『死のドレスを花婿に』は毛色が変わっています。
”悪夢に苦しめられるのが怖いから、眠らない。何でも忘れてしまうから、行動を逐一メモにとる。それでも眠ってしまうと、死者たちが訪れる。ソフィーの人生は、死と血、涙ばかりだ。でも、ほんの一年前まで、彼女は有能なキャリアウーマンだった。破滅への道は、ちょっとしたことから始った。そしていつしか、ソフィーのまわりに死体が転がりはじめたのだった。”
物語は4部あり、「ソフィー」、「フランツ」、「フランツとソフィー」、「ソフィーとフランツ」となっています。
まずは何やら不穏なプロローグで、床にぺったり座って、背中を壁にあてたまま少年レオ(6)の死に呆然とし、泣き喘ぐソフィーというシーンが提示されます。前後関係が全く不明なので、「なんだろう?強盗にでも??」と読者に興味を持たせて本筋に入っていきます。第1部ソフィーの章は商品紹介にある内容を交えつつ、レオの死後という現在の彼女の行動を追っていくのですが、レオの死も彼女が彼を殺すシーンはもちろんなく、結果だけがそこにあり、ソフィーはそれを記憶の飛んでいる間に自分がやったに違いないと思って逃走を始めます。その同じ日にリヨン駅で偶然知り合った女性に招かれ、ごはんをごちそうになった後に、ソフィーはめまいを起こし、倒れてしまうのですが、彼女が目が覚めると、なぜか包丁を持っており、横にはソフィーを招いた女性が倒れているという事態。はっきり言って、第一部は色んな事が起こり、何人か死人が出るのですが、どれも謎めいていて、「何がどうなっているのかさっぱり分からない」感じです。ソフィーとやらは気狂いで殺人鬼??
そしてその謎の大半は第2部のフランツの章で解き明かされ、呆気にとられます。いかに他人を狂気に陥れるかという妄執的な努力がそこに集約されています。読んでいるだけでぞっとするような執念がそこに!読むのを断念したくなるほど気持ちが悪い!
ソフィーは逃亡生活に終止符を打つため、偽の出生証明書を手に入れ、マリアンヌ・ルブランとしてそのフランツと結婚するのですが、その結婚生活は第3部で描かれ、第4部で逆転劇。でも主人公のソフィーは二度とソフィーとしての生活には戻れないのだけど、そのままで果たしていつまで続けられるのやらと疑問も残ります。
ヴェルーヴェン警部シリーズの3作もそれぞれ特徴がありましたが、そのどれとも共通しないのがこのサイコサスペンスです。まあ「死人がたくさん出る」という点では共通しているにはしてますが、それは大抵のミステリーの特徴でもあるので…
この作品は、ソフィーとフランツの二人に焦点を当て、クローズアップしているので、この二人の思考や心理描写や行動は微に入り細にわたるわけなのですが、その他の登場人物は2次元的背景に埋没していると言ってもいいほどぼやけてしまっています。それでも物語には支障は出てきませんが、もうちょっとソフィーの親友ヴァレリーやソフィーの父パトリックを書き込んでもよかったのではないかと思えます。
全体的な評価は「中の上」くらいでしょうか。好みの問題だと思いますが、私は『その女アレックス』や『悲しみのイレーヌ』の方が面白かったと思います。