徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:木村草太著、『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書)

2016年11月26日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

商品紹介に

「高度な内容を分かりやすく」を信条とする若手憲法学者による、日本一敷居の低い法学入門。法学について物語の手法を用いて生き生きと、そして面白く語る。

とある、木村草太著の『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書)。私が買ったのは2016年3月22日 第7刷。

物語は、図書館に通うような真面目な高校2年生の北村君が偶然、近所の大学で教鞭をとるキヨミズ准教授に出会い、彼から法学のあれこれを聞く、という形をとっています。キヨミズ准教授は法哲学が専門で、毎年「法学入門2」という講義に学生が誰も来ないことを悩んでいます(笑) 彼の同僚である渡部准教授は、少々変わったキヨミズ准教授によく使い走りにされており、いつも不機嫌な顔をしているがいい人という設定で、専門は知的財産法。

途中から北村君の同級生も登場して、一緒に文化祭で発生した問題を考えたり、夏休みにUFO・火の玉の調査をしながら法解釈について話を聞いたりするわけなんですが、「面白おかしく」という趣旨は分かるけど、設定に無理があるのが難点と言えば難点です。そういう意味で、「本当の物語」としては今一なのですが、法学入門としては実に分かりやすく楽しめる本です。この物語で登場する高校2年生くらいの学力は必要かと思いますが。

対話形式なので、キヨミズ准教授の説明にいい感じに北村君の質問や、渡部准教授の合いの手というか補足説明が入ったりして、内容がスムーズに頭に入りやすいですし、更に准教授がなぜかいつも持ち歩いているパネルのまとめが視覚的に理解を助けます。章の終わりには「キタムラノート」なるものがあり、北村君視点でのまとめが書かれています。

そのキタムラノートの表題だけを書きだすと、以下のようになります:

  1. 法的思考とは何か?
  2. 社会科学とはどんな学問か?(政治学、経済学、社会学、法学)
  3. 日本法の体系
  4. 法解釈とは何か?
  5. 法解釈の学び方
  6. 法と法学の歴史

そして最後の章は二人の大学准教授からの文献紹介となっています。そっけない参考文献のような羅列ではなく、手紙という形式をとり、それぞれがどういう本なのか簡単な説明が入っているので、つい読みたくなってしまう感じです。

第2章の社会科学に関する説明は実に秀逸だと思います。以下はキタムラノート2の内容:

政治学:集合的決定(政治)になぜ人は従うのか?→いつも人を「従わせる」メカニズムのことばかり考えている

経済学:交換を研究する学→何かあると必ず「その反対に何が差し出されているか」を考える

社会学:人はなぜモノゴトをそう見てしまうのか?→いつも「そもそもその見方で良いのか」とそもそも論ばかり

法学:あるべき一般規範の追求→公平を理由にしたモノグサさんも多い

重要!:社会の見方は一つではない!
社会の見方を一つに決め込んだダメ社会科学者にならない! 

もちろんこれらは学術的な自己定義ではありませんが、「門外漢が聞いてもさっぱり分からない定義など足蹴にしてよい」と言わんばかりの本質を突く簡単定義です。そして、「ダメな社会科学者」の例まで出しているところが面白くもあり、またそれぞれの学問の定義に対する理解を深める助けになっていると思います。

第3章の日本の法体系といわゆる「六法」の位置づけもいい復習になりました。私はドイツの大学で経営学を専攻してましたので、その枠内で「経済学者のための法律」1、2、3とドイツの法律、主に基本法(Grundgesetz = GG)、民法(Bürgerliches Gesetzbuch = BGB)、商法(Handelsgesetzbuch = HGB)を学びましたので、ドイツ法の体系はそれなりに記憶に残ってます。明治政府は日本を近代的法治国家にするためにドイツから法体系を輸入しましたので、現在でも体系的な類似性は高いのだな、と納得できた次第です。

第4-6章も、私にとっては復習みたいなものでしたが、大学でさんざんやらされた事例の法的鑑定(事実確認、法律的な「事実」の特定、適用可能な条項に事例を当てはめ、法的な結論(例えば損害賠償の権利の有無など)を出すこと)がそもそも何だったのか改めて理解できた側面もあります。「木を見て森を見ず」のいい例ですね ( ´∀` )

というわけで、『キヨミズ准教授の法学入門』は楽しく読ませていただきました。おススメです。


ドイツ:世論調査(2016年11月25日)~首相候補は誰?

