松岡圭祐の『水鏡推理』第6弾です。これは紙書籍と電子書籍が同時発売だったので、電子書籍の出版を待つことなく入手できました。
テーマはずばり【過労死】です。実にタイムリーな話題ですね。某大手の広告会社の新人女性が過労のために自殺をして、彼女のツイッター投稿が遺書になってしまった事件を会社名こそ変えていますが、そのままストーリーに組み込んでます。
文科省研究公正推進室の末席事務官水鏡瑞希は、あまり総合職らしくない須藤誠と共に過労死のリスクを数値化して予防できる画期的新技術「過労死バイオマーカー」の評価を担当することになります。厚生省肝いりの研究で、前年の春に省庁職員が健康診断のついでに睡眠を計測するなどのデータ取りに協力させられたものだとか。瑞希はその数値データと、実際にその後に過労死している3人の公務員の実例を探ろうとします。その一環として、例によって例のごとくとんでもないものを掘り起こしてしまうことになります。
タイトルの「クロノスタシス」は急に時計を見ると秒針が止まっているように錯覚する時のような、視点移動にかかる時間的を脳が埋めようとする現象を指しています。疲労度を測る位置方法のようです。秒針が止まって見えるのが「正常」です。一瞬止まって見えなかったら大分疲れがたまっているらしいです。
当の瑞希ちゃんも睡眠障害に陥っているにもかかわらず、必死で「過労死バイオマーカー」の調査に取り組みます。
今回は専門用語など科学的な説明が比較的少ない上に、テーマがタイムリーで身近なため、非常に読みやすくまとまっています。作者の「過労死」という社会問題に対する考え方を反映しているらしく、非常にメッセージ性の高い作品になっています。その分ミステリー色は少なくなっていますが、それでも十分に「謎」があり、「転」があるいい小説だと思います。