徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:有川浩著、『植物図鑑』(幻冬舎文庫)

2016年05月20日 | 書評ー小説:作者ア行

有川浩作品をまとめ買いしたのが、昨日届いたので、早速手に取ったのがこの『植物図鑑』。作者の野草料理実体験に基づいて書かれているとか。登場する植物の写真と野草料理のレシピ付きで勉強になります。

主人公さやかが酔っぱらって帰宅したとき、マンションの前で行き倒れていたイケメンを拾うことから始まる不思議な同居生活。「よかったら俺を拾ってくれませんか。咬みません。躾のできたよい子です」という彼、樹(イツキ)を部屋に上げ、カップラーメンと風呂と寝る場を提供。樹の方は一宿一飯の恩を返そうとしたのか、冷蔵庫にあったなけなしの材料で朝食を作り、さやかの心をガッツリつかんでしまった(私の心もガッツリつかめるなー)。このスーパー家政婦を逃がすまじと、さやかは樹を引き留め、同居契約を結ぶことに。樹は実は重度の植物オタクで、春になると週末ごとにご近所でフキやらノビルやらセイヨウカラシナやら、「雑草」と十把一絡げに無視されそうな野草を摘みに行く「狩り」が二人の定番に。狩りの後は樹が野草料理の腕を振るって、二人で美味しく頂く、という実に楽しそうな同居生活が淡々と描かれています。男女の同居生活なのに、性的なムードが一切なし。まじで樹は「草食男子」だなどと妙に感心していた前半。

さやかの方は樹にどんどん惹かれているのに、樹がどう思っているのかかなり謎だったのですが、あることをきっかけにさやかが自分の気持ちをぶちまけてしまい、そこで初めて樹もさやかが好きで、ずっと理性で生殺し状態を我慢していたことを白状します。そこから単なる同居人から甘い恋人に進化するのだけど、樹という人間は謎のまま。分かっているのは名前と写真を撮るのが好きなことと植物に詳しいことくらい。この謎の男は資源ごみの日に突然部屋を同居前の状態に戻して行方をくらまします。「ごめん、またいつか」という書置きと野草料理のレシピを残して。さやかは残されたレシピを頼りに何とか心のバランスを取りながら一人で野草摘みに出かけ、一人で料理して、彼との思い出をたどらずにはいられない、その一途さはきゅんと来ます。彼女は帰ってくるか分からない樹を待つともなく待つ切ない日々を送ります。

私はひょっとしてこの謎の男は永遠に帰ってこないのではないかとちょっとひやひやしていたのですが、有川浩のラブストーリーに限ってそんなことはあるはずないのでした。ハッピーエンドで安心しましたよ。そして、こんなに美味しいイケメンが落ちてたら、私も拾うなーと思ったのでした。

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