メイサと7人の外国人たち

アラサー元お水とキャラの濃い外国人達の冒険記

なぜかランチデートした話③

2019-05-24 00:00:36 | アイアン
「あっそうだ!メイサ、写真撮っていい?」



あまり食が進まないアイアンはそう聞いた。
私はモグモグする口を手で覆って、自分を指差した。



「わひゃひの?ややよ」

「俺たちのだよ!もちろん君のも撮りたいけどさ、ハハ!」

「んー、まぁ、いいけど」

「よし、こっち見てこっち見て!」



と言うとアイアンは自分のスマホを掲げたが、すぐに



「ちょっと待って!俺このデカイ鼻隠さなきゃ!待って待って。
あっこれでいいや!ジャン」



と、水の入ったカラフェを自分の顔の前に持って来た。
いやそれ、アンタちゃんと写らないんじゃないの!?と思わず笑ってしまった。
しかもカラフェって透明だからなんとなく見えるんじゃ……



「よし、これでオッケー!はい、笑って〜♡」



と言ってアイアンは写真を撮った。
私はどんな顔をしたら正解なのかわからず、ムスッと頬を膨らませてみた。
見ようによってはぶりっ子なアレだ。
アイアンは撮れた写真を見て、いいねいいねと何やらご機嫌だ。




混んでいないにもかかわらず、ランチが全部やってくるのには時間がかかった。
ボリュームが多すぎるのもさることながら、アイアンにとっては時間もかかりすぎだ。
一応この人は、仕事中なのだ。
ランチ休みにしては時間を使いすぎた。


この国は何もかもがいい加減で、のんびりしている。
特にレストランに行くと日本人はイライラすること間違いない。
私なら発狂しそうなくらい待たされても、アイアンはチラチラとカウンターを見ては
俺行かなきゃと苦笑するだけで、お会計を急かす事はなかった。
あぁ、これがこの国の常識なんだとシミジミした。


アイアンは、初デート(なのかあれは?)で朝っぱらから女をトイレに連れ込むような奴だ。
でも、彼は公共の場(笑)ではとてもこの国の人間らし〜い男で、
大変体裁を気にする。
トイレに連れ込んだ時でさえ、周りに知られないかだけは気にしていた。
アーーーーンド




「メイサ、そんなに怒らないでくれよ。周りの人が、俺たちが何か揉めてるって思うよ」



トイレ事件の日、彼はしつこくカフェに戻ろうと言った。
女は割とすぐモードチェンジ出来るけど、男はそうは行かないからだろう。
当然こちらはトイレで続きをする気は全くないので、
カフェの前で押し問答になったのだ。
私が「何でトイレになんか戻んなきゃなんないのよ!」とシャウトしたところで彼は↑こう言ったのだ。
つまり、腹が立っても怒鳴るなってことね。
アンタが悪いのに。
知らねーよ




……話はランチに戻ります(笑)


体裁を気にするアイアンがようやくお会計を済まし、
私は何か違和感を感じた。
この時はそれが何かわからなかった。



「いやー、思ったより時間かかっちゃったけど、
楽しかったよ!
今日は来てくれて本当にありがとうね」

「どういたしまして」

「ね、メイサ、ハグしてもいい?」




裏通りに差し掛かったところで、彼はそう聞いた。
私はしかめっ面をしてNOと答えた。




「なぁんで!いいじゃんいいじゃん」

「や、だ」

「ちょっとだけ、ちょっとだけ。ね♡」

「いやです」

「じゃぁキスしていい?」

「はぁ!?もっとダメだろ!」

「じゃ、ハグだけ」



と言って彼は私を抱きしめた。
んん〜〜〜と噛みしめるように唸るアイアンに対し、私は何なんだこれは…という顔をしていた。



「アンタ早く行かなきゃいけないんじゃないの」

「おっとそうそう!俺マジで急がなきゃ!」



と言って表通りに抜けると、アイアンはクルッと私に向き直った。



「じゃ、また会おう。一緒にコーヒーでも飲もうよ、ね。
また連絡するね」

「はいはい……」

「じゃぁね、メイサ。行く前にもう一回だけハグさせて!」




と言ってアイアンは私をギューっと抱きしめて持ち上げた。
ちょっと、と私が言うか否かのうちに、彼は



パシン



と、私のお尻を叩いた。




「ちょっとぉ!!(怒)」

「ハハハハハ!!じゃーねー!」




と言ってアイアンはサッサと帰っていった。



「な、何なのよアイツ……」



ゲンナリなのか
イライラなのか
グッタリなのか



私はとにかく、眉間にしわを寄せて彼の背中を見送った。
フン、と鼻息をついて、私も踵を返した。



ま、いいや。どうでも。




私はこの国に来てから思っていたことがあった。




私のように英語が達者でない女でも、こんな風に案外、口説かれる。
雅留やアイアンのように到底真面目には思えない男もいれば、
咲人や梓、他にもちらほらと、まともな恋愛関係を求める男もいた。


でも毎回思ったのは、彼らと私の今のニーズが合わないということだ。


彼らはベッタリと濃密に彼女と過ごしたい。
何なら毎日会いたいから一緒に暮らしたい。
対する私はそれどころではない。
キャリアアップやまだ見ぬ世界への経験に忙しい。
勿論恋愛は楽しいけど、とてもじゃないけど彼氏を一番に優先できない。


思い返せば、学生のころは私も彼らのようにベッタリしていた気がする。
働き始めてからも、一緒に朝を迎えたい気持ちはあった。
だから彼らの気持ちがわからないわけではないけど、
今の自分には合わないようで、
結局最後は「君は俺に真剣じゃない」と振られた。



というわけで結論。
私は日本に帰るまでは真面目に付き合う男はいらない。
それを踏まえた上でアイアンは、特に悪くなかった。←トイレ事件どうなった


彼は変だ。
少なくとも素敵じゃない。
でも、これっぽちも私に真剣に見えない割りに、
すごく私に執着していて、すごくまめ。
トイレ事件を除けば(除くんだ笑)、とにかく優しい。
レディファーストで、あたしがどんなにキツいことを言っても怒らない。
まともな仕事についている。
見た目がスーパータイプ。
そして、この国の人間だ。



ヒールのコツコツ音はちょっと目立つ。
早足に道を行くと人が振り返り、そして避ける。



この国でサバイバルするためには、この国のことを知らなきゃいけない。
この国の言語をマスターしなきゃいけない。
だって何のためにはるばる日本からここまで来たの。
日本人とお喋りしている暇はない。



アイアンはこの国の人間だ。




ポチ



ポチポチポチポチ




『アイアン、今日は楽しかったわ、ありがとう。
写真送ってくれる?
私と、あなたが鼻をカラフェで隠してる、ツーショット。』




それから私は、アイアンに頻繁に会うことになる。




続きます!












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