徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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トルコ人、次々ドイツで亡命申請

2016年11月18日 | 社会

エルドアン・トルコでは7月半ばのクーデター未遂以来、対立勢力粛清の嵐で、軍・行政・司法・安全当局などの機関ではすでに11万人以上が解雇あるいは免職になっており、ジャーナリストも次々逮捕され、本日11月18日(金)はYildiz大学の学者が103人逮捕されました。

トルコ政府は今年、クルド人過激派PKKに対する攻撃を強化したため、今年夏までのトルコ出身者による亡命申請は主にクルド人でしたが、クーデター未遂以降は外交官や在独NATO軍人などトルコ人の亡命申請が増えています。

トルコ出身の亡命申請者数は以下のように推移しています:

2014年:1,806人
2015年:1,767人 
2016年:4,487人(10月現在)

外交官で10月に亡命申請したのは、内務省の発表によれば35人とのことで、その家族も一緒のため「35人」は最終的な数字ではないとのことです。

ドイツ・プファルツ州ラムシュタインに駐屯中のNATO航空中央軍から11月半ばに数人のトルコ人が亡命申請しました。駐屯軍は全部で約500人ほどで、うちトルコ人は30人とのことですが、正確に何人が亡命申請したのかは明らかにされていません。

11月8日、外務省国務大臣のミヒャエル・ロートは、「政府に批判的なトルコ人は、ドイツ政府が彼らを連帯的に支援するということを知るべきだ。」「ドイツは原則的にすべての政治的迫害を受けているものに対して開かれている。」「彼らはドイツで政治亡命を申請することができる。それはジャーナリストだけに限られていない」と独紙ヴェルトに語りました。これを受けて、今後もトルコ人の亡命申請が増加するものと思われます。

政治的迫害を受けている人たちのためにドイツの法律では二つの方法があります。政治的迫害による亡命はドイツ基本法第16a条に規定されています。この条項の歴史的背景については拙ブログ「ドイツの難民受け入れ」を参照してください。この条項に基づく政治亡命認定率は近年かなり低いレベルで推移していました。連邦移住・難民局によれば、2015年度に基本法第16a条に基づいて庇護権を取得したのはおよそ2000人でした。

二つ目の方法は、ジュネーブ条約に基づく難民保護で、亡命手続き法第3条にその規定があります。2015年度、この条項に基づいて難民庇護権を取得したのは195,551人(140.915件)でした。詳しい統計は拙ブログ「ドイツ:2015年度難民申請&認定数統計」を参照してください。

 

移民・難民排斥運動の高まりを受けて、ドイツ政府は祖国送還・国外退去措置の実施の強化を決定し、実際に実践し、成果を挙げているようで、今年は2003年以来の送還数を記録することになるようです。

2015年の国外退去実施数は20,888人でしたが、今年は9月までの時点ですでに19,914人になっており、年末までに26,500人になる見込みです。送還処分になった人の4分の3はバルカン(アルバニア、コソボ、セルビア、マケドニア、ボスニアヘルツェゴビナ、モンテネグロ)出身者で、14,529人でした。やはりこれらの国の情勢が安定していることと、受け入れ態勢がある程度整っていることが原因でしょう。

一番問題となっている北アフリカ出身の難民認定拒否された人たちは、パスポートなどの身分を証明する書類を持っていないことが多く(ドイツ入国前に故意に破棄したと目されています)、そのせいで出身国側が受け入れを承知しない事態が発生し、仕方なく滞在が容認されている状態です。その問題に関しては、今年いわゆるマグレブ諸国であるチュニジア、モロッコ、アルジェリアと再受け入れ協定が締結されたのですが、実務レベルでの問題が多く、例えばノルトライン・ヴェストファーレン州では1300人が送還予定されているところを6月時点でたったの20人の送還が実施されたくらい、遅々として進まないのが現状です。このグループは犯罪率が非常に高いため、ドイツにとっては最も国外退去してほしい人たちなのですが、そもそも受け入れ側のマグレブ諸国が「安全」なのかという疑問もあり、人道的に難しい問題となっています。彼らは「滞在容認」されているだけなので、労働許可が下りず、また社会統合のためのセミナーやコースが提供されることもないため、必然的に不法労働、麻薬取引、窃盗、強盗などの犯罪に走るようになりますし、既に犯罪組織がドイツ国内に形成されているため、新しく入国して滞在容認されたマグレブ諸国出身者たちは、生きていくためにその組織に引き込まれざるを得ない状況です。防犯の観点から言えば、彼らの滞在を合法化し、労働許可を与えて、社会統合のための訓練を受けさせることが最善なのですが、そうすると正規に難民認定された人たちと変わらない扱いになってしまい、一体何のための難民申請手続きだったのか、ということになってしまうので、行政はそのジレンマと真摯に向き合うことなく、せいぜい対症療法のような表面的な措置を取るに過ぎません。ただ「出ていけ」というのでは問題解決になりません。協定を結んでも実際にはそれらの国は出て行った国民の再受け入れに協力的ではないし、だからと言って関係のない第三国に彼らを押し付けるわけにはいかないからです。

