

言葉にすれば少しずつ色褪せていくような、ずっとこのまま胸の中に、密かに熱い感動を閉じ込めておきたいような、そんな気持ちにさせてくれた土曜のライブであった。ああ、今もまだあの音が、あの光景が、思い出そうとしなくても瞼の裏で勝手に蘇ってしまうのだ。
オープニングでのフィリップのソロ演奏「テイク・ファイブ」が始まった途端、私が挨拶で話した通りの、摩訶不思議な、宇宙を遊泳させてくれるようなフィリップの幻想の世界へと、全員が引きずり込まれてしまった。まだ歌が始まる前の初っ端だというのに、彼が弾き終わるや否や割れんばかりの拍手の嵐。その中を潜って、前座で2曲歌う事になっていた私は、心の中で、この空気をぶち破ることにかなりの抵抗を感じながらステージへと向かった。普通なら誰もが引き続き彼のソロを願うに違いないのだが、そこは地元キーラーゴに集まった、ほとんどが私の旧知のお客様たち。温かい拍手で私を迎えてくれた。
私が、腐れ縁のジャズボーカリスト・河村恭子ちゃんの為に初めて企画・プロデュースしたスペシャルなジャズライブ。私の日頃ご愛顧頂いているお客様に加え、毎日新聞を見て尼崎から来られたお二人やお店の常連さんで総勢38名、狭い店内は超満員。さあ、滑り出しは文句なし!
「I’ve Got You Under My Skin」「Quiet Night Of Quiet Stars」を私が歌ったあと、本命の恭子ちゃんにバトン・タッチ。彼女とはよく思い出してみると、「22歳の別れ」ならぬ「22歳の出逢い」。かれこれ○○年の付き合いだ。「もっともっと上手くなりたいよなぁ~!」「あんたはええやん、上手いやんかぁ!」などと、ずーーーーーっとお互い身内で褒め合い慰め合ってきた親友である。フィリップの音の世界に惚れ込み、彼とライブがやりたい!という彼女のささやかな願いが、三田でこれほど完成度の高いライブとして実現する事になるとは夢にも思っていなかった。(2人のライブは、三田以外では何度も行われているが。)
彼女の歌も、フィリップの世界に上手く絡み合い、溶け込んで、彼女の素晴らしい感性が余すところ無く滲み出ていたように思う。「Fly Me To The Moon」「赤とんぼ」「The Man I Love」等など、全部で10曲ほどを優しく、可愛く、エモーショナルに歌ってくれた彼女の、歌の成長振りには驚かされた。それを言うと「フィリップだからやねん。」まさしく言えてるかも。私もこの10年ほどはシャンソンに傾倒して、ほとんどジャズを歌っておらず、かなり緊張するかと思って不安ではあったが、彼の伴奏は「何も怖がらずに、さあ、僕の腕の中でリラックスして、自由にお喋りしてごらん。」と言わんばかりに、イントロが始まったとたんにすっぽりと温かい磁場に包まれてしまったのだった。
「みどりちゃん、ほんまに有難うな。あんたのお客さんはみんな温かいなぁ~。」
やって良かった。いつか、郷の音ホールでのコンサートを企画してみたくなる。私もプロデュースの面白さを少し感じてしまった。歌ってくれた彼女の感動と、聴きにきてくれたお客様の感動と、厨房から慌てて飛び出してきて、「あのピアニスト、何者やねん!?凄過ぎるわ!みどりちゃん、ギャラ大丈夫なんか!?」と私の耳元でささやいたマスターの感動、みんな合わさって、私に最高の感動を与えてくれた。
全ての事に感謝!