徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:今野敏著、『ボディーガード工藤兵悟』全4巻(ハルキ文庫)

2022年11月05日 | 書評ー小説:作者カ行


1993年~1995年にかけて書かれた『ボディーガード工藤兵悟』シリーズは『ナイトランナー』『チェイス・ゲーム』『バトル・ダーク』の3編で完結していたのですが、17年後の2012年に復活し、第4巻『デッド・エンド』が加わりました。

商品説明
世界の戦場で戦ってきた工藤兵悟は、その優れた格闘術と傭兵経験を活かしてボディーガードを生業としている。ある日、工藤の元に、水木亜希子と名乗る女が現れた。かつての仲間の紹介で、依頼を持ちかけられた工藤だったが、直後彼女を狙う男たちに襲撃されてしまう。依頼は、謎に包まれた機密文書と彼女自身を死守すること--期限は3日間。だが、彼女を追ってきた敵は、世界最大の諜報機関CIAだったのだ。警察とCIAを敵に回し、工藤は彼女を守り抜くことはできるのか。傑作冒険サスペンス。

商品説明の通りハードボイルドで、著者の格闘家としての知識・体験が存分に生かされたシリーズと言えます。「傑作」と言えるかどうか迷いがありますが、読者をけん引していく筆力は確かで、時間を忘れて一気読みしてしまうだけのエンタメ性の高い作品であることは確かです。
いろいろと迷いはあるものの、結局闘いの中で最も生き生きする男・工藤兵悟の物語。

第2弾の『チェイス・ゲーム』では、傭兵時代の戦友であるアル・ソラッツォが、マフィアに追われ、工藤に助けを求めてきます。工藤はこれを断り、山岳ゲリラ戦を得意とするアルを、山中に逃したのですが、今度は彼が住処とするバー『ミスティー』のバーテンダーの黒崎と第1弾で工藤に助けられて以来、そのバーで働くようになった水木亜希子が人質に捕られ、マフィアからアルを3日間で探し出すように脅迫を受けてしまう。 
監視役のマフィア二人を伴ってアル追う羽目になった工藤を裏切り者として返り討ちにするアル。アルは追いかけっこを楽しんでいる様子で、工藤と二人のマフィアを片付けようとはしない。マフィアがアルを追う理由は何なのか、工藤はアルを捕まえて人質を解放できるのか。
一方、『ミスティー』に軟禁状態になっている黒崎と水木亜希子もただ大人しく待っているばかりではありません。こちら側の見張り役を担っているマフィアたちも一枚岩ではなく、それなりの騒動が起こります。



第3弾の『バトル・ダーク』では、国際ジャーナリストの磯辺良一が誘拐されます。自身の著書である『イスラムの熱い血』のせいで、イスラム組織を名乗る犯人たちから死刑宣告を受けるものの、なぜか暗殺ではなく誘拐され、百万ドルの身代金が出版社に対して要求されます。磯辺を警護していた傭兵時代の旧友ウォルターから、人質の救出を依頼された工藤兵悟は、最初は断ったものの、結局引き受けて警察とは別に独自の捜査を始めます。
警察は対誘拐犯マニュアルに従って捜査し、犯人の検挙と人質の救出を第一に考えており、その方法が国際テロリストには全く通用しないというウォルターたちの見解を全く認めないという頑迷さを発揮し、磯部の監禁場所を包囲して大きな犠牲を出してしまいます。
工藤は十分な武器を調達してから、『ミスティー』のバーテンダー・黒崎と水木亜希子を後方支援として磯部の監禁場所へ向かい、戦いのプロである敵と壮絶な戦いを繰り広げることになります。
「特殊防諜班」シリーズでも登場した退役軍人で秘密裏に武器商を営むラリーがここでも武器と情報の提供者として登場します。シリーズを跨ぐ安定の脇役ですね。


