バルカンルートが封鎖されてから早5か月。新ルートはトルコ→クレタ→イタリア、あるいはリビア沿岸から直接イタリア・ランペドゥーザへ向かうルートで、ボートでの航海距離が長いため、エーゲ海を渡るだけだったバルカンルートよりもずっと危険性が高くなっています。国連の統計によれば、今年すでに20万人以上が地中海ルートでEUに渡ってきましたが、地中海での溺死者は2443人。地中海沿岸のアフリカ諸国にはさらに数十万人の移民希望者がヨーロッパ渡航を待っているようです。
殆ど使われていないルートはトルコからブルガリアに入るルートです。ブルガリア側では市民防衛団のようなものが結成され、トルコ国境に繋がる森林地帯をパトロールし、難民を確保したら、トルコに送り返す、ということをしているようです。これを受けてブルガリア政府は市民団が暴走したりしないように、警察を派遣して協力体制を整えるようにするらしいです。
欧州委員会は、これ以上の地中海渡航者を防ぐため、及び既にヨーロッパ入りした難民たちの祖国送還を円滑にするため、EU・トルコ難民協定を例に、アフリカ諸国及びシリア周辺国とも協定を締結することを審議しています。欧州委員会の素案に挙げられている国はヨルダン、レバノン、チュニジア、ナイジェリア、セネガル、マリ、ニジェール、エチオピア、リビアです。素案によれば、難民の渡航を止めずに放置している国には経済的制裁、密航業者の取り締まりなどによって危険な渡航を防止することに協力的で、ヨーロッパから難民認定されなかった自国人を引き取る国には経済的援助(ODAや貿易関係での優遇措置)を与えるという「飴とムチ」の政策が協定の骨格のようです。
ドイツは既に単独で、モロッコ、チュニジア、アルジェリアと難民引き取り協定を結んでいます。それをEUレベルで実施するもの、と考えて良さそうですが、国によっては賄賂の蔓延る政権・行政機関に支援することになってしまうため、経済難民が発生する根本的原因を取り除くことにはならない可能性が高いです。欧州委員会は、このような移民・難民パートナーシップに2020年までにおよそ80億ユーロの予算を見積もっています。今秋に投資計画を発表する予定です。移民・内務総局局長ドミトリス・アヴラモプロスは、関係諸国が全て企画に乗れば、最終的に総額620億ユーロに及ぶ投資になる、と楽観視しています。その通りになるかどうかはふたを開けて見ないことには分かりません。欧州議会のキリスト教民主党議員団長のマンフレット・ヴェーバーは、EU各国がとっくに合意されたアフリカ緊急援助基金に殆どお金を払い込んでいないことを嘆いています。この基金はアフリカ諸国の難民かの原因である貧困問題に対処するために設立されました。既にあるものも入金不足で機能していないのに、更なる投資プログラムが果たしてうまくいくのか甚だ疑問です。
参照記事:
ZDFホイテ、2016.06.07、「飴とムチの難民政策」
ディー・プレッセ、2016.06.03、「クレタ島、リビア沿岸部の難民惨事、死者多数」