難民問題は非常に複雑な問題であり、大衆受けするような簡単な解決策など不可能なのだ、ということを私たちは理解しなければならないと思います。

 

参照記事:

Süddeutsche Zeitung Online, 24. Oktober 2016, 15:08, "Viele türkische Diplomaten beantragen Asyl in Deutschland"
Die Welt, 08. November 2016, "Bundesregierung bietet verfolgten Türken Asyl an"
Süddeutsche Zeitung Online, 17. November 2016, 10:56, "Türkische Soldaten beantragen in Deutschland Asyl"
Zeit Online, 16. November 2016, 19:08, "Türkische Soldaten suchen Asyl in Deutschland"
Süddeutsche Zeitung Online, 18. November 2016, 07:28, "Immer mehr Türken suchen in Deutschland Asyl"

Rheinische Post Online, 10. Juni 2016, 06.35, "Mängel bei Rücknahme-Abkommen: Abschiebung nach Nordafrika nur auf dem Papier"


ドイツ:2015年度難民申請&認定数統計

ドイツ:難民の犯罪、右翼の犯罪

大晦日夜、ケルン中央駅における女性襲撃多発。性犯罪に関する刑法改正及び難民法の厳格化が議論に

ドイツの難民排斥運動

ドイツの難民受け入れ


書評:奥田英朗著、『ヴァラエティ』(講談社)

2016年11月18日 | 書評ー小説:作者ア行

奥田英朗著、『ヴァラエティ』(講談社)はシリーズ化せずに浮いてしまっている短編を集めたものだそうです。

収録作品:

  1. おれは社長だ!(「小説現代」 2007年12月号)
  2. 毎度おおきに (「小説現代」 2008年12月号)
  3. <対談>奥田英朗xイッセー尾形 「笑いの達人」楽屋ばなし(「オール讀物」 2006年8月号)
  4. ドライブ・イン・サマー(『男たちの長い旅』アンソロジー/2006年/徳間文庫所収)
  5. <ショートショート>クロアチアvs日本(「読売新聞」 2006年8月12日夕刊)
  6. 住み込み可(「野生時代」 2012年3月号)
  7. <対談>奥田英朗x山田太一 術の手人が〈人生の主役〉になれるわけではない(「文芸ポスト」Vol.26)
  8. セブンティーン(『聖なる夜に君は』アンソロジー/2009年/角川文庫所収)
  9. 夏のアルバム(『あの日、君と Boys』アンソロジー/2012年/集英社文庫所収)

このうち、1と2はシリーズになり損なった大手広告代理店から独立した40男の話で、二作目の「毎度おおきに」でどちらかというと中小企業経営に疎い主人公が取引先の大阪出身の社長に色々と教わることになるユーモアに富んだ作品だと思いました。「プライド捨てまひょ」がスローガンですかね。最後には東京出身の主人公まで商売・金勘定のことになると大阪弁が出てしまうようになるほど影響力(というか破壊力?)を発揮した難波商人(あきんど)がシビアにけれどユーモアもたっぷりに描かれています。

二つの対談は、私にとってはさほど面白いくはなかったのですが、奥田英朗という人となりを知るきっかけにはなりました。私は彼のユーモア小説『空中ブランコ』から入りましたが、この伊良部シリーズ以外の作品はカラーが全然違うので「おや?」と不思議に思ってたのですが、それが対談を読んで納得がいきました。

「ドライブ・イン・サマー」は夫婦で東京から神戸に車で向かう途中、奥さんがお人好しでヒッチハイカーを拾ってしまうところからどんどん雲行きが怪しくなり、旦那さんはまるで坂を転げ落ちるように不運に見舞われるような感じです。最後のオチはもう「ご愁傷さま」としか言いようがありません。

「クロアチアvs日本」はドイツで開催されたサッカーのワールドカップでの両国対戦をクロアチア人の男の立場から描いたようで、観戦中のクロアチア人男性の独白形式になっています。全然感情移入も何もできないまま、あっという間に終わってしまいました。ちょっと無理やり50m走をやらされたような気分。

「住み込み可」では訳ありで流れてきて熱海の食堂で働く住み込み店員の女(たち)の話。女たちのやりとりが非常にリアリティーがあり、生き生きと描かれているように思います。仲居頭を務めるお小言おばさんのキャラが立ってて、「あるある」と思ってしまう説得力があります。借金とDV夫から息子を連れて逃げてきた女性の不安やちょっとした好奇心などもよく描写されていました。

「セブンティーン」は17歳の娘がクリスマスイブに外泊するということに悩む母親のお話。「友達のところに泊る」というのが明らかな嘘で、娘がその日に彼氏と過ごし、初体験するであろうことが分かってしまって、許すべきかどうか苦悩する母。どういうことを考え、どう結論を出すのか、興味深い思考の課程を垣間見ることができます。

「夏のアルバム」はアンソロジーの主題にあるようにBoys、少年たちが主人公です。小学生の男の子が補助輪を外して自転車に乗れるようになることを目標に頑張るのがメインで、その母親が入院中の伯母を見舞い、その子どもたちの世話をするのがサブ。大人の言うことを小学生の男子視点で書かれているのが結構新鮮でした。

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