17年後に出た続刊の『デッド・エンド』では、時代は変わって、『ミスティー』は店をたたみ、工藤はマンションを買って独り暮らしし、相変わらずボディーガード業を営んでいますが、警備の仕事自体も減っており、懐具合がかなり厳しい状態。
そんな時カジンスキーというロシア人から高報酬の仕事の依頼を受ける。その内容は、工藤の同僚兵士だったマキシムを殺した敵からカジンスキーの命を日本滞在中の3~7日間だけ守りぬけというもの。マキシムが殺されるような敵に自分が対峙できるのか年をとった工藤は躊躇するもののボディーガードとしてのプライドを賭けて仕事を真っ当しようとします。
その敵とは、『曙光の街』シリーズのヴィクトル。彼の襲撃を3回防いだ後、ヴィクトルの方から工藤に接触し、驚くべき情報を提供する。ヴィクトルの真の意図は何か?
『デッド・エンド』は以前の3巻よりも格段に面白いストーリー展開です。戦闘シーンもそちらの専門家に言わせれば、かなり磨きのかかったもののようです。私は戦闘シーンは深く考えずに軽く読み流してしまい、ストーリー展開とキャラ描写を楽しむ方なので、判断しかねますが。

ヴィクトルの登場する『曙光の街』シリーズは未読なので、近いうちに読もうと思います。
今野敏は多作なので、なかなか作品を制覇できませんね。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

安積班シリーズ

隠蔽捜査シリーズ

警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ

ST 警視庁科学特捜班シリーズ

「同期」シリーズ
横浜みなとみらい署 暴対係シリーズ

鬼龍光一シリーズ

奏者水滸伝

マル暴甘糟シリーズ

その他

書評:今野敏著、『時空の巫女 新装版』(ハルキ文庫)

2022年11月05日 | 書評ー小説:作者カ行

1998年の作品である『時空の巫女』は、核爆発と核の冬の予知夢を見る超能力者たちと彼らの研究並びに地球滅亡を防ぐ方法を探ろうとする研究者、親会社の社長直々の命令で現場に戻って新人アイドル発掘に奔走する原盤製作会社社長の飯島、そしてかつてネパールの生き神様「クマリ」だったチアキ・チェス、予知能力があると思われるAVに出演していた池沢ちあきの2人の「チアキ」たちが織りなす「SF風世紀末ミステリー」と呼べるような作品です。
普通の人間は時間が一定方向にしか流れていないように認識していますが、人が何かを選択するたびに世界が分かれて行くというパラレル・ワールドを示唆する量子物理学の理論があり、4次元のいわば「神」の視点から見れば過去も現在も未来もたくさんのバージョンが同時に存在しているという時空の考え方に着想を得た作品の世界観は、SF的であると同時に宗教的です。
今野敏の警察小説やハードボイルド小説のファンには受けが悪いのではないかと思われる小難しい世界観で、人知れず世界滅亡の危機を未然に防ぐストーリーです。
私は著者の神秘的・宗教的な作品もSFもわりと好きなので、違和感なく完読できました。エンターテインメントとしては平均的な作品という印象を受けました。スケールが大きいストーリーであるがゆえに、キャラクターの深掘りが不十分で、後の作品群と比べると登場人物たちの魅力が乏しいように思えました。作者も若かった、ということでしょうか。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

安積班シリーズ

隠蔽捜査シリーズ

警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ

ST 警視庁科学特捜班シリーズ

「同期」シリーズ
横浜みなとみらい署 暴対係シリーズ

鬼龍光一シリーズ

奏者水滸伝

マル暴甘糟シリーズ

その他

書評:結城光流著、『少年陰陽師 現代編1-2巻』(角川ビーンズ文庫)

2022年11月05日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『少年陰陽師』の現代版第1巻『近くば寄って目にも見よ』は、1000年の時を超えて本編で関わり合った人物たちと同じ名前を持つ子孫たちが前世の縁に手繰り寄せられるかのように関わり合っているという設定で進められる短編集です。
安倍清明の式となった十二神将たちは相変わらず安倍家に仕えており、安倍家は相変わらず陰陽師を生業をしているのですが、現代は闇も薄くなり、妖もけた外れの強いものは少ないので、昌浩たちは比較的平穏な生活を送っています。
元は特別企画の『パラレル現代版』だった世界は大量の書下ろしを加えて一冊の本になったそうです。



第2巻の『遠の眠りのみな目覚め』では、本格的に長編で、女性を夢に誘い生命力を奪うという化け物が登場します。やがて見鬼の才のある藤原顕子もその化け物に取り込まれそうになり、昌浩が救出に向かうのですが、相手は現代稀に見る桁外れの力を持つ化け物で、決定的な対抗策が見つかるのかどうかが見せ場です。
そして次巻に続く。。。というお約束の終わり方をしています。2018年12月に出版され、早くも4年経ってますが、続刊が出ていないのが残念です。

