ドイツというと残業も余りせずに長期休暇を取ることで日本でも随分知られていると思いますが、今日はそのイメージとは反対のデータが報じられていました。左翼政党の質問に対してドイツ連邦健康省が回答したもので、それによると、過労・疲労による病欠日数が2012年の1997万日から2016年の3053万日に上昇したとのことです。2017年の集計はまだ出ていないそうです。診断は一貫していないそうですが、一般に「バーンアウト症候群」と呼ばれる慢性的なストレスによる様々な身体的・精神的な症状で病欠した人たちの統計です。
左翼政党の労働問題担当スポークスマン、ユッタ・クレルマン(Jutta Krellmann)は、労働者を消耗品のように扱っていると雇用者及び政府を非難し、「アンチストレス法」の制定を要求しました。
労働省の統計によると仕事を掛け持ちするケースも増えており、2004年には186万人が複数の雇用主を持っていたのが、2016年には313万人に、2017年には326万人になったそうです。これは一つの雇用先からの収入では生活できないことを意味し、最低賃金の導入では不十分であることの表れと見られています。
仕事の掛け持ちはもちろん、合理化のしわ寄せとして一人一人の仕事の密度が上がったことや、人手不足、常時連絡が取れる状態であることなど、緊張状態の続く時間に対してリラックスする時間が少ないことや、介護や育児・家事などの家庭での負担などが原因として挙げられています。「家庭での負担」を裏付けることになるかどうかは分かりませんが、3053万日の病欠日のうち2006万日は女性のもので、男性の約2倍になっていることは注目に値します。
こうして見ると、長期休暇が取れて、リラックスできるのは仕事を掛け持ちする必要がなく、そこそこの賃金をもらっていて、さほど人手不足でない業界で働く労働者たちに許された特権と言えるでしょう。
ニュースになったのはバーンアウトによる病欠日の増加だけでしたが、病欠日全体も急増しています。下のグラフはドイツ連邦統計局による法定健康保険組合の被保険者の1991~2018年の病欠統計で、病欠日の労働日数に占める割合をパーセンテージで示しています。
確かに2012~2018年という短期のタイムスパンで見ると「急増」と言えますが、1990年代前半のレベルには達していません。また、2018年の数値が高くなっているのは年初めに例年以上に流行したインフルエンザのためです。
こうなると、1990年代の過労による病欠日がどのくらいだったか知りたいですね。もしかすると2016年のレベル以上だった可能性もあります。簡単にデータが入手できないのが残念ですが。
因みにドイツには法定健康保険組合の他に民間の健康保険がありますが、人口約8200万人のうち7270万人(2017年末現在)が法定の健康保険に入ってますので、このデータがドイツ全体の傾向であることはまず間違いありません。
ただ、日本のように過労死や自殺ではなく、バーンアウトで【病欠】するところがドイツらしいと言えるかもしれません。ドイツ人は日本人ほど我慢しませんから(笑)
参照記事:
Frankfurter Allgemeine, 5. Mai 2018, "Immer mehr Krankheitstage wegen Überlastung(過労による病欠日ますます増加)"
ZDF heute (Video), 5. Mai 2018, "Zunehmende Überlastung am Arbeitsplatz(増える職場での過労)"
Spiegel, 5. Mai 2018, "Stress im Job: Deutlich mehr Krankschreibungen wegen Überlastung(仕事のストレス:過労による病欠大幅増加)"
Deutsche Welle, 5. Mai 2018, "BURNOUT AM ARBEITSPLATZ: Wenn Arbeit krank macht(職場でのバーンアウト:仕事が病気の原因になる場合)"
De.Statista, "Durchschnittlicher Krankenstand in der gesetzlichen Krankenversicherung (GKV) in den Jahren 1991 bis 2018"