ごしたい。
何なら毎日会いたいから一緒に暮らしたい。
対する私はそれどころではない。
キャリアアップやまだ見ぬ世界への経験に忙しい。
勿論恋愛は楽しいけど、とてもじゃないけど彼氏を一番に優先できない。
思い返せば、学生のころは私も彼らのようにベッタリしていた気がする。
働き始めてからも、一緒に朝を迎えたい気持ちはあった。
だから彼らの気持ちがわからないわけではないけど、
今の自分には合わないようで、
結局最後は「君は俺に真剣じゃない」と振られた。
というわけで結論。
私は日本に帰るまでは真面目に付き合う男はいらない。
それを踏まえた上でアイアンは、特に悪くなかった。←トイレ事件どうなった
彼は変だ。
少なくとも素敵じゃない。
でも、これっぽちも私に真剣に見えない割りに、
すごく私に執着していて、すごくまめ。
トイレ事件を除けば(除くんだ笑)、とにかく優しい。
レディファーストで、あたしがどんなにキツいことを言っても怒らない。
まともな仕事についている。
見た目がスーパータイプ。
そして、この国の人間だ。
ヒールのコツコツ音はちょっと目立つ。
早足に道を行くと人が振り返り、そして避ける。
この国でサバイバルするためには、この国のことを知らなきゃいけない。
この国の言語をマスターしなきゃいけない。
だって何のためにはるばる日本からここまで来たの。
日本人とお喋りしている暇はない。
アイアンはこの国の人間だ。
ポチ
ポチポチポチポチ
『アイアン、今日は楽しかったわ、ありがとう。
写真送ってくれる?
私と、あなたが鼻をカラフェで隠してる、ツーショット。』
それから私は、アイアンに頻繁に会うことになる。
続きます!
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