本編の厳霊編も第5弾『まじなう柱に忍び侘べ』が出たのが2019年10月で、もう3年経過しているのが気になりますね。執筆活動を止めてしまっているのでしょうか。



書評:松岡圭祐著、『優莉凛香 高校事変 劃篇』(角川文庫)

2022年11月05日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『優莉凛香 高校事変 劃篇』は、つい最近完結した『高校事変』シリーズの主人公優莉結衣の妹凛香の物語です。本編では語られていなかった凛香の日常や思いなどが綴られています。
時間軸は本編の田代勇次が大量の武器をもって日本に上陸作戦を行う手前(本編IX)の辺りです。
彼女がどういう思いで姉の結衣を殺そうとしたり、それが叶わなかった後、どういう思いを姉に抱いていたのか、彼女の複雑な憧れや孤独感、期待と失望、どうせダメだという諦念と自己嫌悪。様々な思いを持て余して自棄になりつつも、純粋なものを自分のせいで汚したくないという良心や守りたいという正義感は結衣と通じるものがあります。
激しい「中2」生活を送った凛香の幸せを願わずにはいられない、そんなスピンオフの物語でした。




にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

歴史小説

推理小説 
水鏡推理シリーズ

探偵の鑑定シリーズ

高校事変シリーズ

千里眼シリーズ


万能鑑定士Qシリーズ

特等添乗員αの難事件シリーズ

グアムの探偵シリーズ

ecritureシリーズ

JKシリーズ

その他

書評:澤村御影著、『准教授・高槻彰良の推察8 呪いの向こう側』(KADOKAWA)

2022年11月05日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

商品説明
年末、憂鬱な気分で実家に帰省した尚哉。複雑な気持ちを抱えながらも、父と将来の話を交わす。翌日、散歩に出た先で、尚哉は小学校時代の友人の田崎涼と出会う。何気なく民俗学研究室や高槻の話をすると、後日高槻の元に涼の兄から相談が。勤務先の小学校で「モンモン」という正体不明のお化けの噂が立ち、不登校の児童も出ているという。怪異大好きな高槻は喜ぶが、その小学校は苦い思い出が残る尚哉の母校で――。(第一章 押し入れに棲むモノ)
「幸運の猫」がいるという旅館に、泊まりがけで出掛けた高槻、尚哉、佐々倉。何故かスキーをすることになり、大いに戸惑う尚哉だが、高槻と佐々倉に教えてもらい、何とか上手く滑れるように。休憩所で宿泊客たちと歓談していると、うち一人が「昔会った雪女を探しに来た」と言い――?(第三章 雪の女)夢で死者に会う!? 雪山で高槻と尚哉が見たものとは――。異界に魅入られた凸凹コンビの民俗学ミステリ、未来を望む第8弾!

この商品説明に入っていない第二章は「四人ミサキ」というタイトルで、小学校時代に仲の良かった女子4人グループの1人で予知夢を見るらしいミサキが病死し、その後しばらくして4人グループのもう1人が事故死し、3人目が「四人ミサキ」の絵を受け取り、4人目はまだ何も受け取ってないものの、「次は自分かも」と怯えて高槻に相談をしに来る話です。この話が一番『呪いの向こう側』というこの巻のタイトルに相応しいエピソードと言えます。
話運びからして、死んだミサキが「ずっと一緒にいよう」と子どもの頃にした約束を果たしに昔の友だちを道連れにしようとしている呪いのように思えます。3人のうちの1人はミサキと同じマンションなので小学校卒業以降もずっと近所付き合いがあったのですが、あとの2人は疎遠になってしまい、ミサキに対して後ろめたい罪悪感を抱いていたことが恐怖を増幅させてしまったようです。つまり、ネタバレになりますが、本物の怪異ではありません。

それに対して第一章と第三章は、本物の怪異で、特に第一章の押し入れに棲むものはかなりやばいもののようです。

もう1人の高槻彰良が登場する頻度が高くなっているようですが、その正体はまだ不明です。いつかその正体も解明されるのでしょうか?今後も目が離せませんね。