飛騨山系の登山ルートを大きく外れた原生林の中で「ミュウ・ハンター」の日系人シド・アキヤマが苦戦しているシーンから始まる『最後の封印』は、レトロウイルス流行後の世界を舞台にしたSF系ハードボイルド小説です。
「ミュウ」というのは謎めいた存在で、レトロウイルスの進化形、HIV-4に感染した母親から生まれた子供たちを指している。額の瘤が特徴で、生まれながらに「第三の目」と呼ばれる持つ特殊能力を備えているため、社会への適応力を欠き、悪魔が人間の腹を借りて生まれたと言われおり、そのミュウを狩るミュウハンターを雇う組織がいくつもある。そして、このミュウハンターたちを排除し、ミュウを保護する組織〈デビル特捜(スペシャル)〉。そのどちらもミュウたちが本当はどういった存在なのか知らない。
そんな中アキヤマは遺伝子工学の研究者でミュウたちを助けようとする飛田靖子に出会い、「ミュウは紛れもなく人間だ」という主張に興味を持ち、詳しく話を聞こうとする。
アキヤマは状況を総合的に判断するため、デビル特捜の正体も探ろうとしますが、元傭兵の彼は戦闘には長けていても情報収集には疎いため、飛騨山系の戦闘で助けてくれたかつての傭兵仲間で同じくミュウ・ハンターをしているジャック・”コーガ”・バリーという甲賀流忍法を修行したアメリカ人と手を組むことにします。
もう1人、チベット仏教の高僧からミュウ・ハンターに転身したらしいギャルク・ランパ。彼はミュウたちの逃亡先によく表れ、デビル特捜と闘いはするものの、他のハンターのようにミュウを殺さない。彼がミュウたちを追うのはどうやら宗教的な理由らしい。
一方、極秘裏に組織された『厚生省特別防疫部隊』の隊員たちは主に自衛隊からの出向者たちですが、正式な隊員は隊長の土岐政彦と一見場違いな二人。一人は70歳を超えた中国人の東隆一。東洋医学の大家である一方で中国武術の達人。もう1人は外科医でメスを手術だけではなく武器としても使う白石達雄、27歳。知新流手裏剣術の使い手。特別防疫部隊の責任者の敷島遼太郎が医療に詳しい者が作戦に必要と考えて召喚したのでした。彼らはミュウ・ハンターたちと全面的な戦いのために組織された実働部隊とはいえ、ミュウ・ハンターたちを雇う組織や人間のことも、ミュウ自体についても詳しい情報をもらっていなかったので、独自に可能な範囲で調べようとします。
さらにミュウ関係の様々なことを追うアメリカ人ジャーナリスト、デニス・ハワードも日本へ入国。
それぞれの立場や任務がどのように絡み合っていくのか、そして最大のミステリーである「ミュウ」とはどういう存在なのか、なぜ彼らは同時期に一斉に、病院や収容施設を抜け出そうとするのか。
謎解きがやや複雑なきらいはありますが、ストーリー展開の牽引力は大きく、話に引き込まれますが、結末は、ミュウに関する限りあまりすっきりとした謎解きになっておらず、疑念が残ってしまうのが残念ですね。
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