『ダ・ビンチ・コード』などの原作者ダン・ブラウンの2001年に発表されたテクノ・スリラーとやらが、この『Deception point』。日本語訳のタイトルも『デセプション・ポイント』(角川書店)のままのようですが、個人的に日本語のタイトルとして『欺瞞』を推したいですね。私が読んだのはSimon + Schuster社の電子書籍版(2006)です。
それはともかく、ちょっと副業の翻訳が忙しかったせいで、読むのに大分時間がかかってしまいました。原文で読んでるので、日本語よりも時間がかかるというのもありますが、話の内容にも関係しています。
プロローグが何を意味しているのかが分からないのはまあ普通のことですが、『デセプション・ポイント』はそれ以上に話が見えてくるまでにかなりの時間を要します。前置きがとにかく長いと私は感じました。主人公はアメリカ国家偵察局(NRO)の職員であるRachel Sexton。彼女はいわば大統領のために働いているようなものです。ところが彼女の父親Sedgwick Sexton上院議員は大統領候補で現職大統領とは対立する立場にあります。プロローグの後のストーリーはこの親子の対面から始まります。SextonはNASAが予算を喰い過ぎていて、近頃は失敗続きで、碌な成果を出していないことをやり玉に挙げて、選挙キャンペーンを張り、一方現職大統領Zachary HerneyはNASAサポーターで、つい最近も諸外国が手を引いてしまった宇宙ステーションのために追加予算を許可したばかり。Sextonの攻撃の格好の餌食となっています。それなのに彼の身内が大統領のために働いているのは都合が悪いということで、娘を説得しようとしますが、彼女は母親の死以来父親とは不仲で、しかも自分の職を誇りに思っており、彼女の上司William Pickeringのことも尊敬しています。この上司はNASAのせい(?)で娘を亡くしており、NASAにはいい感情を持っていません。
等々重要な伏線には違いないのですが、こういった状況説明・人物説明がかなり続くのです。Rachelが父親と会談した日に出勤したら、当の大統領から個人的に呼び出しがかかっていると上司に知らされ、あれよあれよという間に何かに巻き込まれていくわけですが、一体何に巻き込まれているのか、つまりNASAの北極での隕石発見とどうやらその隕石に化石化した生物がみつかった、という世紀の大発見が明かされるまでにも相当のページ数がさかれています。そしてようやくそこに辿り着いても、まだプロローグの特殊部隊らしいDeltaチームとの関連性はほぼ見えないのです。
そういう意味で前半部は結構読むのが苦痛です。後半部になってようやく「ラングドン」シリーズでお馴染の追われる・命を狙われるスリル感と謎解きの組み合わせを堪能することができます。びっくりなどんでん返しもあります。なんとラブストーリーもあります。なので、後半はページを繰る手が止まらない(といっても電子書籍では物理的には不可能ですが)感じでした。
話運びはやはりこの後の作品群「ロバート・ラングドン」シリーズの方がいいですね。