2016年11月26日 | 社会

本日11月25日に発表されたZDFの世論調査「ポリートバロメーター」を以下に私見を交えつつご紹介します。

次期首相候補

アンゲラ・メルケルが再度首相候補になることをどう思いますか?:

全体:

いい 64%
悪い 33% 

CDU/CSU支持者:

いい 89%
悪い 10% 

メルケル首相は、次期もCDU党総裁及び首相に立候補するか大分迷ったようですが、この世界の混乱期にほぼただ一人の安定的政治家として逃げられないと考えたらしく、決意を固めたようです。他にこれといった候補が党内に居なかったので、彼女が決意を表明した時、党内では随分とほっとした空気だったようです。党内支持率89%は、SPD党首ガブリエルなどとはくらべものにならないくらい高いです。

 

SPDからの首相候補は誰がなるべきだと思いますか?:

全体:

ガブリエル 29%
シュルツ(欧州議会議長)51%
分からない 20%

SPD支持者:

ガブリエル 27%
シュルツ 64%
分からない 9% 

現欧州議会議長のマルチン・シュルツがドイツ国内政治に復帰すると表明したため、彼がSPD首相候補になる可能性がにわかに出てきました。SPDは候補者を決定するのは来年1月を予定しています。それまでは色々憶測が飛び交いそうです。

現在SPD首相候補として名前が挙がっている二人をメルケルと対比させると以下のようになります。

どちらの方が首相として好ましいですか?:

メルケル対ガブリエル

メルケル 63%
ガブリエル 25%
分からない 12%

メルケル対シュルツ

メルケル 47%
シュルツ 39%
分からない 14% 

SPD首相候補はシュルツがなった方が、メルケルに対抗するにはチャンスが多そうです。

 

次は大統領候補です。先日連立与党共通の候補者として、現外相のフランク・ワルター・シュタインマイヤーが出馬することになりました。

シュタインマイヤーが大統領になるのをどう思いますか?:

いい 77%
悪い 14%
分からない 9% 

ドイツ人の圧倒的多数がシュタインマイヤーが次期大統領になることを歓迎しています。彼は時々演説に熱が入ると、文章が破綻してしまうことがありますが、それを除けば概ね理性的で、クリーンなイメージの政治家なので、党派を超えて受け入れやすいのでしょう。

 

連邦議会選挙2017

もし次の日曜日が議会選挙ならどの政党を選びますか?:

CDU/CSU(キリスト教民主同盟・キリスト教社会主義同盟) 36%(+2)
SPD(ドイツ社会民主党)  21% (-1)
Linke(左翼政党) 10%(変化なし)
Grüne(緑の党) 11%(-2)
FDP (自由民主党) 5%(変化なし)
AfD(ドイツのための選択肢) 13%(+1) 
その他 4% (変化なし)

 

1998年10月以降の連邦議会選挙での投票先推移:


政権満足度(スケールは+5から-5まで):1.1(前回比+0.2)


2004年以降の選挙に行くか分からないあるいは行くつもりがない人の割合:

投票しない 6%
分からない 18% 


政党の能力

難民政策:

CDU 39%
SPD 14%
左翼政党 5%
緑の党 8%
FDP 1%
AfD 7%

年金政策:

CDU 26%
SPD 19%
左翼政党 6%
緑の党 2%
FDP 2%
AfD 1% 

 

社会的公平:

CDU 22%
SPD 29%
左翼政党 16%
緑の党 7%
FDP 2%
AfD 1%

経済政策:

CDU 47%
SPD 13%
左翼政党 2%
緑の党 2%
FDP 3%
AfD 0%

 

税制政策:

CDU 30%
SPD 21%
左翼政党 8%
緑の党 3%
FDP 5%
AfD 1%

犯罪検査:

CDU 45%
SPD 8%
左翼政党 2%
緑の党 1%
FDP 1%
AfD 5%


政治家評価

政治家重要度ランキング(スケールは+5から-5まで):

  1. フランク・ヴァルター・シュタインマイアー(外相)、2.5(+0.2)
  2. ヴィルフリート・クレッチュマン(バーデン・ヴュルッテンベルク州首相、緑の党)、2.0(+0.1)
  3. アンゲラ・メルケル(首相)、1.8(+0.2)
  4. ヴォルフガング・ショイブレ(内相)、1.7(→)
  5. トーマス・ドメジエール(内相)、1.1(+0.4)
  6. ケム・エツデミール(緑の党党首)、0.9(→)
  7. ジーグマー・ガブリエル(経済・エネルギー相)、0.7(+0.2)
  8. ホルスト・ゼーホーファー(CSU党首・バイエルン州首相)、0.6(+0.3)
  9. ウルズラ・フォン・デア・ライエン(防衛相)、0.6(→)
  10. サラ・ヴァーゲンクネヒト(左翼政党議員)、-0.1

 

老後の備え

金銭的な老後のための備えは充分にありますか?:

充分 7%
ほどほど 46%
足りない 32%
全然ない 14% 

 

支持政党別老後の備えが足りないと思う人の割合:

CDU/CSU 33%
SPD 40%
左翼政党 62%
緑の党 53%
FDP 30%
AfD 61% 

老後の備えが足りないと思う人の割合は左翼政党及びAfDで際立って高くなっています。やはり経済的に「置いてけぼりにされている」と感じる人たち(主に旧東独)がこの2政党に分化しているのでしょうか。

年齢別老後の備えが充分にあると思う人の割合:

18-29歳 22%
30-39歳 40%
40-49歳 50%
50-59歳 48%
60-69歳 64%
70歳以上 83% 

 

社会的公平

ドイツは社会的公平がどちらかと言えば保障されていると思いますか?:

非常に公平 2%
公平 43%
不公平 43%
非常に不公平 11% 

統計的には貧富の格差がどんどん開いてきているので、ドイツはデータ上では少なくとも「不公平」な社会なのですが、「公平」だと思っている人が半数近くもいるのは不思議です。「他の国と比べてドイツはまし」と思っている人たちが多いのかも知れません。

 

過去数年でドイツ社会の結束は?:

減少した 75%
変わらない 18%
強化された 5% 

これは、地域社会の崩壊に伴う人々の孤立化が進んでいると見ることができるでしょう。特に移民の多い地域では、共同体共通の行事も少なくなり、未知の異文化が幅を利かせているという疎外感を感じ出している人も多いかもしれません。

 

難民政策・トルコ

メルケル首相の難民政策をどう思いますか?:

いい 50%
悪い 45% 

難民政策に関してはまさに賛否両論が拮抗しているようです。

 

ドイツはたくさんの難民を受け入れることができると思いますか?:

はい 57%
いいえ 40% 

まあ、去年の秋のように毎日数千人の難民が絶え間なくドイツに入ってくるというのでなければ、どうにかなるという意見の方が多くなるのは必然的なことでしょう。

 

トルコのEU加盟交渉は継続すべき?:

中断すべき 56% (二週間前:45%)
様子見すべき 35% (46%)
継続すべき 8%  (7%)

二週間前に比べて、「中断すべき」という人がかなり増えています。昨日(11月24日)、欧州議会はトルコのEU加盟交渉の一時凍結を決議しました。理由はもちろん、クーデター未遂以降のエルドアン大統領による反政府的勢力にくみすると思われている軍人、公務員などの罷免や解雇、親クルド政党HDP幹部の逮捕、政府に批判的なジャーナリストや学者の逮捕など、EU加盟に必須とされる民主主義的価値観からかけ離れた政治にあります。この決議は拘束力がないのですが、エルドアン大統領はこれを不当な内政干渉と思っているらしく、今日のイスタンブールでの演説で、EUがトルコに対してこれ以上批判をするなら、難民協定を破棄し、ヨーロッパへの国境を開放する、という脅しをかけました。エルドアンはロシアのプーチン大統領とも最近接近しており、地政学的にもかなりヨーロッパを揺るがせています。トルコを何が何でもヨーロッパの敵にすまいと、ヨーロッパがトルコの要求を呑んで、人権侵害を黙認するようなことになるのではないかと私は非常に危惧しています。

 

この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン」によって実施されました。インタビューは無作為に選ばれた1258名の選挙権保有者に対して2016年11月22日から24日までの間に電話で行われました。世論調査はドイツ選挙民のサンプリングです。誤差幅は、40%の割合値において±約3%ポイント、10%の割合値においては±約2%ポイントあります。世論調査方法に関する詳細情報は www.forschungsgruppe.de で閲覧できます。

次のポリートバロメーターは2016年12月9日に発表されます。

 

参照記事:

ZDF heute, 25. November 2016, "Politbarometer"
Zeit Online, 25. November 2016, "Türkei: Erdoğan droht mit Grenzöffnung für Flüchtlinge"